セイカイ 第6話
<最終問題>
扉の暗号には、丸いくぼみと数字が掘られていた。
「ええと……このくぼみにこの四つの玉をはめれば良いの?」
「そうそう、でも、一回間違うとアウトだから気を付けろよ」
ギセルの言葉に、私は球体を取り出しかけていた手を止める。
「一回でも?」
「ええ、ゲームオーバーになりますので、よく考えてから挑戦して下さい。ただし、砂時計から見て、残り時間は三分ほどのようですけど」
「う、うそ……」
「一応言っておきますが、私はウソが嫌いです」
私の言葉に、シオンが心底嫌そうに顔を歪める。
☆ ★ ☆
ヒント1
(きっと、このくぼみの中の数字が関係してるのよね?)
そこまで考え、私はここまでの暗号で手に入れた四つの球体を掌にのせる。
(青、赤、緑、白……)
☆ ★ ☆
「おい、香、深く考えすぎてもダメなもんだぞ。今までの暗号を思い出してみろ」
「今までの暗号?」
私の返しに、ギセルが笑う。
「そう、ここまで来たんだから、ちゃんと脱出したいだろ?」
(今までの暗号は……)
☆ ★ ☆
ヒント2
「もしかして、文字数? じゃあ、これは! でも、同じ文字数のものがある……ど、どっちがどっち?」
☆ ★ ☆
「残り一分です」
「……え? わ、分かんない!?」
シオンの言葉に、私はパニックに陥る。
☆ ★ ☆
ヒント3
「たく、仕方ねーな……光の色だよ」
「へ? 光の……色?」
「ああ、色の三原色、光の三原色って言うだろ?」
☆ ★ ☆
ギセルの言葉に、ピンと閃く。
「ギセル、ありがとう!」
私は急いで四つの球体を扉にはめ込んだ。
その途端、カチャリという音と共に、扉が開く。
「あ、開いた! やったよ! シオン、ギセル――」
私がシオンとギセルの方を振り返ろうとした瞬間、扉からあふれ出た光によって、妙な浮遊感に包まれ……気付いた時には落下していた。
「な、何これ? いやあああああああぁぁぁぁ!!!」
暗闇の中を落ち続け、ギュッと目を瞑る。その間に様々な音が通り過ぎてゆく。
(何!? 私どうしちゃったの!? 誰か!! 誰か、助け――)
次の瞬間、私は再びまばゆい光に包み込まれた。
『香、香! お願いだから目を開けて!』
(この声は……母さん?)
「耳元で叫ばないで、母さん……頭、痛い」
「香!」
切羽詰まったような母親の声を聞き、ようやく重いまぶたを押し開ける。
「?」
見えたのは、母の泣き顔と、白い天井。
「香……よ、良かったあ――」
「な、何? 何事?」
「あんた、車にはねられたのよ」
「はあ?」
「それで意識不明の重体で……あ、今、父さんはお兄ちゃんに連絡しに行っててね」
「そうなんだ?」
「香、あんた本当に何も覚えてないの?」
「え、ああ、うん……なんか妙に長い夢見てたなあってことくらいしか」
私がぼんやりとそんな言葉を返したら、母親があきれ返ったようにため息をついた。
「もう、本当にあんたは……もう少しで右目がなくなるところだったのよ! フロントガラスの破片が……」
「母さん! 香が目を覚ましたのか!」
母の話を途中で遮り、病室へと乱入してきた父の姿を首だけ動かして確認する。
「父さん……えっと――おはよう?」
「香! 母さんの大きな声が廊下まで聞こえてきたから急いで来たんだが……本当に良かった……」
私の場違いな挨拶には全く構わず、涙を流す父。私は、そんな家族の姿を見て思った。
(ああ、あの時、諦めなくて良かった――)
そう、私はあの時、あの事故の瞬間、願ったんだ。強く、強く――『まだ、生きたい』って――
「シオン、ギセル……ありがとう。私に『生きる』チャンスをくれて」
私は小声でそっと呟いた。
生きる事ができた安堵なのか、父と母からのもらい泣きなのか、はたまた…………とにかく、よく分からない私の中の様々な感情が渦巻き、ただただ、胸が熱くて涙が止まらなかった。