セイカイ 第1話
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※暗号の登場は2話目からです。
※暗号の解答は、問題を載せた話数の次の話数の後書きに載せています。
(第2話で登場した暗号の解答 → 第3話の後書きに記載)
また、途中でヒントが出てくるので、ノーヒントで解きたい読者の方は、暗号問題文より下を見ないようにして解いてみてください。
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勢いに任せてガバリと上半身を起こす。
(嫌な夢を見た……)
何を見たのかは覚えていなかったが、乱れた呼吸を整えながらそんな事を思う。びっしょりと汗を含んだ白いネグリジェがぴったりと肌に張り付いてくる感覚が気持ち悪い。
(しょうがない、新しい服に替えよう)
嫌な出来事を振り払うように頭を振った後、行動を開始しようとした私は、ようやく周囲の異常事態に気付いた。
「何、ここ――えっと…………教、会?」
ステンドグラスから流れこむ淡い光が、結婚式場の様なその空間を照らす。私は何故かその祭壇の上に横たわっていた。茫然としている私のすぐ横で、凛とした青年の声が響く。
「ええ、その通りです」
「うわっ!! あ、あんた誰?」
「はあ、いちいち質問が多い方ですね」
「いや、だって状況がさっぱり分からないから質問するしかないでしょ?」
私が困惑しながらそう言い返すと、金髪碧眼の青年は呆れたようにため息をついた。
「まあ、そうでしょうね。とりあえず自己紹介はしておきましょう。私はシオン、そしてこちらがギセル」
「あ、はい」
私の返答が気に食わなかったらしく、シオンの後ろにいた目つきの悪いギセルという青年が眉根を寄せる。
「あ、はい……じゃねぇよ。お前の名前は?」
「え? ああ、ごめん。私は水鏡香」
「へぇ、なんかどんくさい奴だな。そんなんでちゃんとクリア出来んのかよ」
「どんくさッ――ちょっと、初対面でそれは酷くない!? そもそも、クリアって何の話なの?」
ギセルの言葉に、今度は私が眉根を寄せる。
「ギセル、話をややこしくしないで下さい。私は無駄な事が嫌いなんです」
「ああ、はいはい」
シオンは投げやりな返事をするギセルを一瞥した後、私へと冷たい視線を向けてきた。
「あなたにはあるゲームに挑戦してもらいます。このゲームは――」
「ちょっと待ってよ! ゲームって言われてモガ――」
私が抗議をしようとした瞬間、突然ギセルの手が私の口を塞いだ。驚いてそちらを見やると、彼は楽しげに口元を歪めた。
「おい香、とりあえず話は最後まで聞いておけ。間違ってもゲームに参加しないなんて言うなよ。面白くないだろ?」
「チッ……そう言ってくれれば非常に楽だったんですけどね」
「シオン、本音ダダ漏れだぞ?」
「私は自分に素直に生きているだけですよ。それよりも本題に戻りますね」
意味の分からないやり取りが終わり、ようやく私の口からギセルの手が離れる。
「ゲーム内容は簡単です。制限時間内に全ての暗号を解き明かし、ここから脱出すれば良いのです」
「脱出? それって私が閉じ込められてるってこと? ――っていうか、これって人さらいか何か?」
私の質問に、深いため息をつくシオン。
「人さらい? まったく……あなたからここに来たんですよ。むしろ私の方が被害者です。あなたのせいで余計な仕事が増えました」
嫌そうに綺麗な顔を歪めるシオンとは対照的に、ギセルが楽しげに笑う。
「良いじゃねぇか。久しぶりの客なんだし、暇つぶしにはもってこいだろ?」
「私は暇じゃないんです。はあ、不毛な言い合いは時間の無駄ですね。こうしている間にもあなたの制限時間は短くなっている事ですし……」
私はシオンの言葉に耳を疑った。
「え……うえぇ!? もう始まってるの!」
「ああ、お前がここに来た時から始まってるぞ」
「なんかそれって酷くない!? 理不尽すぎる!?」
騒ぐ私とは対照的に、シオンが冷笑を浮かべる。
「文句を言っている暇があるならば、目の前にある暗号を解いたらどうです?」
(何なんだこの人達! ありえない!)
イライラとしながらシオンが指差す暗号へと歩を進める。そこへ辿り着いた時、私はある結論に至った。
(ああ、なんだ……これ、夢か)
今までそれに気付かない方がおかしかった。
(起きたと思ってたけど、まだ夢の中だったんだ……)
そうと分かれば何も怖いものはない。私はこの〝ゲーム〟を楽しむことにした。