追憶23.5 マル・アルマ・ウマーノ
夜の街道。自宅へと足を急がせる会社員、集団となって盛り上がる若者、微笑ましい家族の姿、友人との付き合い、恋人たちの暖かい時間。そんな人たちを照らす店の光、街灯。聞こえてくる人々の足音、周囲からの声や車の音。賑やかな街並みはどこの世界でもあるもの。
でも国には国の個性がある。そしてここは日本だ。日本らしさというものが出ている。
「でだあ、耳寄りな情報とやらをそろそろ教えてくんねえかなあ・・・」
一人の大男、ガンズが、先頭にいる細がらの男、黒井に話しかける。
「ガンズ君、そう慌てなくても君には存分に暴れてもらうつもりだよ。」
黒井は、黒い帽子に服装も黒。唯一、分かるのは長髪だということ。
私自身の姿はフード付きコートのみ。地面から伝わる冷たい感触。でも自分で選んだ道・・・これくらい。そう、リーダーのため・・・
しばらく歩いていると、大きなマンションを前に私達は止まった。中に入り、黒井から部屋の案内をされる。部屋の中は何もなく、空っぽだった。
「さあガンズ君、この傷についてだが・・・どうやら組織の人間ではなく一般人だ。」
「ふっはっはっは!冗談だろお、おれたちに対抗できるのは、せいぜい<ヴィジランティー>くらいなんだぜぇ?」
「どちらにせよ、私に傷をつけたほどの男だからね。我々の脅威であり、邪魔以外の何物でもない。」
確かに<インディペンデント>に立ち向かうことができるのは<ヴィジランティー>くらいなのに・・・でも最強と謳われた<インディペンデント>に一般人が傷を負わせるなんて・・・
「ガンズ君、今一度確認なのだが、我々は、人々を襲ったために一つの凶悪チームとして名高いものとなってしまった。しかし、問題は人々自身にある。悪魂間が生まれたのも、元は人間が原因であることは分かっているだろう。」
「おれたちがその怒りや恨みを力として今では楽しませてもらっているぜえ」
「恨みや悔いを残した者の無念を晴らすための力だよ、ガンズ君。話を戻すが、<ヴィジランティー>はそれでも我々を排除しようとしている。事実から目を背けようとしている。許すわけにはいかない。」
「何をする気だあ・・・?」
「まず、日本のヴィジランティー本部に奇襲をかけたと偽り、彼を誘き出す。組織の壊滅は容易だが、まだその時ではない。」
「ほう・・・。組織と、その傷を負わせた男との関連性はなんだあ・・・」
「彼と戦ったとき、ヴィジランティーの人間がいたのでね。何かしら彼は組織に加担していると見たよ。そこで奇襲攻撃という嘘を思いついたのでね。」
「面白そうだあ。おれは楽しけりゃいいぜぇ。」
「まあガンズ君は力を温存しておいてくれ。完璧な悪魂間である君には杞憂かもしれないがね。」
「それはてめえもだろぉ。」
そして、黒井はガンズとの会話にいったん区切りをつけると玄関にいる私のほうへと歩み寄ってきた。
「思い出したよ・・・。裏の情報で不思議な力を持つ有名な少女がいた。名を 妙法院桃香。生まれながらにして持ったその力は、魅了する者もいたが、悪用しようとする者が君を狙ってきた。それ故に幼少にして捨てられ、消息を絶っていたと聞いていたが。君のことだね?」
「・・・」
私の力・・・物心ついた時には理解していた。普通とは違うということ。水を操ったり、動物の傷を手を翳すだけで治せたり、透視により場所を特定できたりと・・・。そして、人の記憶も操作できること。
当然、力を使えば体には影響が出た。多大な労力を消費するためか、熱や体が動けなくなることも・・・。連続で使うことも難しかった。
「ガンズ君がそれを知っているように思えないのが不思議だが、君の力によるものだろう。君にはしてもらいたいことが一つあるのだがね・・・先ほどの話を聞いていただろう。仮にも本部に奇襲をかける設定だ。場所がわからないのでね。君ならできるだろう?」
「・・・」
私は依然として口を開かない。
「何も言わない気ならそれでもいいが、こちらにも考えはある。私としても不本意だが・・・外にいる人間を殺して騒ぎを起こしてもいいのだよ?こちらのほうが手っ取り早そうだからね。情報伝達としては。」
そんな!それだけは・・・だめ。だめなのに・・・
閉じていた口を開き、私は言葉を発する。
「・・・わ、かり・・・ました。」
「いい子だ。」
黒井はそう言い残すと、ガンズのほうへ歩いていく。
「思ったんだが、そんな誤報をどうやって知らせるんだぁ?」
「私の守護人であるリンやデイもそうだが忠実に働いてくれるスパイだっているからね。組織にも何人か送り込ませたし、そこは任せてあるよ。」
「気を付けるんだなあ、いつ主を噛みにくるかわからんからなぁ」
「用心するよ。」
こんな世界・・・なんで、なんでなの・・・おかしいよ、リーダー・・・リーダー・・・
誰か
助けて・・・




