表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/45

追悼35 変わった日常2日目

「じー・・・」


「おい近いぞ離れろ」


 体を寄せて近寄ってくる佐方・妹。上目遣いされ、目を合わせまいとその下にずらしたのが間違いだった。

 その包み込まれそうな大きな膨らみに目が行ってしまう。すぐに顔を別の方角に向けたが。


「・・・にいくん、今衣理さんのどこを見てたの」


 鋭い眼光でこちらを睨む真由香氏。見てたのかよ・・・


「え、ドコモミテマセン・・・ョ」


「え、みません?」


 そう言い、こっちを振り向く佐方・兄。


「言ってねーよ、前向け」


「やっぱり・・・」


「やっぱりってなんだ」


「じー・・・すけべ」


「いやいやいやいや、何この展開」


 疲れると言わんばかりの吐息を誰かが漏らす。


「大体・・・何で衣理さんがにいくんの隣なんですか!」


「この子は譲らない」


 腕にしがみつく佐方・妹。やめろ、柔らかい感触がッ


「まさかのライバルだったなんて・・・」


 真由香が小声で何かを言っていた。

 そう、今この空間内は車内である。非常に狭い。


 しかしまた、なぜ佐方兄妹と一緒に車に乗っているかというと・・・



 さかのぼること数時間前の朝―――――――











 夢を見たような感覚と共に目が覚める。

 朝食を用意し、真由香も起きてくる。勝手に普段使わない部屋を占領されてはいたが、文句を言うと一緒の部屋で寝かねない発言をしたので何も言えない。

 そのまま朝食を終了させ、特訓がてら体を鍛える。腕立て伏せ、腹筋のみならず、開始1分でやめたのは言うまでもない。


「ダラダラしてるのが妥当か・・・」


 うん、そのほうがいい。

 うん、なんかすごいダメな人だ・・・。


 そんな自分に落胆していると佐方兄妹が家に入り込む。

 普通だったら不法侵入だが、彼らは少し焦った様子で唖然としていた俺を運び出す。

 訳も分からず、急だったためされるがまま。気づいたら車に乗せられ、運転席に佐方・兄、助手席に真由香、後部座席に俺と佐方・妹となっていた。

 真由香はただついてきたというか、なんというか・・・。






「なあ・・・どこに連れてく気だ? 昨日の今日で傷まだ治ってねえんだけど」


 長く厳しいラウス戦を終え、体中の傷はまだ癒えてない。はっきり言って戦えるような身体状況ではないので、もし敵が現れるようなことがあれば苦戦は免れない。

 

「すみません、手荒のことをしてしまったことについてはお詫びします。しかし、急な連絡が入りまして」


「急な連絡?・・・というと?」


 俺は佐方・兄に説明を求める。


「昨日もお話ししましたが、我々の本部指揮官があなたに会いたがっているのです」


「な・・・い、いやでも昨日また今度にしてくれって言ったよな?言ってないのか?」


「いえ、ちゃんとお伝えしましたよ。ですが、指揮官も頑固でして、今日連れてこないと指揮官の任を降りると言うものですから・・・」


 子供かよ・・・。


「事情は分かったが、俺なんかがそんな大それた場所、人物に会えるような器は持ち合わせてねえぞ」


「その点は大丈夫だと思いますよ」


「なぜに・・・」


「とてもフレンドリーな指揮官ですから」


 嫌な予感しかしない。つか本部の指揮官としてそれはどうなんだろう・・・。





 しばらくして、車は細い路地に入る。普通なら入らないであろう横幅ギリギリな道である。前方には車庫が見えてくる。行き止まりな気がするのだが、車は迷わず前へと進む。

 車庫の前まで行くと車を止め、佐方・兄が窓から手を壁の方に伸ばす。すると、壁からは手の平サイズの指紋認証のような装置が出てくる。そこに佐方・兄は手を置き、何かの確認音と同時にシャッターが開き始める。


「すげえ、どういう構造してんだよ・・・」


「このような入口はまわりにも複数ありますからね、敵からは気づかれにくいのです。もちろん本部への入り口も複数ありますが」


 車が車庫に入ったものの、そこから降りてどこかに入るようなドアが見当たらない。シャッターは閉まり、完全に閉じ込められた感じで、俺も真由香もあせり始める。

 その瞬間、ガクンと地面が揺れ落ちるような感覚と車庫内の景色が動いていた。


「これは・・・! 降りてるのか?」


「そうですね、いわば本部へのエレベーターと言ったところでしょうか。ご理解いただきたいのは本部は地下にあるということです」


「すげえなそりゃ・・・」


 まわりの壁が下から上へあがっていく。


「にいくんどうしよう・・・酔いそう」


「どこまで降りるんだよ」


「着きますよ」


 またガクンという軽い衝撃と共に動いていた壁が止まる。そして前方の大きなドアが開かれる。

 再び、車が動き出し前へと進む。

 地下放水路のような広さに四角い建物が複数確認でき、その中でひときわ目立つ大きな建物に車は向かう。


「すごい・・・こんなところがあったなんてな」


「にいくんと一緒じゃなかったら一生見れなかったかも・・・」


 やがて車は止まり、大きな建物の前に降ろされる。


「車を戻してきますから、あとは衣理に任せます」


 そう言って、佐方・兄は車を走らせていった。


「・・・りょうかーい」


 佐方・妹はそのまま建物の中に入っていく。そのまま俺たちもついていった。


 建物内は全体的に黒い、というよりスーツを着た人たちが大勢いた。たぶん全員が組織の人間だろう。

 いやもう怖ええよここ、何なの・・・。

 

 歩きに歩き回ってエレベータに乗り、佐方・妹は最上階であろうボタンを押す。

 そして着いた先には、どこぞの司令部のような広い部屋が眼に映る。もちろん、スーツ姿の人たちは各々でいろいろな作業をしていた。

 こちらには気づいてないのか一般人は目に入らないのか、誰も俺たちを確認する者はいない。


「じー・・・指揮官がいない」


「こんなに人多いんじゃ誰が誰なのか分かんない」


「この人たちはともかく、俺たちにはどいつが誰なのか知るはずもないんだけどな」


 帰る選択肢はないのかと思いつつ、その場を立ち尽くしていた。




 急に強い悪魂間の力、殺気を感じた。

 右からそれを感じ、顔を向けた――――――――とてつもない衝撃と爆発音が鳴り響く。

 反射神経なのか経験なのか、思わず出した右腕でその衝撃を受け止める―――――――

 が、受け止めきれず反動で流れのままに飛ばされ、壁に体を打ちつけられる。


「っ―――――――!!?」


「にいくん!!!」


「・・・この力、三神みかみくんの・・・」


 今朝、佐方兄妹に無理やり連れ出されたため、武器を持ってくるのを忘れた。

 つまり、生身の腕で防いだわけであって、防具で受け止めなかった分には損傷は激しい。


「うっぐ・・・」


 右腕は赤く血だらけだった。

 真由香はすぐさま俺の方に駆け寄ってくる。顔は青ざめている。


「早く出血止めなきゃ・・・」


 壁に座り込んだ状態ではあったが、腕を抑え、俺は飛ばされた方向を見る。

 そして一人の人物が近寄ってきた。


「ラウスを倒したと聞いて、どれだけ強ええ野郎かと思ったら、防御もまともにできねえとはな。とんだ拍子抜けだぜ」


 俺と変わらないであろうその容姿は、いかにも青年でスーツ姿からして組織の人間だろう。


「そんなことで・・・・・・ふざけないでよ!」


 真由香の表情は確認できない。ただ声音からして怒っているのは分かった。


「うるせえ、女はすっこんでろ」


「はあ!?何こいつ!!」


「真由香、ムキになるなやめろ」


 あと怖ええから・・・。真由香は既に攻撃体勢をとっていた。


「まっててにいくん、今こいつ成敗するから」


「おい女、しゃべんなうるせえぞ」


 青年は真由香に目をやることなく俺の方を睨んでいる。


「今私はにいくんと話してるの!あんたこそ黙ってよ!!」


「武器もねえのにどうやって成敗するんだ」


「それは・・・殴るとか引っぱたくとか」


「素直に殴らせてくれるとは思えねえけどな」


「っ・・・だってえぇ! あいつむかつくんだもん!!!」


 半泣き状態の真由香がなぜむかついているのかは大体見当つくが・・・。


「まあ、武器があっての今の俺なんだと思う。あの剣がなかったらただの弱い男だ」


 現に武器がなかったから助けられなかった時もあるしな・・・。


「にいくん、自分の腕見て見なよ。あいつのせいでこうなったんだよ。なんで怒らないの」


 血だらけの腕をつかまれる。


「別に怒ってねえわけじゃねえさ、大丈夫、ちゃんと倍返しするから心配すんな」


「え・・・う、うん」


 俺は立ち上がる。そしてその青年の方へ血だらけの腕を抑えながら、近づく。


「いやーさっきのは効いたぜ。さすが組織の人間だけはあるよな」


 平常心を保ちつつ、青年との距離を詰める。


「・・・てめーごときがラウスを上回るほどの力をつけてるとは到底思えねえ」


「でも事実だ」


「なめてんじゃねえぞ、この俺の爆撃食らってそのザマの野郎が言える言葉じゃねえんだよ、一般人が」


「確かにな」


 そう言った瞬間、笑いが込み上げてきた。


「何がおかしい・・・返答次第でぶっ飛ばすぞてめー」


「俺さ、なぜか名前がなくってよ。昔の記憶もあんまりなんだ」


「意味わかんねえことを・・・ぶっ飛ばされたいらしいな」


「そんな俺が何で今ここでこんなことしてんのか今さら感があってさ、それがおかしくなったんだ」


 そう言いながら、俺は左のこぶしに力を込め、床を蹴っていた。


「な――――――――――――――」


 相手の青年もやはり、突然のことで油断していたようだった。


「でも、今気づいたんだよ――――――――何をすべきか―――――――」


 一瞬、どうでもよくなったんだ。名前も、記憶も、右腕も、武器も、組織も、敵も、なにもかも。

 失うものが少ない俺は何を言われてもいい。何をされてもいい。ただ―――――――

 それでも―――――――どうしてもそのまんまにしておけないものがあった。


 青年の頬にめいいっぱい拳をめり込ませ、床を蹴った反動をそのまま流れに乗せる。

 勢いよく青年は飛ばされていく。


「―――――――真由香に舐めた口利く奴は」


 床に叩きつけられる一人の青年―――――――








「俺が許さねえってことをな――――――――――――――」

次話投稿を待たれよ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ