追憶25 激突2
辻おじさんに手当してもらった俺の手は包帯が巻かれており、少々粗い。多少の痛みがあるだけで、結局は自業自得なので大騒ぎしたところでしょうがない。俺が倒した悪魂間は組織で処理するためか、おじさんが処理班を呼んでくれたらしい。
「よし・・・先を急ぐぞ。」
おじさんが車に乗るように指図する。
「にい君・・・その、後ろに乗らない?」
「俺は前でいい。」
相澤に後部座席に乗るように言われたが、助手席は譲らん。相澤はまだ何か言いたそうだったが、諦めて後部座席のドアに手をかけていた。
俺も助手席のドアに手をかけようとした瞬間―――――
「―――――車から離れろ!!!」
急におじさんが叫ぶように声を発する。同時に手には熱さを感じた。あまりにも急だったのか、相澤は硬直していた。俺は相澤を庇うように体を抱きしめ、車との距離を置く。
ドゴオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!
激しい爆発音と車から燃え上がる炎。俺は背中から地面に滑り込むようにして、回避する。
「間一髪・・・。」
咄嗟の判断と行動によって巻き添えを食らわずに済んだ。炎炎と燃え上がる火の勢いは鎮まることなく、眺めていることしかできなかった。
「大丈夫か?」
「う、うん、ありがとう・・・。」
腕の中で感謝する相澤。しかし、動こうとしない。それどころか腰に手を回され、身動きのできない状態に・・・。おじさんの安否を確認したいのだが。
「あの・・・相澤さん?動けないんですけど・・・。」
「こうされるの、嫌?」
上目づかいでこちらを見られ、俺は顔の方向を変える。
「嫌ってわけじゃねえけど・・・その、な。」
この場において、今、俺の思考に煩悩的な要素は必要ない。そんな余裕はないのだ。
「その・・・何なの?」
「いや・・・ほら、あれだ、襲っちゃうぞ~的な衝動に駆られてしまうのを防ぐためというか・・・」
無言になる相澤。再び顔を下げ、表情が見えなくなる。
「相澤?お~い相澤さ~ん?聞いてたよね、動けないから、とりあえずどいてもらってだな・・・」
「・・・相澤じゃない。真由香。」
「え?ああ・・・じゃあ、ま、真由香。どいてくれるかな。」
「やだ。」
「ええー、おいいいいいーそりゃあねえだろー。」
何とか相澤・・・じゃなくて、真由香と呼ばなきゃダメか・・・。真由香を引きはがし、燃え上がる車に近寄る。
そうだ・・・なぜいきなり車が爆発する事態に。それに、おじさんが即座に言わなければ俺たちは無事じゃなかったはずだ。
気が付けば、車よりも先の方向におじさんの姿があった。どうやら無事なようだ。
「おじさん、どこ見てんだ?」
おじさんが見ている方向に俺も目をやる。人影・・・。
「黒井・・・やはり、お前だったか。」
怖い声音で人影と話すおじさん。黒井・・・黒服帽子の男か!?
「辻 清吉、私の元上司。お久しぶりですね。どれぐらいの月日を経たことでしょう?再会を祝して乾杯・・・なんて、貴方には性に合わなそうですね。娘さんは元気ですか。」
「黒井、この爆発もお前の武器によるものだな。」
なんだ・・・知り合いなのか・・・?二人の話は進んでいく。
「奇襲攻撃などという文面を見て、本部へ向かうだろうと信じていましたよ。そして、上司の連絡先を知っておいて正解でしたね。」
「何が目的なんだ。悪魂間だなんてものに加担して・・・。」
「すべては世の中のためですよ。そのため、ここの組織は間違っているのだと確信したのです。あと悪魂間ではありません。悪魂間と呼んでいただきたい。」
「人を殺していることのどこが世の中のためなんだ!!!!!」
「確かに我々の中にも道を踏み外した者はいるでしょう・・・しかし、仕方がないことなのです。報いを受ける側とそうでない側・・・。立場が変わってしまったことに過ぎない。犠牲になったものは気づかれることなく、この世から消えた。存在しているものはそれすら気づかずに・・・誰が悪であろうと、そうさせた側がいるのです。そこからつながっていくものは人間だ!物だ!物だって人間が発案し、作らせただろう!結局は人間そのものが起こした騒動でしかない。だからこそ!!!この世の中を!世界を!すべてを調整していくのが我々だ!!!我々の力こそ必要とされる世の中だ。」
「黒井・・・。」
「故に私は、正しき道を歩んでいる。」
「違げえよ・・・。」
沈黙を破る俺の声。
「人は悪を生み出すかもしれねえ、人を殺すほどの怨念もあったのかもしれねえ、すべては俺たち人間が悪いのかもしれねえ・・・だけどな、同じことを、終わらないことをお前らが繰り返してどうするんだ・・・」
「なんだと・・・何を言っている?」
「本来、悪を生み出した人間が、解決するための糸口を探すはずの俺たちが!なんで争わないといけないんだ!!!」
「糸口だと?探したんだ!!!我々の先代だって!警察!法!罪というものに対して罰を与えるように仕向けられた。だが、悪は減らない!なぜなら、悪自身も逃れるための糸口を探すからだ!そのためだったら殺すことも偽ることも、犠牲にされたモノを習い、学び、逃れる!!!探したんだよ・・・世の中は・・・。」
「だからと言って、今ある命をなくしていい訳がねえだろ!慈しむべき命を!本当は力に頼っちゃダメなんだ、ダメなんだよ・・・。」
「綺麗事はよすのだよ。何の意味もない。」
「そうだよ・・・井手口さんや、満月だって、生きたかったはずだ!!!これから先がどんな世界か!」
怒りが再びこみ上げる。
「我々に殺されたとでも言いたいのかね。人間が生み出した悪の権化、具現化したのが悪魂間だ。それ以上にこちらの代償のほうが大きいのだよ。それに、君のその武器も殺気なくして戦えるのかね。」
「ぐっ・・・」
「ぼくや・・・井手口や満月は覚悟していたはずだ。歪んだ世界だと知っていたから組織にいたんだ。」
おじさんはいったん俺に背を向け、黒井に話しかける。
「黒井・・・聞いていればお前の話からして、まだ完全な悪魂間・・・いや、<インディペンデント>に成りきれてないようだが、お前さえ良ければ、もう一度、組織で共に戦わないか?」
「辻さん、残念ですがそれは無理に等しいかと。あと、分かっていないようですので改めて伝えましょう。悪魂間を作った人間を私は許しません。大きな悪を殲滅し、小さな悪まで反映させる。そのためにはその元となりそうなモノすべて殺す。根本を破壊するまで壊す。ただそれだけなんですよ・・・。」
「・・・」
「おじさん・・・」
俺はおじさんを下げて、前に出る。そして黒井に向かって――――
「そっちも、分かってないようだから教えてやる。同じことを繰り返すんじゃねえ!てめえらが恨まれたら何の意味もねえのは分かってんだろ!!!」
「青年、君の方こそ何故分かろうとしない。もうこれしかないということが・・・分からんのかね!!!!」
「どんな事情があったとしても!!!!!殺していい、殺されていい理由なんてどこにもねええええ!!!解決したことにはならねええええ!!!!!」
左手の防具から剣へと形を変化させる。黒井もトリガーのないハンドガンを二丁出す。
正面へ突っ走る。ただひたすら、黒井の方まで――――――
突然感じた・・・
湧き上がるような力の感覚・・・
以前にもあった・・・
体全体が赤黒い何かに包まれていく・・・
「グオォォォォォォァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」
「ぼくや!!!支配されるぞ!!!気をしっかりさせろおおお!!!」
黒井のハンドガンは俺の剣を受け止めた。が、剣が赤黒く、ハンドガンごと燃え千切らせるような、溶かすように刃先が伸びていく。
「これしかない?ソレハ、オ前ガソウ感ジタニ過ギネエ。ただの勘違いだ。人類は諦めてない。絶対二諦メサセネエ!!!」
「な、なんだこの力は・・・押し負けるだと!?」
「ぐグ・・・ゥグオアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
刃はハンドガンを通り抜け―――――――――――――
ボオオオオォォォォォォォォォォォォォォォォオオオオ!!!
赤黒い炎は黒井を包み、激しく燃え上がる。
「黒井様!!!!」
黒井の守護人・・・二人か・・・
魔法陣のようなものを二人は手に浮かべ、燃え上がった炎が沈下していく。
一方、俺の剣は防具になることもなく、いつもどおりに戻っていた。しかし、体が動かず、地面に手がついていた。
それまで、大人しくしていた真由香が駆け寄る。
「にい君!!」
顔色の悪い真由香。いや、多分、俺がそうなのだろう。
「はぁ、はぁ、俺は、大丈、夫だから、はぁ、ただ・・・少し、疲れただけだ・・・。」
意識が朦朧とする。
何とか立とうとしたのだが――――――
地面に向かって、体ごと落ちていく感覚がわかった。
次回まで待たれよ




