第五話 食堂の喧騒
お楽しみください!
「がははは!ほら、飲め飲め!今日は無礼講だ!」
「あの、エル君!私たちのこと忘れないでね……!」
「おや、エル君。準備が無駄にならなくってよかったよ。明日取りにおいで用意はしているから」
オヤジさんの企画で予定通り宴会が行われた。
しかも、なんだか尾ひれがついたようでエルはこれからエスカールを離れ再会した幼馴染、ミリエスと旅に出るという話になっていた。
最初はなぜそのような話しになっているんだと思っていたがあながち間違っていないことから、訂正はしていない。
ただ、ひとつ問題なのが涙を流しながら別れを言ってくるのを一回一回受け答えすることに少しだけ困っていた。なんというか、あまり涙を流す光景は見たくはないものだ。
エルは受け答えをしながらチラリと幼馴染のほうを見ると
「ほら、お嬢ちゃん。これおいしいぞ」
「え?そうなんですか……うわぁ!すっごくおいしい!これどう作ったんですか!」
「気になるか?何なら後でレシピと香辛料をやるよ。これからあいつと二人旅なんだから美味しいもんでも作ってやんな」
「もうーオヤジさん、そんな恥ずかしいこといわないでくださいよー。でも、エルは料理できなさそうですから私が面倒を見るため、気が向いたら作ってあげますよ!だからお願いしますね」
「おうおう、エルは幸せものだな」
オヤジさんとミリエスの話を聞いて周りも
「ほんとうだ!こんな美人で器量がいい女と知り合いとはうらやましいぜ!」「うちの女房と交換してほしいな」「ふぅーん、何を交換してほしいんだって?」「だから女房を……って、うおっ!お前どうしてこんなところに!」「エル君に餞別に渡すっていって忘れていたものを私にきたのよ!それよりもちょっとあんたこっちに来なさい!」「ぎゃー!助けてくれー!」
コントのような一面を見て周りは爆笑していた。
「お姉さん、私は交換しろといわれても絶対にしませんから大丈夫ですよ!勘弁してあげてくださいねー」
すると、お姉さんといわれた妻は片目をつぶりウインクしてから夫と去っていった。
「……はぁ、賑やかだなー」
「本当にそうですねぇ」
独り言を呟いたつもりだったのに、それに律儀に返してくれる人物がいた。後ろを振り向くとそこにはギルド職員のエッセがいたのだ。
「エッセさんこんばんわ」
「はい、こんばんわ。聞いたわよ?町を出て行くんですってね」
「まあ、すぐには出て行くかはわからないんだけど、ギルドの騒ぎの件もあるし早めには出て行くつもりだよ」
「そうですか。三年前から探していた女の子を見つけることができたのですからそうなのでしょうね」
「エッセさんそのことは、本当に三年前からよくしてくださってありがとうございました」
「いいえ、片手間があいたときにやっていることだったから別に気にしなくていいですよ?それに、こっちにも利益はありましたから」
「利益?」
「はい、貴方という原石と知り合えたのが何よりもの利益です……エル君、町を出て行く前にもう一度だけ勧誘させてもらいます。ギルドに入りませんか?目的の子も見つかったようですし」
「……」
エルは考え込んだ。そういえばとも思ったのだ。今までエッセには女の子、ミリエスのことを捜すので忙しいと聞いて断っていたのだ。だが、目的がなくなったことで入るだけでもデメリットがあるわけでもない。しかも、冒険者というのは定住しなくてもいいわけで、お礼の意味をこめて入ってもいいかもしれなかった。
「……エッ」
しかし、名前を呼ぼうとした寸前。
「エ~ル~」
いきなり背中に抱きついてくる人物がいた。というか、この声は一人しかいない。
「ミリエス、どうしたんだよ。今話し、って、うわ!本当にどうしたんだよ!顔が真っ赤だぞ!「エ~ル~、あはははは」これどう見ても酔っ払ってるよな!オヤジさんミリエスに何を飲ませたんだよ!」
「あーわりぃ、なんだかよ秘蔵の酒を勢いで出したんだがお嬢ちゃんが興味があるっていって、飲ませてやったのよ。そしたら……」
「すぐに酔いが回ったと」
「ああ、まさかこんなに酒に弱いとは思わなかった」
「はぁ、ミリエス。聞こえるかー」
「あれ~?あ、エルだー。久しぶり~どうしたの?なんでそんなに分身してるの~?」
「分身して見えるのはミリエスが酔ってるからだよ」
「うっそだ~」
「うそじゃな「ひっく、えっく」っていきなりなんでなくんだよ!」
「エルだ。エルだ!寂しかったよー!」
いきなり泣いたミリエスは何を思ったのかさらにギュッとしがみ付いてきて、エルの体に色々な部分が当たっていた。
けれどエルにとってはそれどころではない。
「落ち着けよ。な?俺はもうどこにも行かないから。ミリエスの傍にいるから。な?」
「……ほんと?」
じゃじゃ馬と思っていたミリエスが弱弱しく不安そうに上目遣いと涙目という合わせ技で聞いてくるのは卑怯だと思う。
でもここで否定するなどできるはずもなく。
「ああ、本当だから。だからもう泣くなって」
「……えへへ、そうなんだ。やっぱりエルは優しいね~。だから私は昔か……」
「ん?何だって?昔から何なの?」
「スー、スー」
酔いが回ってしまったからか寝てしまったようだ。エルに負ぶさるようにして体重を預け安心しきった表情で寝ていた。位置関係から耳や首筋にかかる息が何かくすぐったい。
しょうがないかと思い自分の部屋に運ぼうと思った先。
「「「「「「(ニヤニヤ)」」」」」」
今までの一部始終を見られた観客?様たちがエルとミリエスを見ていて、なんとも言えない空気をかもし出している。
「……どうしたのさ、皆して」
するとオヤジさんが
「いんや、何もねえけどよ……あーそれにしても人が集まってるから熱いぜ、そうは思わないかパン屋の親父よ」
「ああ、すっごく熱いな。これはもう氷を置いたとしてもすぐに解けちまうだろうな」
「……私もあれを見せられたら諦めがついちゃったかも」
「青春だね~」
口々にいわれる内容に次第に先ほど自分が口走った内容を思い出してしまったエル。
「―――――――!」
意味がわかり顔を真っ赤にしてしまった。
「いや、あれは別に友人としていった言葉で、別にミリエスとはそんな」
「エ~ル~、うるしゃい」
弁解をしようとしたエルだったが、途中ミリエスが起きたのかと思い急いで見るが、規則正しい寝息を聞いて寝言だとわかる。
この様子にさらに笑い声が大きくなる。ただ、ミリエスを起こさないようにか忍び笑いだ。噴出しているものもいた。あとで思いしらせてヤロウカナ。
恥ずかしさで危険な思考がよぎり始めたエルだが、オヤジさんが上手く意識を誘導する。
「ほら、エル。お嬢ちゃんがいつまでも男の背中ってのは可哀想だ。早くベッドにつれてってやんな」
「ああ、わかったよ」
確かにオヤジさんのいうことももっともだと思い直し、了承したエル。ミリエスを落とさないように背中におんぶしてから、エッセに一度だけ向き直る。
「エッセさん、さっきの話エスカールから出る前にもう一度返事をしにいきます。今はこいつが……」
「はい、わかりました。確かに今はミリエスさんのほうが優先順位は高そうですからね」
「そういってもらえるとありがたいよ。じゃあまた」
「はい、いい夜を」
そういって、エッセとも分かれる。
エルは背中に柔らかい重みを感じつつ部屋についた。
そのまま自分が使っているベッドに横にして毛布をかけてやる。
「んっー」
一瞬エルというしがみつく対象がなくなったからか、眉を潜めたがベッドの毛布を握ると再び安らかな寝息を立て始めた。
エルは一度だけミリエスの寝顔を見て、頭を撫でる。するとミリエスは
「くふふふ」
いい夢でも見ているのか笑い始めたのだった。
エルは苦笑しつつも、最後に
「ミリエス、お休み」
そういって、自分はもう一度宴会会場へと戻るのであった。
翌朝
「え、え、え、ええええええええええええっ!」
ミリエスの絶叫にも近い声を聞いて目が覚めた。
といっても、あの後戻ったエルはオヤジさんや周りの人たちに酒を飲まされたりして酔いつぶれ食堂でそのまま寝てしまったのだ。周りを見れば皆いないことからそれぞれ帰ってしまったのだろう。オヤジさんもいなかった。
「どうせなら起してくれたらよかったのに」
そう思いながら、悲鳴が聞こえたミリエスのところにいくと。
「どうして、どうして、どうして!」
エルのベッドでぶつぶつと呟くミリエスの姿があった。
「おはようミリエスどうしたの?いきなり悲鳴を上げて」
普通に挨拶して話しかけたエルだったが、ミリエスの反応はすごくて。
「エル!ちょっと、これどういうことか説明してほしいんだけど!」
「説明?」
「どうして私エルのベッドで寝ちゃってるの!なんか大事なものを失ってないよね!」
「ぶふっ!」
混乱しているミリエスから変な言葉を聴いて思わず噴出してしまった。
「してないよ!」
「ならどうしてここで寝てるの!」
「それは、昨日ミリエスがオヤジさんのお酒を飲んで俺に寄りかかってきてそのまま寝ちゃったから、俺がここに運んだだけだよ。さっきまで食堂で俺も寝てたし」
「ほ、本当に?何もなかったの?」
「ないよ」
「そ、そっか。そうなんだ」
ミリエスは安心したと同時になんだかちょっぴり、がっかりした表情をするがすぐに何かを思いついたのかエルに問いただす。
「エル!私昨日何か変なこといってなかったよね!」
「変なこと?」
「そうだよ!昨日のことあんまり覚えてないの。何か喋ったような気がするけど内容まで確実に覚えてるわけじゃないの」
そこで一瞬エルは言葉に詰まる。変なことではない、変なことではないが心揺さぶられる言葉と仕草を見て、聞いてしまったから即答はできなかった。
「うぅ~!何か喋ったんだ!エル、しっかりと教えて!そして全部忘れなさい!いいや、忘れてからもう一度必要なときに思い出すような薬を飲んで!」
「無茶言うな!そんな薬があったら怖いわ!」
「だって、だって、だってー!ならエルを殺して私は生きるわ!」
「それ最悪だろ!俺だけ死んでるんじゃないか!」
「だって、忘れさせるにはこれしかないんだもん!」
「ほかにも穏便に済ませようとしようよ!「《真言》」って、まって!それは洒落にならないって!前にも言ったけど何かあったら魔法唱えようとするのやめろ!」
「うぅ~」
二人はまた漫才みたいなやり取りをしていたところ。
「おい!エル!」
ノックも無しに慌てたオヤジさんが部屋に入ってきた。
「どうしたの、オヤジさん」
冷静に質問を仕返すエルだったが、少しも冷静になれないオヤジさん。慌てた様子で内容を話した。
「一大事なんだ!エッセさんとパン屋の親父の娘さんが攫われちまったんだよ!」
「なんだって!?」
「さらった犯人が言うには、昨日ギルドで暴れた男女二人を広場まで連れて来いと言っているらしい。今ギルドと町は大騒ぎだ!」
「エル」
先ほど恥ずかしがっていた人物とは思えないミリエスが、鋭い目でエルを見てくる。そして、ミリエスの言いたいことはわかった。
一度エルは頷き、
「ああ、二人を倒しにいこう。オヤジさん案内お願いします」
そういって、二人は攫われた二人を救出するため広場へと向かうのであった。
こんばんわ、第五話目でございます。
さて、今回のお話エルとミリエスのコント?が中心になっていたかもしれません。なっていなかったかもしれませんが!
ですが、最後に事件が起きましたね。これが二人で行う最初の事件ではないでしょうか。
え?ギルドで騒ぎを起しただろう?いいえ、あれは事件ではなりません。じゃれあいです。男はじゃれあっていただけなのです。体を張りながら。
さて、次回は攫われた二人を助けるお話になりそうです。また次回お会いしましょう。では。




