♯3
サーーーー。
お風呂からシャワーの流れる音がする。
さっきの私たちの会話の中に泊まっていい?という言葉は出てこなかったけど、私の「悠んちいっていい?」=「泊まっていい?」なのだ!もともと泊まるつもりだったから、一回帰らずとも着替えは用意してある。夏だから軽装でいいし。ただ明日の教科書も持ってこないといけないのは辛かった。ものすごく重いし。
まぁそんなわけで寝る支度を全部済ませた頃。
「ねぇ悠」
「なに?」
悠はいつもはコンタクトをしているが、寝る前は外してメガネをつけている。メガネ姿も美人だなぁなんて思ったりー。
「私もベッドで寝たい」
「はいっ?」
「だってー、あんなもの見たら怖いに決まってるじゃん!」
「いや、同じ空間で寝てるわけだし怖くないでしょ。ってかあんたいつも上で寝てるし」
「じゃあ今日もお願いします!」
「どうせ言っても聞かないし」
「ありがとー!」
「そのかわり、いびきだけはかかないでね、ねれないから」
「う、ご、ごめんなさい」
話し合いの末、本日もベッドの上で寝る権利を勝ち取ったのだー。パチパチパチッ。
毎回この論争になるけど、結局悠が折れて寝させてくれるんだよね……。なんだか申し訳ないけど、怖いものはしょうがない。絶対夢に出てくる。記憶の片隅どころかど真ん中にこびりついて取れないよ。
でもまだ10時過ぎ。大学生どころか、高校生でも寝るには時間が早すぎるかな?
ということで始まったのが第二回ガールズトーク。男もこういう話するのかなぁ?真紀は絶対しなさそうだけど。っていうか女に興味あるのかな?
「そういえば悠って今まで彼氏いたの?」
「うん、2人いたよ」
「やっぱりね」
「まぁでも片方はあってないようなものっていうか」
「なんで?」
「中学の時だし2.3ヶ月だけだし」
「え、そーなの?やっぱ楽しいの?」
「うん、当時は楽しかったよ。まぁでも別れ方が良くなかったからあんまり良いとは言えないけど」
初めて聞いたゆうの恋愛模様。ってかやっぱりモテモテだったじゃん!!
「へー、どんな感じだったの?」
「向こうが違う人好きになったからって言われた。なんか私ばっか一生懸命になってるのが悔しくなったよ」
「そーなんだ……」
「まぁ今となっちゃどーでもいいんだけどねー、てかなんで心優がそんな顔してるのよ」
そう言って微笑む悠の顔はなんだか憂いが見えた気がした。
「あははー……ごめんごめん。もう1つの方は?」
「もう1つは高校の時だけど、そっちは1年半くらい続いたかな」
「へーいいじゃんいいじゃん!」
「あーうん、まぁ、いるのもいいけどいないのもいいよ」
その言葉に私は完全に頭にクエスチョンマークを浮かべた。彼氏ができたことのない私には憧れでしかないし。一緒に帰ったりデートしたり、あとキスしたりとか?
本当にそういうことをするのか気になったから悠にそういうことしたか聞いてみた。
「いや、それだいたいのカップルはしてるんじゃない?」
と笑いながら返された。
「うわー、いいなぁ。なんかそういう甘々なやつ」
「べつに心優が断わんなければいいだけじゃないの?」
「うーん、そうかなぁ。でも好きじゃない人と付き合ってもねぇ……」
「付き合ってから好きになるってこともあるからわかんないよ?」
「どーなんだろ」
「まぁ心優は自分がいいと思う人と一緒にいればいいんじゃない?」
「ほー、なるほど!」
なるほど!っと吹っ切れてみたはいいけどいいと思う人って誰だろ?真紀も一緒にいたいけど付き合うとかそういう恋愛感情ではないからなぁ。高木君はどうなんだろ?一緒にいて楽しいし、優しいし、また会いたいと思うけど、それが好きなのかなぁ。いや、決して同性愛者ではないよ!?女の子は好きにならないからね。
「じゃあさ、キスってどんな感じなの!?」
思い切った質問をぶつけてみた。
………。
あれ?
「悠?聞いてる?」
……………………。
返事が返ってこないので横を向いて顔を見てみようとすると、さっきまで上を向いていたはずの顔が自分から見えない方向に向いている。
「しかとはよくないよ」
そう言いながら横っ腹をチョンチョンと小突くと、
「ひゃっ!」
と甲高い声が返ってきた。
「教えてよー!じゃなきゃ永遠に突くよ?」
「ごめん、わかったから!」
「よし、じゃあ教えて」
「表現しづらいけどまぁいいよ」
部屋を暗くしているからわからないけど多分悠の顔色は真っ赤だと思う。
「へぇー、いつかしてみたいなぁ」
「あんたならすぐできんじゃない?ほら、三浦くんとか」
「えっ!ま、真紀とキス!?ないないない」
だってやっぱりキスって好きな人とするものでしょ?
でも悪い気はしないのはなんでだろ?決して真紀が異性として好きなわけじゃないのに。それにもし私は良くても真紀は嫌でしょ。でももししたらどうなんだろ?
んーーーーー……
なんて答えのない問いに頭を悩ませていると隣からスースーと寝息が聞こえてきた。
あらら、悠寝ちゃったかー。でもさっきのせいで全然眠くないや、どうしよう。
することもなくなったから、ベッドから降りてスマホを取り出し、いじっていると、
ピロロンッとSNSでメッセージが届いた。
上には『高木英介』の文字があった。こんな時間になんだろ?
『夜遅くにごめんね!
唐突で申し訳ないんだけど、来週の土曜日空いてない?
なんか心優ちゃんが前好きって言ってた〇〇のライブのチケットが当たったんだけどどうかな?』
願ってもいない誘いだった。そのグループの歌手の歌はめっちゃ聴くし大好き。それにその日はちょうど空いているし。
「うん!ぜひぜひ行かせてください!!』
と返信してスマホを閉じた。
来週は〇〇のライブかぁ〜、楽しみだなぁ。
っていうかこれって私と高木くんの2人だけ?ってことはデ、デートになるのかな?
うん、まぁどちらにしても楽しみだ!
なんて思わぬ誘いがあったので興奮してさらに2時間もねれなかったのは言うまでもないかな?