やってしまいましたね
涙に濡れた頬を撫でる風が、一瞬更に冷たさと鋭さを増した気がしたのは、気のせいだったのかもしれない。
スパンと跳ね飛ばされ、下にあった籠にボトリと落ちる軽い音。
まるで果物を枝から切り落としたような。
「あぁ、流石はコレッティアード王のご子息だわ。全く同じ道を歩み、抵抗もできないような良家の子女を意図も容易く殺しますのね」
クスクスと笑いながらそう言えば周りがざわつく。
それもそのはず、だって今首を落とされた公爵令嬢の娘と瓜二つの顔の私が首のない令嬢の体に腰掛けているんですもの。
悪霊だ悪魔だと騒がれても仕方ない事。
私は嘗てこの国に生まれ、そして殺された女。今首を失った娘は弟の娘、つまりは私の姪に当たりますの。
何の因果か、私と姪は婚約破棄をされました。
私は当時婚約者であった王太子、現在の国王に当たる方が愛した子爵家の令嬢を疎い、嫉妬に駆られてあの手この手と彼女を王太子の側から引き離そうと策を講じ、逆にそれが公爵令嬢に相応しくない行いだとして罪に問われ、首を切られそうになり。
姪はその子爵令嬢と国王の息子と婚約をしましたが、こちらは私の時とは違い、大勢の前でありもしない罪を問われそしてそのまま釈明の猶予も与えられずに首を落とされてしまいました。
何故、私に姪が無実だなんてわかるのか、という問いに答えるのは少しややこしくなります。
人には死と向き合って初めて己の秘めたる能力を開花させる者もいるのです。私もその類いだった。
婚約者と子爵令嬢により断罪を受け、みすぼらしい装いで処刑場に引き出された私は、振り下ろされた刃が首の皮を僅かに裂き肉に食い込まんとした時。
いきなり現れて私の全てを奪いさり、命さえも奪わんとする女の、口元が僅かに綻び歪んだのを見た。
そして激しい怒りを感じていたのです。
燃えるような怒り。我が身を、否、目に映る全てが憎らしくて憎らしくて、掻き消したくなって。
気付いた時には私は人ではなくなっていました。呪い(のろい)そのものになっていたのです。
私が触れたもの全てが死の狂いを受け、腐り、焼け爛れ、のたうち回り。
でも何故か恐ろしさや嫌悪感を感じず、とても晴れやかで、今まで感じた事がないほどに胸が高まりました。
こんなにも楽しい思いをした事はない、こんなにも嬉しい思いも、爽快だと感じたこともないとも思いました。
そうして私の処刑を楽しんでいた輩を散々に殺して回り、当然あの子爵令嬢も手にかけようとしましたが、彼女と婚約者だった男は私の手が及ぶ前に逃げ果せてしまっていて。
まぁ仕方ないですわね。高見の見物というような、王族のみ座れる安全な観客席に彼らはいたんだもの。直ぐに兵が駆けつけて逃がしてしまうくらい。
今手をかけられないと知りつまらないという思いと、ああでもこれでまた復讐するという快感が感じられる。そう私は彼らが連れてきた術師に封じられるまで思っていたのです。
封じられたのはまだ私が自身の力を解放して間もなかったという点。そして私を封じるに相応しい器が偶然にもあったという点が挙げられましょう。
弟は私より少し早くに結婚し、私が生まれ変わったあの日、丁度娘が生まれていたのです。
私の血に近い、穢れを含まぬ無垢な姪。
可愛い可愛い姪を見て一瞬目を奪われたというのも、もしかしたら関係があるのかもしれませんわね。
初めて会った時は騒動の中で、兵が親から引ったくり連れてきたという酷いものだった。
母親は動けなかっただろうし、父親である弟も私が見てそれが弟であるとわからないくらいに取り乱しながら赤子を取り返そうと叫んで喚いていた。
だから私もそれが誰の赤子なのかも認識できなかったけれど、私は確かにあの子に気を引かれた。
ただただ泣くばかりだったあの子が、無力で泣くばかりだった私に似ていると。そう感じたのかもしれません。
そして私はあの子の中で、共に生き続けてきたのです。姪と話しをする事などできませんし、私も私として動く事も、力を発揮する事もできなかった。
弟は私が彼女の中にいるという事に複雑な思いを抱いていたかもしれませんが、それでも一人娘たる彼女を邪険にしたり酷く扱ったりなどしませんでしたわ。
それは妻たる夫人も同じ。寧ろ哀れにも生け贄にならざるを得なかった彼女を哀れんで深く深く愛し、慈しんでくれた。
その二人の様はまるで在りし日の私の父と母のようで。
私は、私はとても温かな気持ちになると同時に悲しくなりました。
もう二度と両親には会えますまい。どちらも私の罪のせいで連座となり、私よりも前に首を落とされていたから。
弟は辛うじてお嫁様の家に婿入りしていたから助かった。
お嫁様は同じ公爵の家の方。しかも王家の血筋を引く家であった事が不幸中の幸いだ。
弟には肩身の狭い思いをさせてしまった。いつか謝れたなら。そう思っていた。
姪がすくすくと育ち、私は彼女の中で段々とその存在を薄れさせていく。
この温かな家族の愛の中、悪意を保ち続けるのは難しかった。
私も抵抗しようと思わなかった。あんな、あんな女と婚約者の事など頭から消して辛いばかりの現実から逃げたかった。
けれど。
再び起こった惨劇。
私を封じていた暖かな檻が、環境が、全てが崩れて私は再び外へと放たれた。
外の血腥い空気が鼻を通り、耳にはあの心踊る悲鳴に怒号。目に映るは首を失った姪と断頭台、そして姪と弟それに夫人をも殺した王子、平民の娘……。そして、そして……
「嗚呼、会いたかったですわ。王妃様。それに、国王陛下(元婚約者)様……」
どこの馬の骨とも知らない女に誑かされ、両親の居ぬ間に姪を殺した。その王子を生んだあの女が、その夫が漸く。そう漸く駆けつけたのだ。
もう何もかも終わってしまっているのに。手遅れなのに。
本当に愚か者どもだ王族(彼ら)は。
再び私を封じられる都合のよい器はもう存在はしない。
それに、私、知っていてよ。
あの時の術師は口封じの為に王家が処分してしまった事。
さぁ、あの時の再演を今果たしましょう。
補足……?キャラ設定かもしれません。いらないな、と思った方は読まない方がいいかもしれません。
☆叔母様(呪神なりかけ)
生前はパーフェクト令嬢でした。婚約者も政略的な婚約だけれどもそれなりに愛していた。ところが子爵令嬢に簡単にホイホイされてマジオコ。最初は取り巻きと一緒に注意、けれど子爵令嬢聞かずエスカレート。度々衝突したりとしているうちに階段での口論でこの泥棒猫!とうっかり手が出て突き落とし→殺人未遂だry→断罪→処刑となりました悪役令嬢さん。
☆姪ちゃん
弟夫婦の娘さん。両親に溺愛されちょっと我が儘になるも王子(婚約者)に一途。勉強は苦手だけど苦手なりに取り組むし、悪女やら何やらと悪名高い叔母の話を噂程度に知るがそれ以上は情報を制限され知らされておらず。自分の内にいるのも勿論知らない。ただ絶世の美女であったと言われる叔母に少し憧れを抱き美容に気を使う。気位は高いしツンツンしてるけど天然っ子。知らぬ間に罪をでっち上げられ断頭台送りになった可哀想な子。
☆国王
元祖俺様馬鹿。下半身緩い。息子に比べれば頭はいいがこいつが王になった途端国の情勢が待った無しで急下降。臣下にその罪をなすりつけ処刑しまくって余計に国をダメにしたり
☆王妃
元孤児→子爵家に養子→王子に恋→叔母(公爵令嬢)ちゃんとバトル→勝って王妃になるも馬鹿子のせいで悲惨な最後を迎える。ノット転生だけども私が一番可哀想でしょ?な性格の悲劇のヒロイン気取りちゃん。でもでもだってが口癖。
☆王太子
俺様馬鹿次代。頭も悪けりゃ性格も悪い。顔だけしかいいとこない坊ちゃま。思いこみが激しい。
☆平民ちゃん
転生者。やったヒロインだやほー!でちょっと空回りしすぎて破滅。姪ちゃん動いてくれないから自分で自傷したりいじめでっち上げたりと忙しかったアホ