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雪の朝

雪のつもった道。白い息を吐きながら手袋を持ってくれば良かったと後悔する1人の少年がいた。


少年、浦河うらが ようはホクリク中央中学校に通う2年生である。

早朝に雪の上をを歩くのは体にこたえるもので、洋は身を震わせながら歩く。

角を曲がるとみなれた茶髪の女子生徒が歩いているのが見えた。


「おはよう、亜里沙。」

「あ、洋!おはよう!」


 手を降るショートヘアの彼女は春樹はるき 亜里沙ありさ。ガラス玉のような瞳に長い睫毛。降り積もっている雪のような白い肌を持つ彼女はは洋の幼なじみである。同じ地区にすんでいるため洋とは保育園からずっと同じだ。

亜里沙の美人と評される風貌に幾多の男子たちが夢を見た。が、声をかけたが最後、夢見た美人とはほど遠い亜里沙が顔を出すため「残念美人」と評されているおてんば娘だ。こうして洋が亜里沙への脳内評論を重ねている間もバリバリ元気である。疲れないのだろうか…。


「ねぇ知ってる!?kimAIraが新商品出すんだって!!」

「あぁ。ニュースでやってたよな。てか、お前ニュースみるのか?」

「失礼しちゃうなっ!毎日見てます〜っ!」


亜里沙がニュースを見ているという意外な事実にこそ驚いたが、洋もkimAIraが新商品を出すことは知っていた。

kimAIra……アメリカの大企業だがそこらの普通の企業ではない。kimAIraはかつて違法とされていた、キマイラと呼ばれる「遺伝子組み換え生物」の研究・販売を専門に行う大企業である。全世界でキマイラの研究、販売が法律で認められたその年に設立された。

kimAIraはキマイラ事業の先頭を走っており今でもそれは変わらない。今ではキマイラも人々に身近な存在になりkimAIra製のキマイラはブランド化。「純キマイラ」なんてよくわからない呼び名までついている。


「今回は何を作ったんだ?前は確かユニコーンだったよな。」

「そう、それがね凄いのっ!!今回kimAIraはなんと、龍を作ったんだよ!!」

「ユニコーンと龍って中二丸出しじゃねえか……。」

「それは私も思ったけどっ…龍って聞いて気がつかない??」

「だから中二だって……。」

「もういい…あのね、ジパングって龍信仰のこってるじゃん!」

「あっ、そうか。」


kimAIraは毎回架空の生物をモチーフにしてキマイラを作っている。そして、完成したキマイラの卵をそモチーフとなった生物とつながりのある地域に送るのだ。目的はその地の人々に直に完成度の高さを認めてもらう。より多くの人々にキマイラと慣れ親しんでもらう事でキマイラへの抵抗を減らすなどだ。今回は龍の文化が根強く残るジパングに送り込むとみるのが妥当であろう。亜里沙はそれを知って朝からおてんばなのだ。


「私、あのかわいいキマイラちゃんに絶対会いにいくんだ〜♫」


浮かれる亜里沙。亜里沙にとってはあのビジュアルがかわいいに当てはまるらしい。自分の幼なじみはとんんでもない価値観をもってしまったと、洋はため息をついた。











雪に足下をとられながらもやっとの思いで教室に着くと金髪の2人組が多くの生徒の中心で話していた。一人は、千歳(ちとせ)  (りょう)。亮は自他共に認めるイケメンで多くの女子生徒を夢中にさせている。亮は洋達が来た事に気づいたらしく、手招きをした。


「おはよう、亮。」

「おっす!洋達は今日もラブラブだなー。」と返す亮。


無類の噂好きである亮のせいで、洋と亜里沙が付き合ってる、なんていう噂が立っているのは洋の耳にもはいっていた。全くもって迷惑な奴である。


「お前がそういう事をいうから噂になんだろーが。話をそらすなバカ。」

「そうだよ〜!いくらなんでも洋はありえないよぉ〜!」


今軽く亜里沙にけなされた気がするのだが…。洋の疑問をよそに馬鹿2人組は話し続けている。そんな中、洋は亮の隣にいる金髪女子からの目線に気がついた。


「ごきげんうるわしゅう、浦河?」

「お…おう。」


もう一人の金髪、佐藤さとう 真奈美まなみはこのクラスで亜里沙と同様かそれ以上の美人である。流した金髪は絹のような輝きを放っておりそのお嬢様キャラにはふさわしい。このお嬢様キャラは一見すると違和感がないが度々熱血キャラである本人がでてくる。作っているのがお嬢様キャラなだけに相当痛い。亜里沙と同じように残念美人である。



「そういえばさっき皆で話したんじゃないのか?」

「えぇ。kimAIraの新商品について話してましたの。」

「お前らもかよ……」


洋が飽きれるとと亜里沙と口喧嘩をしていた亮がふと、洋の方に向き直った。


「そうそう!俺たちものすごい事に気づいたんだぜ!?」

「なになに!?何に気づいたの!?」


亜里沙が尋常じゃない食いつきをしたので少々驚きつつも亮は満足げな笑みを浮かべた。周りのクラスメイトはまた始まったよ…的な顔で亮を見ている。その様子からしてたいした事ではないのだろう。


「いいか……?……きっと龍はジパングにやってくる!!!」


亜里沙は目を輝かせたまま硬直している。亮は亜里沙が驚きのあまり声が出ないのだと勘違いしたのか、いや、亮ならそれしかあり得ないだろう。ともかく亮はそのまま話を続けている。

先進技術国であるジパングといえども、キマイラなんてのは規格外で未知の存在だ。常に話題に飢えている学生にとっては格好の餌になるだろう。


「…というのが俺の推理だ!どうだ?イケメン亮さまの素晴らしい推論は?」


自らの推論を語り終えた亮は洋達にドヤ顔をした。こんなに自慢げな亮を罵倒するのは良心が痛むが(嘘)少しうざくなってきたので洋は亮に真実を伝える決意をした。


「亮。俺はこの言葉を言う事でオマエを傷つけるかもしれないが言わせてもらいたい。」

「うむ?なんでも申すが良いぞ!」

「だいたい皆予想できるよ。」


その後亮がショックで数分立ち直れなかったのは言うまでもない。











亮がショックから立ち直ったのは朝のHRの時間だった。


「よしっ!今日も一日頑張ろうぜっ!!」

「亮様が立ち直られたわっ!!さすがです〜!」

「まぁ俺だからな☆」

「きゃー素敵っ!!」


バカップルか……とため息をつくクラスメイト達。この2人は本当に役に入りきっているから突っ込んでいいのか曖昧すぎる。と、亮はいつもと異なるクラスの様子に気づいたらしく、洋に問いかけた。


「ん?まだおかやん来てないのか?」

「あぁ。」と洋は頷く。


亮のいうおかやん、というのは洋たちのクラスの担任、岡山おかやま 良太りょうたのニックネームである。おかやんは新任3年目の新人教師で少し頼りない印象をうける男性だが、それが転じて洋達生徒とは親しい間柄となっている。だが、一部生徒になめられているのも事実だ。だから、このような事を言われているのだろう。


(にしても今日は本当に来るのが遅いなぁ……。)


洋を含む生徒たちの不満がピークに達したその時、教室の扉をぶち破るような勢いで岡山が入ってきた。そのまま教台に突っ込む。

哀れみの目を向ける生徒たち。


「大丈夫ですか?先生……」


半ばあきれながら学級委員長が声をかけると、岡山はよろよろと立ち上がった。


「あ…あぁ…、ありがとう、守口さん。」


これは毎朝恒例となっているので誰も触れない。岡山はかなりのドジなので、このような事は日常茶飯事なのである。その度に明るく笑い飛ばしているが、今日はいつもと違った。少し緊張というか、同様しているように見える。他の生徒たちもそれを感じ取ったらしくいつもとは違った雰囲気になる。


「っ、じゃあHRを始めるぞ。えーっと俺からの連絡はー」


よろけつつ教台についた岡山はいつもどおりHRを始める。岡山の報告は委員会の集まりなどたいした事ない内容だった。おそらく岡山を困らせている要因ではないであろう。洋がそうこう考えているうちにHRの終わりを告げるチャイムがなる。


「おっと、もう終わりか。じゃあこれで終わるぞー。」





「洋、なんかおかやん変じゃなかったか?」


岡山がHRを出て行った後、廊下で亮が洋にそう話しかけてきた。どうやら亮も岡山の異変を感じ取ったらしい。


「あぁ、確かに変だった。なにかあったのか?」

「う〜ん、俺も分かんないけど…これは事件のにおいがする!!」


と、名探偵のようなポーズを決める亮。


「どうせ仕事忘れて怒られたとかそんなんだろ。」

「ちょ、そこは乗ろうぜ洋!?」


亮に駄目出しされたことに不満を抱いた洋は亮をスルーして窓の外を見る。と、なにやら校門の前に黒い輝きを放つ直方体が見える。一般の車にしては少し長いようだ。


「おい、あの校門の前の黒いのなんだ??」

「お前、今日コンタクトしてないのかよ…どれどれ??」亮が窓から乗り出し様子を見る。その次の瞬間大慌てで洋に向き直る。


「あれリムジンじゃんっ!!!え、ちょ、なんで!?」

「リムジンごときでそんなに騒ぐなよ……」


とはいいつつやはり車の中からスーツに見を包んだ外人達が姿を現した。ごつい体に黒尽くめのスーツ。どう見ても怪しすぎる。自分たちの怪しさを自覚しているのか否か周りをやたらと気にしている。自分を無視された亮は、何を見ているのか気になったのか洋のとなりから亮も窓をのぞきこむ。


「なんだ?あの車…めっちゃヤバイ感じじゃね??」


とはいいつつも、声が笑っている亮に洋はあきれる。


「オマエって本当に危機感がないよな…」

「えっ!?あれ、マジでやばいの?」

「わかんねーけど……。まぁ大層なもんではないだろ。それより一時間目体育じゃなかったか?早く行こうぜ。」


体育を行う体育館は二年生の教室が入っているこの南校舎とは離れており、移動に時間がかかる。着替えの時間も考えるとそろそろ移動を始めなくてはいけない。

亮と洋は黒塗りの車を気にしつつも体育館へ向かっていった。


やがて、チャイムがなり授業が始まると廊下には1人いなくなった。すると窓の外、洋達の見ていた先程の外国人達が動きを始めた。自分達の様子を見る者がいなくなったことを確認した外国人達はゆっくりと車の扉を開く。中から現れたのは2人の青年だった。


「やっと授業はじまったね〜マイクくん♪」

「そうですね…。」


と、体を伸ばす2人のそばで外国人達が檻の様な物を取り出した。布がかけており中の様子は外から見えなくなっている。

 

「にしても、わざわざ学校まで持ってこなくても良かったんじゃないですか?」

「いやいや〜こういうもんはやっぱり持ってきて見てもらった方がいいからさ♪」


楽天的な黒髪の青年はそういうとおりをトン、と叩いた。その瞬間



グアァァァァァオッォォォオッ!!!!!!!



「うわぁっ!?」



驚く金髪の青年の様子をよそに黒髪の青年は「うん…鳴き声が大きすぎるな…」などと独り言をつぶやきながらメモをとっている。


「もぅヤダ……」


そう呟くと金髪の青年は助けを乞うように、灰色の空をあおいだ。















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