#1
5月になり、気温もだいぶ暖かくなってきて、やっと過ごしやすい季節が訪れた。それと同時に、新しい環境下での生活に慣れ始めてだれる、いわゆる五月病の季節。学校に行かず家でずっと寝てたい!なんて思ったり……。
「ふあぁっっっっ」
午前の授業が終わってこれまた大きな伸びをする。別にその授業もそんなに集中して聞いていたわけでもないから、肉体的には全然疲れてはないけど。
「女の子がそんなにでっかい口開けてあくびするもんじゃないよ?」
「ふぁっ?」
突然話しかけられて素っ頓狂な声を出してしまった。
「あれ、悠今日は早いね?」
「いや、もう12時40分だよ」
「え、うっそーー! まじか………」
学食のいつもの待ち合わせ場所についてからもう10分以上も過ぎた。あれ、なに考えてたっけ?
「…ゆう、心優?」
「え? あっ、なになに?」
「なにじゃなくて、ご飯買いに行こ?」
「あっ、うん、おっけー!」
なに考えてたか忘れちゃったけどたいしたことなかったし、まぁいっか!それよりご飯ご飯〜。
私の向かいに座っている悠、松井悠は、同じバンドサークルのバンドメンバーで、新歓で初めて出会ってから意気投合して、それ以来ずっと一緒にいる。私と違ってしっかりしてるし美人だし頭いいし、ちょっと憧れてたりして……。ただとんでもなく人見知り。
法曹志望だっけ?頭いいし真面目だし、私は応援してる。何よりも一人暮らしできるなんてすごいなぁ。私だったらすぐ部屋汚くなるし、ご飯作れないから栄養偏るし、何より学校行かなくなっちゃうかも?実家だから親に起こされたりしてなんとか学校に来れてるけど……。高校の時は真紀に起こされてたから
、真紀はちゃんと学校行ってるんだろーなー。ちなみにこの真紀、三浦真紀は私の幼馴染で親友。幼少中高大と同じ学校でもはや切っても切れない縁というか。それでも大学に入ってからは学部も違うし、通う時間も違うから前みたいに起こしてもらったり、一緒に通学したりすることはなくなったし、当たり前のことが当たり前じゃなくなるのは寂しいかも?まぁそれでもお互い成長するってことだからしょうがないと思う。
「悠このあと授業あったっけ?」
「いや、もーないよ?」
「ほんと?じゃあさ、3限終わったら悠んち行っていい?」
「んーまぁいいけど……」
「やったー! これで3限頑張れるわ〜」
「3限ったって寝てるだけでしょーが」
そう言ってじと目をしてくる悠は可愛らしい。うーん、これを男にしたらイチコロだと思うんだけどなー。真紀とかにしたらどうなんだろ?鼻の下を伸ばして惚れちゃったり?そのまま付き合っちゃったり?えーでもそうしたらもうこれまでみたいに真紀の家いけなくなっちゃうしやだなー。
「ちょっと、なにブツブツ言ってるの?」
「えっ!なんか言ってた?」
「うん、気味悪かったよ」
ザクッ。うぅ、ストレートすぎるよ、松井先輩……。
なんていつものやり取りをしているといつの間にかもう1時過ぎになっていた。
「あっ、もう行かなきゃ!じゃあまた後でね!」
「うん、いってらっしゃい、着く前にまた連絡してね」
「うん、わかった!またね!」
食堂を出て悠と別れ、大教室に向かって歩き出した。そういえば最近ほんとに全然会ってないなー真紀と。悠は学部一緒だしたまーに授業で見かけるって言ってたけど。まぁでも私と一緒で全然話とか聞いてないんだろうなー。でもそれでいて高校の時学年1位2位の成績残してたからずるい。それに私の学部と真紀の学部は正反対にあるから、いままで学食でサークルの友達といるとこを見かけたくらいだった。うー、久々に真紀の家行きたいなー、佳奈姉ちゃんと会いたいなー、おじさんおばさんに会いたいなー。
なんで考え事をしていると、ドンッ!と誰かにぶつかってしまった。
「あ、ご、ごめんなさ……って、豊くん!」
「おっ、心優ちゃん!久しぶりだね!」
「うん、久しぶりー!」
ここでゆっくり話したかったけど、
「あ、時間ないからごめん! また今度遊ぼうね!」
「あっ、うん、がんばってー!」
川村豊くんは私と真紀とは高校からの仲で、明るい性格でいっつもみんなの中心にいる。でも好き嫌いが激しい、っていうと聞こえは良くないけど、友達思いな人だと思う。
高校の時はよく3人で遊んだりもしたなぁなんて。
そうこうしているうちに目的の教室について、席に着く。クラスの友達と受けようかと思ったけど、また眠くなってきたから後ろの方の席にした。
さて、もう一眠りしますか!
***
腕がしびれ始めて目が覚めた。うぅ、左手がジリジリするぅ。
ふと腕時計に目を落とすと2時40分を指していた。授業が始まったのが1時30分だから………1時間10分も寝てたのか!なんかすごい空気たまって気分悪い……。ていうかいま授業どこやってるんだろ。この授業は簡単に単位が取れる授業、いわゆる楽単だから取ってみた。まぁ楽って言えば楽だけど、想像以上に授業がめんどくさい。レジュメがあれば大丈夫なんだけど、スマホいじったり話したりしたらすぐ注意してくるし。寝ててもなんも言われないからいっつも寝てるけどね。
まだ寝起きで頭がボーッとする。あーはやくおわんないかなー。
残りの20分あったが、今日は教授が授業を早く終わらせたため、チャイムが鳴る前に教室を出ることができた。
よし!これなら電車が混む前に乗れそうだなー。
授業がおわったことを悠に連絡して、駅に向かう。ちなみに私がいた文学部は大学の正門から一番遠い。逆に真紀の通う法学部は一番近い。倍くらいの距離がある。やっぱり学力の差で決められちゃうのかなぁ……。
なんて思いながら歩いていると、いつの間にか駅に着いていた。
自分の定期とは逆方向に悠の家はあるため、空になっていたICカードにチャージをするため、チャージ機に向かう。
千円札を入れようとした時、隣のチャージ機に人が来た。私はイヤホンをしていたから人かげくらいしか感じなかった。
しかししばらくして、その人に肩を叩かれた。驚いてイヤホンを外しながら顔を上げる。
「はい……あっ!」
「やっぱり、心優だった。久しぶり」
「うん、ひさしぶりだね!」
「家あんなに近いのにな」
実家同士はかなり近い。でも大学に入ってからはほぼ会うこともなかった。お互い忙しい時期だったから家に帰ってもご飯食べて寝るだけの生活だったから、お互いの家に行くなんてなかった。連絡もほとんど取っていなかった。
「あれ、心優どっか行くの?」
「うん、これから友達の家に行くー」
「なぁんだ、久々に一緒に帰れると思ったのに」
「えへへ、ごめんごめん。今度家いっていい?」
「いつでも来ていいよ、母さんも待ってるし」
「わかった! あ、電車来ちゃう!ごめん、またね!」
「おう、またな」
そう別れを告げて、ホームにダッシュした。
今日は真紀にも豊くんにも会えてよかったー。また遊びたいなー。
いつも隣にいて当たり前の存在だったから気づかなかったけど、いなくなって初めて真紀の大切さに気づいた。同じ学校なのにすごい遠い存在に感じた。だからさっき嬉しかった。たった一言二言挨拶しただけなのに、特別な時間だった。
また、あの時みたいに2人で帰りたいなー。
そんなことを考えながら、悠の家に向かった。
真紀がほとんど出てきませんでした。笑