110 猫の温泉
『カナ、カナ、パンですよー、おきて―』
「はっ……もうあさかー」
『カナ、カナ、パンちょうだーい、おきなさーい』
フフッ、おきなさいって……。
『カナ、カナ』と、またリトくんが言おうとしたのを遮って、
「リトくん、おはよう。もう起きたよー」と、かなえはベットから出て、居間に向かう。
「はい、リトくん、どれにする?」と聞くと、
『ぼく、ツブツブパンがいい!』と、リトくんが選んだのは中心に近い、雑穀のキヌアが入ったパンだ。
リトくんにパンをちぎってあげると、あっという間に食べてしまう。
『おいしいなー! ツブツブパン』
テーブルの上でぴょんぴょん跳んでいる。
満足したのか、リトくんは窓からピーちゃんのところへ、スーッと飛んで行く。
かなえは朝の支度をすませると、牧場へジャンプで移動する。
「おはようございます」
『ああ、おはよう』
『おはようございます』
ジジさんも、ババさんも何か言いたそうにしているが、かなえがしゃべるのを待っている感じだ。
……そうか。
「あのー、温泉の事はまだ聞いていないんです。あの二人は出掛けていて今日の夜には戻って来るので……」
『そうかい、わかったよ』
『そうなの、じゃぁー良い返事を待っているわね』と、ババさん。
かなえは一緒にアニマルドームの砂浜に移動して来ると、2頭がエスカで昇って行くのを見ながら「どうしようか……」と考える。
ジジさん達も早く牧場に温泉を造って欲しい、牛達との事情があるんだろう。
今日中にメラニーさん達に聞けたら聞いて見よう。
かなえはジミーさんの庭に移動し、テーブルの上にウオッシュを掛け準備していると、ジミーさんが家から出て来た。
「おはようございます、ジミーさん。今日職人達とのミ―ティングは、お昼を食べてすぐに行きますけど、大丈夫ですか?」
「ああ、私は大丈夫だよ」と、ジミーさん。
しばらく二人で話して居ると、リリちゃんが走って来た。
「すみませーん、遅くなりましたー」と、リリちゃんは急いだようで肩で息をしている。
「おはよう、リリちゃん。ララちゃんがいなくてグッスリ寝られたかな?」
「いいえ……なんかいろいろ考えてたら寝るのが遅くなってしまって」
「そうなんだ。急に一人になると、手持無沙汰になっちゃうよねー」
リリちゃんは頷いている。
「じゃぁー食べましょう」と、3人で朝食を食べ始める。
今朝は、厚みのあるワッフルにオクラやプロの実の入ったガンボスープ。
グリーンサラダに、ミックスフルーツとグラノラの入ったヨーグルトだ。
飲み物はバナナシェイクとピーチティー、ジミーさんにはカプチーノにした。
かなえは食べながら、牛達に『牧場に温泉を造って欲しい』と言われていると二人に話す。
「そうですかー、温泉に入る動物と入らない動物では、見かけが違って来ますからねー。匂いに敏感な動物ならすぐにわかるでしょうね」と、リリちゃん。
毎日ドームシティーの温泉に通っているから、リリちゃんも詳しくなっている。
「ほー、そうかい。それならなおさら、温泉には行ってみないとな」と、ジミーさん。
食べ終わると、リリちゃんはルルちゃんと待ち合わせをしているそうで、すぐに帰って行く。
ジミーさんは仕事場へ、かなえは子猫達とバニーちゃんの様子を見に行く。
子猫達とバニーちゃんはシャワードームで『ギャー』『いくぞー』と、大声で騒ぎながら飛び跳ねている。
すると、様子が気になったのかクーちゃんが自分の小屋の方から歩いて来た。
「あっ、クーちゃん。子猫達が騒がしかったー?」
『まぁーね、他の猫達も気になっているみたいだから、その内見に来るんじゃないか』
「そう? うるさいようなら、何か対策を考えるけど?」
『私らは大丈夫さ。静かで何も音がしないより、騒いでいるぐらいの方が良いさ』と、シャワードームの中の子猫達とバニーちゃんの様子を眺めている、クーちゃん。
飼い主や仲間が光に帰り、自分達も光に帰る一歩手前まで行った猫達にとって、子猫達の騒がしい声はかえって刺激になるようだ。
体調が良くなったら、心のケアも必要だな……。
「そうだ!」
今日は猫達の温泉を庭に造ろう。体力促進や癒し効果のある湯に入ってもらえたら、回復も早まるだろう。
「クーちゃん、あとであなた達の庭に良い物を造るから、楽しみにしててね」と、言うと、先に仕事をしに牧場へ向かう。
「さぁー、さっさと掃除をしてしまおう!」
かなえは牛舎の中へ入って行くと、順番にウオッシュを掛けて行く。
今日はいつにも増して、スピーディーに掃除をして牛舎を終わらせる。
すぐにスクーターを出し、牛舎の屋根やメラニーさん達の家や、ジョーさんの作業場に離れにもウオッシュを掛けて行く。
屋根の傷んでいた部分がどんどん元の状態に戻って行く。
よーし、これでいいな。
かなえは牧場に来ると、順場にウオッシュを掛けて行く。
全て終わらせると、アニマルドームの動物達の小屋へ向かう。
いつもの様にクイーンの小屋からリキさんの小屋まできれいにする。
リキさんの小屋はまたここに来てもらうつもりなので、そのままにしておく。
次に牧草地や、プロの実の沢山植わっている所にもウオッシュを掛け、山を1合目から頂上まできれいにして行く。
頂上が終わり、山の上の温泉までウオッシュを掛けると、シャワードームへ向かう。
今日も、動物達は楽しそうに、飛んだり跳ねたり浮かんだりしている。
かなえはウオッシュを掛けながら動物達の様子を観察する。
「シロン、昨日思ったんだけど、メラニーさん達を迎えに行く時に、馬車で行く事は出来るの?」
「はい、かなえの乗り物リストに馬車も幾つか取り揃えています。今日の場合は馬車『中』が、良いでしょう」
そうか、馬車があればそのまま迎えに行っても怪しまれないな。でも……、
「馬車って馬も一緒に出て来るって事?」
「荷台の部分は本物ですが、馬は映像で表示されます」
「えっ? それって映像だとバレちゃうんじゃない?」
「でしたらここに出して見ましょう」と、突然目の前に、立派な2頭立ての4輪馬車が現れた。
馬は足踏みをしたり体を動かし、まるで本物みたいだ。
「わぁーきれいなお馬さんねー」と、かなえが馬に近寄って行くが、特に反応は無い。不思議と近くで見ても全く映像には見えない。
「いかがですか? 実際は御者台で、かなえが馬車を操って下さい。操縦方法は全てカーペットやスクーターと同じです」
「へー、それなら馬車で空を飛ぶことも出来るの?」
「はい、もちろん出来ます」
そうか……この馬車があれば飛んで行くか、ジャンプで側まで行ってから地面を走って行けばいいんだな。
「シロン、この馬車を使わせてもらうわ」
「はいわかりました」と、言うとスッと馬車が消える。
シャワードームにウオッシュを掛け終わると、猫達の庭へジョンプして行く。
よーし、次は温泉ね。
かなえは地図を出して、猫の庭を表示させると温泉のフォルダを開ける。
なんだか、前よりも温泉の種類が増えている。
女神さまがたまに、フォルダに追加している様だ。
まぁー、便利だから助かるけど……。
かなえはリストから見つけた「猫の温泉」を庭の湖側に設置してみる。
大きな半透明の球の形の中に浅い湯船が付いている。手前は浅く奥に行くにつれて深くなっているが一番深くても40センチぐらいだ。
まず広くて丸い休憩場を設置する。
素材は雲のようフワフワにして……、
その周りに猫の温泉を二つ設置する。
一つ目の温泉に体力促進、癒しの効果を付ける。
その隣は泡風呂「弱」と毛並みを良くする美容効果を付ける。
次に、子猫達のより、一回り大きいシャワードームを造る。
元気が出て来たら、遊びたくなる猫も出て来るだろう。
そして、入口にトンネルシャワーと、出口に温風トンネルを付ける。
半透明だと中の様子が見えないので透明にし、中の温度は暖かくしておく。
温風シャワーから出て来たところにも、休憩場を造りキャットタワーの台を階段の様に設置する。
そして夕方になると床と温泉が弱めに光るようにしておく。
最後に全体に自動浄化装置を付けて……、
さぁ―、これでいいな。
早速試してもらいたいけど、クーちゃんはどうかな。
かなえは小屋の入口に行くと、クーちゃんに声を掛ける。
「お待たせ―、温泉が出来たから試して見てくれる?」
『はっ? あんた何言ってるんだい。あたしゃ子猫達みたいに飛んだり跳ねたりする元気はないよ』と、クーちゃん。
「違うよ。温泉はあったかいお湯に入いってゆっくり疲れを取る所だよ。体調が良くなるから試して見て!」
まぁー、シャワードームも設置してあるが今は良いだろう。
『あんた、あたし達猫がお湯の中になんか入るわけ無いだろう!』
そうか……。お湯の中に入る習慣が無いと嫌よね。
どうしよう……。
「シロン、何か猫達に温泉に入ってもらえる方法は無いかな?」
「そうですね、それでしたら猫達が慣れるまで温泉の中に弱くマタタビの香りを付けておけばいいでしょう」
「そう? でも変にクセになったりしないかな?」
「ごく少量を空気中に混ぜましょう。温泉の気持ち良さがわかればマタタビは必要なくなるはずです」
うーんそうか。
「わかった、それならお願いできる?」
「はい、準備出来ました」
とはいっても、温泉の中の匂いはクーちゃんのところまでは来ないだろう。
かなえはジャンプで温泉の休憩場に移動し、手の中にマタタビの交じった空気を入れてクーちゃんのところへ戻って来る。
「クーちゃん、これは温泉の中の匂いよ。嗅いでみて?」
そう言いながら、かなえはクーちゃんの前で手を開くと……、
『はぁー、何だい、この香りは?』と、クーちゃんはかなえの手の中に鼻を押し付けて来た。
「フフッ、いい香りでしょー。あの温泉に入ったらこの匂いがするのよ」
『そうかい……ちょっと様子を見て来ようかね』と、クーちゃんは早足で温泉に向かう。
かなえも後を付いて行き、
「クーちゃん、ここが入口よ。中に入るとお湯が出て来るけどサッパリして気持ちい良いよ」
『それは嫌だけど、ここからあの香りがするよ』と、クーちゃんはトンネルシャワーの中に入って行く。
「シロン、あまり強い香りにしないでね」
「はい、もう匂いを付けませんので、もうしばらくすると消えるでしょう」
トンネルシャワーの中から『ギャー』『ワァー』と、クーちゃんの声が聞こえて来る。
しばらくすると、ビショビショでよれよれになったクーちゃんが、中へ入って行く。
鼻をヒクヒクさせて、空気中の匂いを嗅いでいるようだ。
でも、温泉のお湯の中には入って行かないなー。
「シロン、空気中の匂いを全て消してお湯の中にマタタビの成分を入れられる?」
「はい、わかりました」と、シロン。
すると、空気中の匂いを嗅いでいたクーちゃんが、後ろの温泉の方へ行き、お湯の匂いを嗅ぎだした。
あっ、上手く行ったかな。
クーちゃんは、一歩づつ匂いを嗅ぎながら湯船の中に入って行き、とうとう首の下まで浸かってしまった。
「やったー! 大成功!」
クーちゃんは湯船の中に座り、気持ちっ良さそうにしている。
その方法で隣の泡風呂にも誘導し、クーちゃんを湯船に浸からせることに成功する。
もうクーちゃんは気持ち良さそうで今にも寝ちゃいそうだ。
「クーちゃん、もうそれぐらいで出て来て。こっちの温風トンネルから出てね」と、クーちゃんに声を掛ける。
とてもシャワードームまでは勧められないな。
かなえは出て来たクーちゃんに、
「どうだった? 温泉気持ち良かったでしょー?」と聞くと、
『……ああ、こんな気分は初めてだよ。ポカポカしていい匂いで眠くてたまらないよ』と、クーちゃんは温風トンネルの外のキャットタワーの台に横になると、すぐに眠ってしまった。
「シロン、クーちゃんの体調は大丈夫?」
「はい、温泉の効果で大分体力が快復したようです」
あー良かった! これで、クーちゃんが他の猫達に勧めてくれたら、みんなも入ってくれそうね。
「かなえ、そろそろお昼です」
エーッ! 急がなきゃ。
かなえはジミーさんの所へ移動して行く。




