勇気のきっかけ
電車の音と共に全身に風を浴びる。暖かくなった風は少し気持ちいい。
まだ慣れぬ通学。
行き先が間違っていないか確認してから、電車に乗り込んだ。
オレはいつも通り視線を携帯画面に戻した。発車を知らせる警告音が鳴り響く。
前から衝撃があって、オレの視線が揺らぐ。よろめく体を右足で踏ん張り立て直した。
イライラしながら何がぶつかったのかを確認しようと視線を上げると、少女と目があった。
少女が佐々木だと知った瞬間、オレは慌てて視線を画面に戻した。
佐々木は別に友だちではない。
以前から嫌がらせをしてくるような人間で、性格が合わないのを知っている。
オレはぶつかったこと出来事自体を無かったのだと思いこんだ。
佐々木は少し離れた場所で背中を向けて床にカバンを置いた。
その気配にあまりぎりぎりの時間に通学するもんじゃないなと、反省した。
徐々に電車内が混んでくる。ドア近くにいたオレも押されて内側まで流れていた。
携帯画面を見るのも難しいほど混んできたとき、オレは前に立っている女性の息づかいがおかしいことに気が付いた。
オレは視線を上げ、ゆっくりと女性の顔を覗く。
顔色は真っ青で息が荒い。そしてまだ春先だというのに大量の汗をかいていた。
電車がゆっくりと動きだした。目の前の女性はそのスピードすらもついて行けず、よろめきからだがぶつかった。
「大丈夫ですか?」何かを考えるより先に、オレは言葉が出ていた。
「顔色が悪いですよ、次の駅で休んではどうですか?」
ゆっくり顔を上げる女性。その表情は今にも泣きそうだった。
少し俯いたから、頷く女性。その時、電車がブレーキを利かせながら減速し始めた。
駅に着き、ドアが開く。
だが、女性はかなり弱っているのか、人をかき分けて降りることができない。
小さな声で降りますと声をあげているのだが、周りの人には聞こえていないようだった。
「すみません!降りますので、開けてください!」
気が付くとオレが声を上げていた。
オレは女性を誘導し、なんとかホームに降りさせる。
女性をベンチに座らせ、オレは駅員さんを呼びに行った。
背後で電車が発車する音が聞こえた。これで遅刻確定だ。
女性を駅員さんにお願いし、オレは次の電車に乗った。
学校に着くなり、先生に怒られたが、まぁ仕方がない。
やっと教室に入り席に座ったところ、隣の席の佐々木とまた目があった。
「えらいじゃん」
そういうと、佐々木は授業のノートに視線を落とす。
佐々木の耳が真っ赤になっていたが、気のせいだろうか。
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