切望38 ボスの陰
窓から見える景色は流れていき、木や川などの自然と所々に見える家々からして田舎なのは確かである。
来たことない場所だが・・・。
「皆さん、もう少しで着きますよ」
ワンボックスカーを運転する佐方兄こと佐方久信。
「―――――んん―――――ふあぁ」
先ほどまでぐっすり寝ていた佐方妹こと佐方衣理。どうやら起きたようで欠伸と背伸びをしていた。ちなみに助手席に座っているため、背伸びをした際に強調される彼女の大きな胸はこの席からは見えにくく―――――何言ってんだ俺・・・。
そして後部座席の右端には長刀嵐、真ん中は相澤真由香、左端は俺という配置である。
車内の空気は静かだ。俺は佐方兄や佐方妹と話すことはあっても、長刀と真由香は一切話さず、だんまりしたまんまだった。
「なあ・・・真由香」
「・・・」
真由香は顔を逸らし、ご立腹だった。
とにかく機嫌を取り戻さなければ・・・。
「真由香・・・ちゃん?」
「っ! うっさい馬鹿死ね禿げ!」
「禿げてねーよ!?」
だめだ・・・。益々怒らせてしまった。
ワンボックスカーなのでもう一つ後ろの席に座っても良かったのだが、俺たちの武器やら荷物やらで座れない状態だった。武器を防具にしておいてもよかったのだが、常に意識するのは疲れる。
やがて車は駐車場に止められ、俺たちは降りる。
「にい、ここが特別任務待機場所」
俺たちの目の前にあるのは―――――
風情ある白い建物。玄関口や窓から漏れる光は茶色と橙色を混ぜたような明かり。建物から感じる和風感に落ち着きを覚える。
「温泉・・・旅館か・・・」
「さあ、中に入りますよ」
そう、なぜ俺たちが温泉施設に来たのか―――――
――――――――――数時間前
額から後ろへと大きく逸れた長髪と女性物の服装をしたオッサン。日本部ヴィジランティー組織本部指揮官、自称ナリッサ。
「これであなたも組織の一員として、力を発揮してもらうわけだけど、一応、本部の特殊部隊に所属という形式になるわ」
「オッサン、いいかげんその口調やめたほうが――――――」
「誰が、っだ・れ・が・オッサンですって?」
「いや、なんでもないです指揮官」
俺なんかが特殊部隊? とんでもねえ話だな・・・。それなりに大変なんだろうけど。
「とにかく、しっかり戦ってちょうだい」
あ、まだ気になることがあった。
「真由香はどうなるんだ? 俺が組織で働くとすれば持ち場離れられないだろうし、いやそこらへんよくわかんねえけど。その・・・守ってくれる奴はいるのか?」
「ここの本部の特殊部隊は基本的に単独行動が優先してるのよ」
「ずいぶんと自由だな・・・」
井手口さんや満月も自由に行動してたようだし・・・、もしかしてそれと同じ扱いなのか?
「アタシは任務に対する慎重さとずば抜けた戦力あってこその部隊であってほしいんだけど、あの人が決めたことだから、こればっかりはどうしようもないのよ」
あの人って誰なのか気になるが・・・。
「だけど、あなたの言う真由香ちゃん?はこの現実のどこまでを知っているの」
「あいつは俺と一緒に戦うって言ってる。満月の武器を片手に持ってな」
「満月・・・もしかして満月愛海ちゃんの十字口G?」
「そうだ」
「・・・そう」
すると、指揮官は俺から距離を置き、普通の渋い声に戻っていた。
「だったら、少しでもあの人にとっての心の安らぎにはなるでしょうね・・・」
また・・・。
「さっきから言う、その、あの人 って何なんだ?」
「あら、知らなかったのね・・・何か考えあってのことかしら。まぁ、それもアタシたちのボスらしいところだけど。いいわ、教えてあげる」
「ボス・・・?」
「ええ、アタシたちのボスであり、組織の頂点に立つ男――――――」
あの人――――――俺はそれを聞き、耳を疑った。
心理状態も不安定な中、突然、指揮官の情報機器のようなものが音を出した。それを見て指揮官は表情を歪める。そして、即座に特別任務の内容を言い渡された。急を要することらしく場所はある田舎の旅館へ向かえとのことだった。
その旅館は多額の借金により経営破綻の危機らしい。ここまでなら、まだ組織には何の関係性もないのだが、三日後に旅館に来るとされている暴力団が問題らしい。借金と暴力団、この関連性は説明するまでもないだろう。
ただの暴力団ならまだしも、武器の所持・・・つまりは俺たちと同じような悪魂間の武器を持っているらしい。これは極めて脅威的で警察や法でもどうすることもできない状況だった。
そこで俺たちがその脅威を排除するのが目的で、武器の破壊、または回収を最優先――――――今に至るわけだ・・・。
旅館の中も綺麗だった。本当に経営破綻しそうなのか疑わしいくらいである。客は少なそうだが。
「なんで暴力団が悪魂間の武器を・・・」
「我々と同じように戦って得た武器なんでしょう――――――あ、はい。ありがとうございます」
佐方兄は部屋の案内をされながら答える。
器用だな・・・。
「・・・ある意味、第三勢力と言ってもいい」
やっと長刀が口を開いた。長刀も特殊部隊の所属だったらしく、俺たちと行動を共にすることになった。身体のダメージは回復してないだろうに無理をしていた。
――――――その瞬間、長刀がふらついた。壁に手を付き、苦しそうだった。
「お前、やっぱ来ないほうが良かったんじゃ・・・」
そもそも指揮官のこのメンバー編成もおかしい。
「指揮官の命令だ。俺だけ行かないわけにはいかない」
「だからってお前はラウスの攻撃で重傷なんだぞ」
「くっ、貴様だってそうだろ!」
「・・・確かに激しい動きはできねえかもしれねえけど、長刀ほど重傷ってわけでは・・・たぶん」
「それに三日もあれば完治できる・・・」
「いや、お前。逆に三日しかねえんだぞ?」
「俺には貴様みたいな惰弱な武器と違って、改良されて帰ってきた爪長があるからな!」
「それを使う本人にはとても負担が大きいと思うんだが・・・殺気はすごくても、身体が追いつかないようじゃ・・・」
「っっっだまれだまれだまれだまれ! 何なんだ貴様はさっきから! ほっとけばいいだろ俺なんて!」
無理に体を動かそうとする長刀。
「そういうわけにはいかねえ」
俺は腰を落とし、長刀に背中を見せる。
「おい・・・何して」
「おんぶしてやるよ」
そう言うと長刀は顔を真っ赤にしながら異様に慌てふためいた。
「お、おんぶ!? ばば、馬鹿か貴様は!!!」
「・・・はやくしろ、ほら」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だあああああああ!!!誰が貴様なんかにぃ~・・・」
と言いつつも声を張り上げて、めまいでもしたのかゆっくりと背中に乗ってきた。
「よっと・・・」
俺は長刀を背負い、歩き始める。
「――――――――――――あったかい・・・」
「ん?」
「うるさい!!」
「ええ、何も言ってないだろ・・・」
真由香たちとは若干の距離ができてしまったため、急ぐ。
何とか姿を見つけ、追いついたと思ったら――――――
「あー!!! にい君、何してるの!!!」
真由香は俺を見た瞬間、声を上げたのでびっくりした。
「大声出したら他のお客さんに迷惑だろ・・・」
客いるのか知らんけど。
真由香は俺の横につくが、背負っている長刀の方へ小声で話していた。
「ちょっと嵐ちゃん、なんでおんぶしてもらってるの!」
「う、うるさい!コイツが勝手に・・・!」
「私たちの目的忘れたの・・・!?」
「忘れてない・・・!」
小声すぎてよく聞き取れないが、何か言ってんだろうな・・・。
「にしても、お前らいつの間にそんなに仲良くなったんだ?」
「ま、まあね」
「・・・」
「・・・? まぁいいか」
部屋を二つ用意してもらったらしく、一つの部屋は俺と佐方兄、もう一つは真由香、佐方妹、長刀となった。
その日はとりあえず、飯食って、旅館の温泉入って、布団入って、眠りに入って――――――終わった。
次話投稿を待たれよ




