―CHIP―
翌朝、一通りの準備を済ませ、余裕ができたので、テレビをつけてニュースを見てみた。きっと昨日の事故のことを載せてくれているのだろう、と信じていたのだ。しかし、ニュースにはなっていなかった。
「まだマスコミが処理できていないのだろう」そう信じたい。
家を出ると、可憐が待っていた。
「おはよう」元気よく声をかけてきた。俺と一緒に登校するのがそんなに嬉しいのか。とりあえず今日は、気絶しないように気をつけよう。
「おはよう。で、単刀直入で悪いが、昨晩の続きだ。まず、目が覚めると家の前にいた件についてだけど……」気になっていた出来事の中で最も疑問に思ったことだ。
「あの、私あれからずっと考えたんだけど……あのことは全部夢じゃないかなぁ?」いきなり何を言い出すんだ!?
「当事者が二人もいるのに、夢なわけがないだろう。頭でも打ったか?いや、もともとこの程度だったか。すまない」俺は、また矢を向けられていた。
「ま、待て!落ち着け!話せば分かる!!」結局、また同じ失敗をくり返すのか………
「せっかく助けたんだ。無益な殺生はやめろ」突然、20代半ばぐらいの男の人が現れた。俺は、すごく驚いた。人の気配が全くしなかったところに、突然この男が現れたからである。男は白衣を着ていて、医者という感じだった。だらしなく生やしたひげからは、気だるさがにじみ出ていた。
その瞬間、可憐は不意にも、矢を放ってしまった。このままではこの男の人に当たってしまう。だが、あまりにも急な出来事で、動作が一瞬遅れた。そのせいか、俺はこの男を助けることをあきらめていた。
しかし、矢はこの男に当たらなかった。
矢が男にあたる寸前に、矢は消えた。
「な、なにが起こったんだ?」俺は手品か何かかと思った。しかし、これこそ種も仕掛けもなかった。
「なにが起こったって?知らねぇのか?CHIPっていうんだぞ」CHIP?なんだそれは?ICチップのことか?いや、そんなことはどうでもいい。問題は、どうやって矢を消したっていうことだ。
「どうやって矢を消したんだ!?」
「だからCHIPを使ったって言ってんだろ」CHIP?ひょっとして、新種の手品の道具か?
「CHIPって何だよ!?」そう発言した瞬間、俺と可憐は、こいつに触れられて、目の前が一瞬真っ白になった。本当に一瞬だった。
俺と可憐、そしてこの男は一瞬で、場所を移動していた。こういうことを瞬間移動と言うんだと思った。
薄暗い。ここは手術室のようだ。
「わかっただろ?これがCHIPだ」
「わかんねぇよ!!なんだよCHIPって!!」
「まだ気づいてねぇのか?あのあと何やってたんだよ!」あのあと?何のあとだ?
「昨日、事故ったろ?あのあとだ」こいつ、事故のことを知っている。
「詳しく話せ!!あの事故は一体なんだったんだよ!!」俺は、こいつから知っていることを全て聞きだすつもりだった。
「まぁそのことは追々話す。その前に俺の質問に答えろ!!CHIPの存在に気づいてないのか?」だからCHIPって何なんだよ!だんだんイライラしてきた。
「だからCHIPってなんなんだよ!そんなもん聞いたことねぇぞ!!」
「はぁ……知らねぇのか………めんどくせぇなぁ。」
「あの事故のあと、お前とそこの女は、ここに運ばれて、手術を受けた。もちろん俺によってな。んで、そんとき俺は、お前らの脳にコレを仕込ませてもらった。」そういって男は、ICチップのようなものを取り出した。
「これは、CHIPって言うんだ。これを脳に取り込むと、超能力が使えるようになる」俺は吹き出してしまった。いきなり何を言う出すかと思ったら、超能力かよ。馬鹿だこいつ。
「信じてないって顔してるな。ならためしに俺の能力を見せよう。」そう言って男は、指を鳴らした。
すると、壁から矢が一本飛んできた。そして、対になっている壁に突き刺さった。
その後、男はその矢を抜き、可憐に手渡した。
「う、嘘………!?」今まで何も言わなかった可憐が、ものすごく驚いている。
「これ、さっき健吾に向かって射った矢だ。」俺に向かって射った矢?あの消えたやつか?
「そうだ。お前らが殺生に使った矢だ。これを見てもまだ信じないって言うのなら、次はお前らのどちらかをブラジルまで飛ばそうか?」あんなものを見せられて、そのうえ脅されたら、信じるしかない。
「わかった。信じる。だが何なんだその超能力とやらは?」
「さっき説明しただろ。CHIPだ。これを脳に取り込むと、超能力が使えるようになる」その言葉に偽りはなさそうだ。
しかしそうなら、なぜ…
「なぜ俺たちをここに連れてきた。そしてここはどこだ!!」俺は怒鳴った。
「ここは、俺たちの研究所だ。昨日ここでお前ら二人を手術した」手術?だったらここは、手術室なのか?
真ん中にベッドのようなものがあった。そこを見ると、血が染み付いていた。
「そしてお前らを連れてきた理由は、お前らにもCHIPが取り込まれているからだ。昨日の事故のあと、俺が瞬間移動でお前ら二人を連れてきて、そこで手術した」
なるほど。それなら俺たちが家の前にいたことは説明できる。もしこいつが超能力を使う医者なら、銃で撃たれた俺たちを、手術できる可能性はゼロではない。時間のトリックも可能になる。しかし………
しかしそんな馬鹿らしいことが起こるのか?
「俺は遠音国立大学で、優秀な学者を集った。それで能力開発チームを作った」遠音国立大学?国立大学のなかでもトップクラスの大学か?
「そのチームで超能力の研究をしたんだ。そして長い年月を経て、このCHIPの研究に成功したんだ。」
「それを俺たちの脳に取り込んだってことか?」でもなぜ俺たちなんだ?他にも候補はいたはず。
「あぁそうだ。だがどういうことか、男の方には、俺が手術する前からCHIPが入っていた。おそらく、電車の中でお前らを襲ったやつの仕業だろ」あいつか……
「あいつは一体誰なんだ?」
「やつらは、ZONEっていって、もともとは俺らと一緒に能力開発をしていたんだが、いきなり裏切って、研究資料を持って行ったんだ。それ以来、連絡が途絶えた」
「研究資料を持っていかれたなら、どうやって完成させたんだ?」
「研究資料なんてもん、なくたって作り出せるところまで研究は進んでたんだ」
「話を変える。俺たちにもCHIPが取り込まれてるって言ったな?それは一体どういう能力が使えるようになるんだ?」
「CHIPは取り込んだ人間に潜んでいる能力、つまり潜在能力を引き出すのを促すものだ。だから、その能力は、固有のものになる。たとえば、俺は触れている物体、もしくは自分を瞬間移動させる能力だ。さっきお前らも見たろ?アレだ」
「俺は、CHIPの作成者の一人だが、誰にどんな能力があるかまではわからねぇ。能力が目覚めるのをひたすら待つだけだ。楽しみだろ?」
「もうひとつ聞かせろ!お前らの目的は何なんだ!!その研究結果を政府に発表すれば、莫大な資金を稼げる。力しだいでは、国家ひとつ滅ぼすことだって可能なはずだ。一体何が望みなんだ!!」
「金を稼ぐ気も、国家を滅ぼすつもりもない。俺はただ、この実験で、死人を生き返らせられる能力がほしかっただけだ。そしてアイツを………」男の目は潤んでいた。
なんだ。それだけのことだったのか。
「だったら手伝ってやる。そのCHIPの使い方とやらを教えろ。」
「わかった。俺の名前は神童和義だ」
「俺は、雨宮健吾」俺はそう発言したあと、可憐を見た。挨拶をするように促したつもりだったが、可憐はきょとんとしていた。そうか、こいつ、この一連の会話に全くついてこれなかったのか。とことん残念なヤツだ。あとで、くわしく教えてやろう。
「えっ?自己紹介すればいいの?私、白峰可憐。よろしく」
そして俺たちは、CHIPを習得するために、神童の能力で、場所を移した。
今回は非常に長かった。
もうこの小説でギャグを登場させるのやめます。無理です。シュールすぎます。
そのうち別のやつ作って、そっちを完全にギャグ小説にします。