追憶29 残忍
今、俺の目の前にいるこいつは長刀嵐・・・。見た目は普通の子供で、髪もボサッとはしているものの一応、女の子だというのだから驚く。
「何だよ・・・」
長刀は俺の視線に気づいて低い声で言う。口調も男の子だしなあ・・・別にいいけども。
「長刀はさ、何でこんな仕事・・・というか、組織として戦うようになったんだ?」
俺が知る限り、常にヴィジランティーの任務内容は死と隣りあわせだ。言い過ぎだとしても、現に死者が出ている。なぜ、こんな地獄のような苛酷な仕事をしているのかと思った。
「・・・」
長刀は一瞬、表情を歪めたかと思うと、俯いて黙り込んでしまった。
聞いちゃまずかったか・・・。
「悪い、質問を変える。お前のその・・・さっきの爪みたいな武器は何なんだ? 悪魂間と同じ力のようなものを感じたが・・・」
「・・・爪長」
「いや、それだけではなくて特性とかをだな・・・」
「鉤爪で俺はいつも戦ってる。こう言えば理解力のない貴様でもわかるだろ」
鉤爪か・・・。あの時も手から爪が伸び、武器として戦っていた。今までの敵の武器は大抵、剣か銃だった。それも悪魂間の力を応用した強化武器。
彼女の素早さと手の器用さによって、数々の戦線を爪という武器でくぐり抜けてきたわけだ。
「まあ・・・いいか」
外も暗くなりはじめている。夕飯はどうしようかと冷蔵庫の前で悩んでいると、ふと、一つのことに気がついた。
「長刀・・・お前、宿泊先っていうか、これからの泊まる場所ってあるのか・・・?」
「俺も不服だが、しばらくは貴様の家で過ごすことになる」
なんだと・・・それはそれでまずい気がする。
「一応女の子なんだし、それなりにプライバシー的なのを配慮しなければならないというか・・・」
「心配するな。もし貴様が淫獣な行為をした場合、俺の爪長で始末する」
こええ・・・この展開どっかでもあったような気がするが・・・。
「始末されたら困るんだが・・・」
「では、死んでもらうか」
長刀は例の鉤爪を俺に向け、細く、冷たい眼差しを送る。
「大して変わらねえよそれ・・・。始末よりひどい気がするわ」
「大丈夫だ。痛みは一瞬だけだ。我慢して逝け」
「いや、だから殺すなって・・・」
こいつだけは、後で絶対泣かしてやる・・・。
俺はそう決めて冷蔵庫を開けるのだった。
夕食はレトルト的なおかずを9割占めて、味噌汁だけは、豆腐だのワカメだの入れてやった。
・・・こいつらのためにも本格的に料理覚えないとだめか・・・。
ご飯を盛っている最中で真由香も起きてきた。
黙々とご飯を食べる長刀。寝起きのせいか箸の進みが遅い真由香。こうして誰かとまた一緒に食べるなんて久しぶりだった。
「にい君? どうかしたの?」
「え? い、いや、なんでも・・・」
おっと・・・感動に浸ってる場合じゃないな。
そうして、俺も食い始め、しばらくした時だった。
携帯のコール音のようなものが聞こえた。音の方に目を向けると、長刀が携帯のようなものを手にして、画面に映る何かを見ていた。
そして、携帯の形が普通のとは少し違っていた。辻おじさんの持っていた携帯にそっくりで、たぶんではあるが、組織専用の端末なんだと思う。
「・・・ちょっと行ってくる」
「何かあったのか?」
俺は長刀の腕を掴み、玄関に向かうの止める。
「あのデパートの近くで敵の襲撃だ」
デパートというと隣町のことを言ってるんだよな・・・
「敵?」
「大量殺戮だ。それもインディペンデントが関わってる」
「なんだよ、それ・・・」
大量、殺戮? インディペンデントが関わっている? 人が大勢、殺されたってことか? 一般人が巻き込まれることなんて普通はないと思ってた。少なくとも悪魂間の存在が露わになることは、ないはずだ。でなければ今頃、人間と悪魂間の殺し合いになっている。ヴィジランティーも軍隊も関係ない。小さな子供も女性も戦わなければならない世界になる・・・。ヴィジランティーあってこその平和だ。例えそれが、気づかれることのない犠牲があったとしても。
誰が何の因果があってそんなことを・・・黒井か? それとも他のインディペンデントの誰か・・・何にしても!
「俺も行く!」
「私も!」
真由香は武器を持っていた。
「真由香はここにいたほうがいい。相手がインディペンデントだっていうんなら、この前みたいにいかないかもしれない」
「それでも・・・行く。もう何もできないのは嫌だから」
「そうか・・・」
「行くんならさっさとしやがれってんだ!」
月が出ていた。夜道は明るい。俺たちは隣町まで走って行った。俺の武器・異一型剣についても、なんとか左腕の防具として変化させることができた。この中じゃ真由香の武器・十字口 Gが一番重いんじゃ・・・
そんな中、途中、辻おじさんが車で追いかけてきた。組織専用の端末で事件のことを確認したんだろう。俺たちは車に乗り、目的の場所に向かった。てか、レンタカーか?
隣町のデパート近くに車が止められ、そして―――――
俺は目の前に広がる惨劇に目を疑った。
さっきまでの賑やかな町の形は一切残されていなかった。
まわりの建物や地面は崩れ、瓦礫のようになっており、炎が燃え上がっているところもある。
見渡せば、たくさんの人が倒れていた。
恐ろしく、静かで夜なのに月の明かりのせいか、赤い血が飛び散っているのがわかる。人一人の流す血の量をはるかに超え、何人もの人が犠牲になった証明として、どこを見ても血だらけだった。
赤い血でどろどろになった死体。えぐられ、引き裂かれ、呪いのようにも見える血痕がそこらじゅうに広がっていた。
「にい君・・・さっきまで、私たちもここにいたんだよね・・・。ここにいた人たちって、皆―――」
真由香の声は震え、俺も足が震えていた。
「殺された・・・!」
―――――タタ――タタ――タタタタタタタタ―――タタタタタタタタン―――――
銃声のようなものが聞こえる。まだ、ここに・・・インディペンデントがいるってことか・・・!
「既に、組織は動いているようだな・・・」
長刀はそう言って銃声のする方へ駆けて行った。
「あ、おい! 真由香!ここにいてもしょうがねえ!長刀について行くぞ!」
「にい君!!頭を伏せて!」
そう言うと真由香は俺に武器<十字口 G>を向けて、赤い閃光を放った。
ドゴォォォオオオオオオオオオオオ!!!
何かにヒットする音。
「ぅっく!?」
「クギャァァ!?」
俺とは別にもう一つの荒声が、閃光とともにうち放たれる。事前に言われたため俺は避けることができたが。
黒く燃え上がるその屍を確認して、真由香は止めていた息を吐く。
「―――――はぁ」
「悪魂間か・・・? 狙われてたのか俺・・・。ともあれ助かった。ありがとな、真由香」
「うん、早くあの子追いかけないと!」
「ああ、そうだな」
俺たちは長刀の行った方向である銃声のする方へ走る。途中、数体の悪魂間に襲われたが、俺の剣、だけではなく、真由香の銃と共に応戦し、次々と敵を蹴散らしていった。
「真由香! 大丈夫か! 怪我とかは!?」
「今のところは大丈夫!」
「すげえな! 悪魂間とまともに戦えるなんて・・・。怖くないのか?」
「うん・・・何かこの武器が体を動かしているみたいで・・・。よく分からないけど、私に似たような心の感覚があるというか」
案外、真由香には戦闘センスの素質があるのかもしれない。まだ無駄な動きがあるとはいえ、悪魂間と戦えるほどの心の強さが感じられた。
「にい君、どいて!」
「え? お、おお・・・」
この場での集中力は彼女が上か・・・
真由香の武器から放たれた赤い光は俺の横を通り抜け、敵に向かって撃たれたであろう閃光が直撃する。
「・・・やはり、このザマか。ヴィジランティーが聞いて呆れるな」
直撃した方から嘲笑うかのような声が耳に入る。
そして、舞い上がった煙から一人の男が出てくる。
黒いコートの下に白いワイシャツ、黒ズボンを着こなし、髪もさっぱりとした短めで、普通の人間と変わらない。様子からして、真由香の攻撃が効いていない・・・?
「確かに・・・当たったはずなのに」
真由香が後退りする。俺はその男の前に出て、剣を構える。
そして、他の悪魂間とはまた違う感覚に襲われる。
その男に隙がない。無暗に突っ込めば、危ない気がした。
「お前が・・・何の関係も罪もねえ人たちを・・・殺したのか?」
「ああ?」
その男の表情は嘲笑から形相を変え、睨みつけるようにして俺を見る。
悪魂間に対して、ここまで恐怖を感じたのは黒井以来だと思う。
てか、長刀はどこ行った。とっくにこいつと対面して戦っているんじゃないのかよ・・・
「組織の人間でもない一般人が俺に盾突けるのか?」
「俺の目的はガンズってやつなんだけどな・・・。成り行きでお前らの存在を知っちまったのさ」
「ガンズだと? ・・・ぶっはっはっはっは! まさかとは思うが、やつと戦うつもりなのか?」
「捕らわれている少女を助けるためにな・・・」
男はしばらく、俺を見て大笑いしていたが、笑みを浮かべながら再び俺を睨む。
「この前の戦いといい、さっきのガキといい、どいつもこいつもカスばかりだ」
「ガキ? 長刀のことじゃないだろうな・・・」
嫌な予感がする。俺は真由香に視線を送り、長刀を探すように示唆する。
「そして、てめえは口だけのつまらんカスだ。消してやる」
「お前の奪った命の代償はでかいぞ・・・」
俺は剣を構え、男は銃のようなものを両手に持つ。おそろく武器なんだろう。
お互いが殺気ともいえる赤黒い炎を剣、銃とまとわせ、大きくなっていく。
次話投稿を待たれよ




