セイカイ 第7話
「おい、シオン」
「なんですか、ギセル」
「案外面白かったな、久しぶりの客っつうのは」
「迷惑なだけですよ……生と死の〝境界〟に来る人間の魂など」
「そうか? お前、案外ノリノリだったじゃねぇか。飛び散った魂集め。つうか、玉四つで魂って安直だよな」
「はあ……私はただ急遽舞い込んできた特殊任務を遂行しただけです。そもそも、最初の段階でゲームを破棄してくれさえしていれば、さっさと魂を連れていけたものを……」
「それを言うなら、アイツの目、俺のコレクションにしたかったのに、お前が邪魔したせいで取り逃したじゃねーか」
「……」
「……」
嫌な沈黙が辺りを包み込む。先に口を開いたのは、ギセルの方だった。
「まあ、何にせよ、あの時橋を渡りきる前に止められて良かったぜ」
「同感です。危うく試練の途中で魂を消失させるところでした……私の任務中にそんな不備は許せません」
「はいはい、天界は規律が厳しいですからねー」
「放任主義の魔界は無法地帯ですから、そういうのがなくて楽なんでしょうね」
「……たく、本当に口の減らねー天使様だなあ。普通天使はニコニコしてるもんじゃねーのか?」
「それを言うなら、あなたも悪魔として――ああ、どうやら仕事の依頼が来たようですね」
シオンが、飛んできた黒い紙きれを掴む。
「ああ、地上での魂狩りか?」
「ええ、そのようです。……まったく、最近の高齢化のせいで死神が足りてないとはいえ、こちらに仕事を回すのをやめてほしいですね」
「そりゃ、同感……人生が長いせいで魂の審判に時間がかかるだか、人生データ管理室がパンクしそうだかなんだか知らねぇが、それは死神の問題だろうが。俺ら悪魔は持ってこられた罪人の魂を地獄へ連れて行き、その罪にあった罰を受けさせるのが仕事だっつーのに」
「未練を残して魔物化しそうな魂の回収なんて、悪魔の任務でも天使の任務でもありませんからね。そもそも、天使である私が実体で人間界に降りるなんて……神託を人間に与えるときでさえ、フォログラムや声だけで済ませているというのに、まったく。だいたい、天使の任務は魂を成熟させるためにまだ未熟な魂を輪廻の輪へと戻し、世界を効率良く廻していくことであって――」
「あーあ、香、また境界に来ねぇかなあ」
熱が入り始めたシオンを横目に、ギセルが大きく伸びをする。
「ふう……まったく、そんなにポンポン来られたらこちらが迷惑です。それにしても――ここから現世に帰った人間は初めてですね」
「ああ、生きたいって気持ちから、死という事象まで捻じ曲げやがった奴は初めてだ……」
「……では、仕事に行きましょうか。今回の仕事、ちょうど香さんが住んでいる地区ですね」
「ああ、もしかしたら会えるかもな……」
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人生に正解はない。だから人間は何度だって迷い、戸惑い、立ち止まる。
でも、そこで諦めなければ――きっと最良の道を選びとる事が出来るだろう。
そう、たとえ――事象を捻じ曲げてでも――
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~第6話における最終暗号の解説~
3→red 4→blue 5→white 5→green
それぞれの文字数により、上の通りの番号に配置できます。光の三原色は、赤、緑、青を混ぜれば白色になる為、白が真ん中になるように当てはめるのが正解!!
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人生に『正解』はない。諦めなければ最良の道を選び取る事ができる――というテーマで今回の作品を書いてみました。暗号を解いたり、独特な世界観を楽しんだりしながらも、諦めないことの大切さを感じて欲しいと思います。
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