010 不動産見学
『おはよー、あさだよー』
「はっ? 何!? かなえは耳元で声がしてビックリして飛び起きた」
『カナ、カナ、パンちょーだい』
リトくんが枕元にとまっていた。
「なんだ、リトくんかー。驚かせないでよ」
「リトくん、心臓に悪いから、起こすときは小さい声で、離れたところからにしてね」
『うん、わかった、カナ、カナおどろくだめ』
「そうよ」
起き上がりポーチから昨日の残りのパンを出し、リトくんにあげた。
かなえはシャワーを浴び、朝ご飯を済ませ部屋に戻って来た。
リトくんは毛繕いをしているようだ。
今日は何をしようかなー……そういえば、早く部屋を見つけないといけないんだっけ。
牧場の事はまだ決められないが、このドームシティの部屋もどんなものがあるか見てみたい。
「シロン、ここではどうやって部屋をみつけるの?」
「この世界では、みな自分の部屋が与えられます。もしかなえが牧場に住むなら、そこがかなえの居場所になりますし、そうでなければドームシティーで部屋を見つけることができます」
うん、まぁーそうなんだろうけど……。
「なら、どこへ行けば部屋を見れるの?」
「不動産ギルドに行けば一通りの物件を紹介してくれます」
なんだ、こっちにも不動産屋さんがあるのね……。
「じゃー不動産ギルドの場所を教えてくれる?」
すると、地図に不動産ギルドの場所が表示される。
「えっ、ここだとハローギルドに近いわね」
先にハローギルドに行ってちょっと相談してみよう。
ジャンプでリトくんを公園まで送った後、ハローギルドまでやって来た。
受付の黒髪のお兄さんに、昨日のミルクドームでの事を話し悩んでいること。また、住むところを探していることを伝えた。すると……、
「そうなんだ。事情はわかったよ。要するに、牧場には興味はあるけどドームシティーにも住んでみたいってとこかな?」
「えっ!……まぁ、はい、そうです。」
そうか、わたしドームシティーに住んでみたかったんだ……言われてみて気が付いた。
「昨日あれからスミスさんに連絡をもらってね、かなえさんの事をとても褒めていたよ。何でも牛を助けたんだって?」
助けたって、そこまで大げさじゃないような……。
「いい考えがあるんだけど……ドームシティーで動物ギルドをやってみない? 動物専門の依頼をこなせる人を探していたんだ。牧場の世話をしながら、時間があるときに動物ギルドに来ればいいんだよ。人が足りなければ派遣してもらえるし。そうすればドームシティーにも家を持てるよ。どう?」
……うーん、どうしよー。移動はジャンプがあるから問題無いとしても、忙しくなりそうだな……私に出来るかな?
「あのーマーブルトークは使えるんでしょうか?」
やっぱり連絡手段が無いと不便だもの……。
「もちろん。動物ギルドを始めれば支給されるよ」
「興味があるなら、動物ギルド用の物件があるか聞いてみたらどうかな」
そうか、見るだけでもいいんだし、行ってみようかな……。
「はい、じゃーこれから不動産ギルドに行ってみます」
「そう、良かった。場所はわかる?」
「はい、ここから近いので大丈夫です。お世話になりました」
かなえはハローギルドを出ると不動産ギルド向かった。
ここかな?
ハローギルドから5分ぐらい歩くと……、
鉄と真鍮でできた看板の中心に、家のマークが付いていて「不動産ギルド」と表示されている。
どうやらここみたいだな……。
建物の中に入って行くと、内装はハローギルドにそっくりな感じだ。
正面にカウンターがあり、左に背もたれの無い椅子、右側には掲示板に張り紙がしてある。
列に並んでいる人、坐っている人や掲示板を見ている人など、10人以上の人がいる……。
結構人がいるなぁー。
かなえは掲示板の張り紙の所に歩いて行き物色し始めた。
一部屋から五部屋ぐらいが多く、バストイレも一つから三つ付いている物件もある。
一階が店舗で二階が住居もあるんだ……。
動物ギルドにはどれがお勧めなんだろう。
かなえは、張り紙を順番に眺めていると、
「ちょっと、そこのあなた!」とかなえに声をかけてくる人がいた。
「あなたハローギルドから来たんでしょ? ちょっとこっちに来てくれる?」
その人はカウンターの受付のいる、鮮やかな赤いドレスの30前後の女性だ。
受付に並んでいる人は途切れたようで、かなえはカウンターのその女性の前に歩いて行く。
「あなた動物ギルドの物件を探しているんですって?」
……ハローギルドの人、連絡してくれたのかな?
「は、はい。そうです」
「あなた、運がいいわね。ちょうどいいのがあるのよ」
「えっ、そうですか!?」
……どんな部屋なんだろう。
「この物件はね、人気のグリーンパークの前よ。一階を動物ギルドにして二階に住めばいいわ。見に行くなら鍵を貸すわよ」
「でも、あのー家賃はおいくらになるんですか?」
そんな、店舗付きの住居なんて、普通より高いだろうし……。
「あら、あなた知らないの? ここ、ドームの物件は家賃が掛からないのよ。どうする? 早く決めないと他の人に勧めちゃうけど」
「それじゃー、見学に行きたいです」
家賃が掛からないってどういう事だろう……?
かなえは鍵を預かると、物件を見に行く。
「15N5番パーク通り」かー。
地図を見ると、結構近いので歩いて行く。
まず、北通りまで出てグリーンパークの先の5番パーク通りまで行けばいいのね……。
5番パーク通りで左に曲がってしばらくいくと、建物の前に「15」のマーク。
「ここだわ!」
見た目は他の周りの建物と同じで、レンガ造りの二階建て。看板は中が空洞でフレームだけが掛けてある。
かなえは、鉄の蝶番の付いた扉の鍵を開けると中に入って行った。
中は木のフローリングで、壁は白の漆喰の様な物で塗られている。北向だが窓が大きいので十分明かりは入って来る。それに、窓からの公園の緑が目にやさしい。
ハローギルドや不動産ギルドより狭いが、かなえには丁度良い大きさだろう。奥に入って行くと、二部屋とバストイレ。それに簡易キッチンカウンターがあり、お茶を沸かすぐらいなら出来そうだ。
もう一つの扉を開けると階段があり、二階と地下に行けるようになっている。
二階に上がって行くと、広い居間があり大きな窓からはグリーンパークの緑が一面に広がっていて……まるで広い専用の庭があるように見える。
贅沢な空間だなー。
キッチンの天井には天窓が付いていてとても明るい。
奥は二部屋とバストイレがある。
地下に降りて行くと、ほとんど二階と同じ造りになっていて、もう一家族住めそうな広さだ。部屋の上部の窓からは外の光も入ってくる。住居用の玄関が別にあるので、一階のギルド内を通る必要が無く、出入りがしやすい。
ここに、住みたいな……。
この建物に住んで、働く自分を想像するとワクワクしてくる。
ここなら他のギルドも近いし、リトくんのいる公園からは、グリーンパークを通って徒歩15分くらいだ。飛んだらあっという間だろう。
……よし、ここに決めよう。
かなえは、住むことに決めると不動産ギルドに向かった。
不動産ギルドに着き、赤いドレスの受付の人が、
「あら、あなた戻って来たのね。どうだった?」
「はい、気に入りました。住みたいです!」
「そう、良かった!」
それから幾つかの書類に記入し、仮契約の手続きを済ますと、
「後はオクタゴンのギルド科に行って許可証を貰ってきてくれる?」
そうなんだ……許可証がいるのね。
勝手に、誰でもギルドが営業できたら大変よね。やっぱり許可は必要か……。
「わかりましたオクタゴンに行ってきます」
かなえは外に出て、歩き始めるとお腹が空いて来た。
……どこでランチをたべようかな。
「シロン、どこかお勧めのカフェかパン屋さんはある?」
「はい」
地図が表示されると、いくつかお店があるのがわかる。
「この市場って何?」
「こちらでは野菜や、果物以外に、お総菜や、パン、飲み物の屋台も出ていて、ランチにはお勧めです」
「へー、面白そう……。それにここ、私が住む予定の場所から近いなぁ」
市場はグリーンパークの一角で行われていて、見学に行った家から歩ける距離にある。
決めた、ここに行こう……。
こっそりスクーターを出して……ジャンプ。
市場の側の木陰に着くとスクーターをしまい、市場に入って行った。
……うーんどれもおいしそうで迷っちゃうな。
公園の広場には、コの字型になって屋台が並んでいる。結構な人手でどこも繁盛している。
まず、焼きたてのパンがおいしそうだったので3個買った。
リトくんも喜ぶだろう。
わぁー具がたっぷりのチャーハンみたいなのがある。おいしそう……これにしよう。
それと飲み物は……あった! ピンクベリージュースを買い、カップに入った豆入りのサラダ。それとバナナマフィン。
かなえは近くにテーブルを見つけると食べ始めた。
……おいしーこのチャーハン。この世界に来て初めてのお米。カレー粉みたいなスパイスが合うなー。
おいしいランチを食べ終わると、せっかくなのでもう少し市場を見ることにした。
食べ物だけでなく、小物や服も売ってるようだ。
手作りのアクセサリーやポーチが並べられている。陶器の花瓶も種類があるので、引っ越したら少しづつ揃えるのも楽しそうだ。
食器や、小物入れなども使えそうだなー。
そろそろ行こうかな……。
リトくん用に買ったパンはポーチの中の買い物フォルダに締まっておく。いくらでも収納できるし、ポーチの中は時間が経過しないので、食べ物も新鮮に保てるようだ。
……今度おいしそうなものは多めに買っておこう。
出口の方に向かうと柵の所につながれている、ロバが目に入った。
「あれ? もしかしてあの時のロバかな?」
かなえはロバに近づき声をかけた。
「あなた、私の事覚えてる?」
『おぼえてる! ありがとー』
やっぱり、あのロバだった……。
「足はもう大丈夫?」
『うん、もう痛くないよ』
「そう、良かった」
ちゃんとほかの蹄も整えてある。
「どこか、他に調子悪いところは無い?」
『うーん……朝から目が痒いよ』
「そうなの? どっちの目?」
『右の眼だよ』
かなえは、ロバの目を見てみるとちょっと赤くなっている。
「あっ、まつ毛が入ってる……今、取ってあげるね」
かなえは、まつ毛を取り除くとロバ用の目薬をポーチから取り出し……、
「今、目薬付けてあげるから動かないでね」
ロバの右目に目薬をさしてあげた。
『目がすっきりする―』
「良かった、おじさんに目薬、渡しておくからね。おじさん、どの辺にいるの?」
『この道を右に行った野菜のテントのところにいるよ』
「そう、わかった。じゃー行くね。バイバイ」
『ありがとー』
かなえは野菜売り場ののテントに行くと、すぐおじさんをみつけた。
「こんにちは」
「あー、あなたは……、この前は世話になったね」
「いいえ、気にしないでください。あのー、今ロバくんにも会って来たんですけど、足は治ったみたいですね。でも目が赤くなっていたので、目薬をさしておきました。まつ毛が長いので気を付けてあげてください。この目薬をどうぞ。また、赤くなったらさしてあげてください」
「えっ、また治療してくれたのかい! ありがとよ。感謝するよ、お礼に野菜を好きなだけ持っていってくれ」
「あのー、ありがとうございます。でも、今日はまだこの後、行くところがあるので……今度近くに越してくる予定なのでまた顔を出しますね」
「そうかい、わかったよ。また来ておくれ」
かなえは笑顔で頭を下げると、その場を後にした。




