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追悼36.5 複雑

長刀視点で 追悼36.5 です。

「はぁ――――――はぁ――――――はぁ――――――」


 本来ならば安静が必要な状態なのに、まともに走ることもできない身体なのに。

 その場にいることが何よりも苦痛で、何よりも胸が苦しくて、何よりもアイツから逃げたかった。


「何なんだよ、何だってんだよ、わからないわからないわからない――――――」





 この部屋に入ってきたあいつを見ただけ、ただそれだけなのに、心臓が鳴っている理由がわからなかった。発作にしては、身体的には苦しくない。この胸を眼に見えない何かが締め付ける。

 突然の出来事、なぜこの施設に、こんな場所に、いるはずのないアイツがここに来ることに疑問を感じた。

 でも、それを上回るほどの感情が思考を邪魔する。

 とにかく――――――アイツに気づかれないように布団に身をひそめた。


 アイツの声が聞こえる。


「――――――ぶん、大丈夫――――――がとな」


 布団をかぶっているせいでよく聞き取れない。

 ちょっと様子を見るつもりで布団から顔を出す。

 でも、アイツは周りを見渡してこちらへ向こうとしていた。俺は出していた顔を一気に布団に戻した。



 数秒は経っただろうか、何の音も声も聞こえない。

 去ったのか・・・?

 もう一度、布団から顔を出したその時だった。

 アイツが目の前にいて、目が合っちゃって、切なくなって、叫ばずにはいられなかった。

 今までになかった変な気持ちを抑えるようにめいいっぱい叫んだ。アイツに向かって・・・

 逃げようとした、落ち着ける場所が欲しくて、ベッドから降りてアイツから遠ざかろうとした。


 足が上手く動かずに転びそうになる。体勢を立て直せそうにない。刹那、ここで恥をかけば生きていけないことを覚悟したのに、アイツはそれを邪魔した。

 アイツの腕からはあったかい何かが胸から全身に伝わった。


 どうしようもない気持ちを別の言葉に置き換えて叫んだ。この気持ちを知られたくないがために。

 そして、その場を去るためにも階段のある方向へ駆けた。


「はぁ――――――はぁ――――――はぁ――――――」


 ここまで降りれば追いつかないだろうと、安堵し座り込む。


 おかしい、以前アイツのことを見ただけではなんともなかったのに。

 ケダモノ男と同等の存在でしかなかったはずのアイツが、今さっき見ただけで体中が熱くなった。


「症状が悪化してるのか・・・? 俺は・・・」


 息を整えるためにも、深呼吸をする。


 すると、上から誰かが降りてくるような音がする。

 一瞬、アイツが追っかけてきたのかと思ったが、アイツのいつも近くにいる女だった。


「――――――馬鹿馬鹿馬――――――鹿・・・あ」


「き、貴様は・・・」













「・・・にいくんから聞いたけど、傷は大丈夫?」


 女は落ち着きを取り戻し、話しかけてくる。


「大した傷じゃない、とは言えない」


 武器で防いだとはいえ、身体への負担とダメージは相当ではあったが、組織の技術力、医療設備の充実さによって歩くまでには回復できた。


「相澤真由香って名前だったな・・・相澤、俺にはアイツがわからない」


「にいくんが・・・?」


「相澤はなぜアイツの近くにいるんだ? やっぱり、こ、恋人・・・同士とかなのか?」


 ラウスの攻撃を食らって、体中がボロボロだったとき、アイツは俺に――――――

 あの時のことが今でも頭をよぎっていた。


「君のこと、なんて呼べばいいんだろう」


「・・・別に、長刀でいい」


「長刀嵐だから・・・嵐ちゃん?」


「好きに呼べばいい・・・」


「質問に答えるけど、恋人ってわけでもないんだよね。私ね、敵に捕まっちゃったときがあって、それを助けてくれたのがにいくんなんだけど・・・そのお礼というか、手助けというか・・・」


「・・・」


「でも、これからも、そばにいたいとは・・・思ってる」


 相澤の声には決意のようなものが感じられた。


「もし、恋人同士ならわかると思ったんだが・・・あいつの行動の意味が」


「そういえば、にいくんに・・・キスされた、んだよね」


 落ち着いていた心臓がまた激しく音を鳴らし始める。


「あ、あ、頭に、されたってだけだ!・・・でも、何でそんなことしたのか・・・」


 アイツは何を考えているのか・・・わからない。


「うらやましいな」


「・・・!・・・?」


 相澤はうつむいてはいたが、それでも声はよく聞こえていた。


「たぶんにいくんは嵐ちゃんのこと、大事に思ってるんだと思うよ」


「俺は・・・組織の人間なのに」


「組織の人でも、家族同然に扱ってるんだと思う。ありがた迷惑ってやつかもしれないけど、私のことより嵐ちゃんのこと心配してたもん。だから――――――わからなくても、それがにいくんっていう人だから」


「ただの一般人がなぜそこまで・・・」


「にいくんにも戦ってる理由があるんだけど、そのうち本人に聞いたほうがいいかもね」


「別に・・・興味はない」


「ま、にいくんの場合、嵐ちゃんのことをいやらしく見てるからっていうのも一理あるんだけど」


 一瞬、寒気がした。


「それは納得できる。あのケダモノ男ならその可能性もゼロじゃない」


「でしょ!?」














 なぜかここで俺たちの息は合い、共通目的が生まれた。


「俺たちがこれからやることは一つ――――――」


「にいくんを――――――」














「「 らしめる!!!」」

追悼編も潮時? 次話投稿を待たれよ

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