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三つ目の話 ~平和のガトーショコラ~

 「勝負・・・と言われてもねえ。大体僕は本家の方とは縁を切ったから、今じゃ弟が正式な桃太郎の子孫なんだけど」

「こちらにも色々と事情があるんだ。大体お供の奴らだってお前についているじゃないか。お前の方が桃太郎にふさわしいんじゃないか?」

「いや、別にそういうわけでもないと思うけど」

「桃さんの弟は性格がひねくれてるから私達が愛想をつかしたのよ!あんな奴よりは桃さんの方が絶対いい桃太郎になれるわよ!!」美里が鬼に噛み付くようにして言った。

「ほら、ああ言ってるし。お前が俺と戦う理由は十分にあるぞ」

「そんなこと言われてもねえ。勝負って何の勝負なんだい?」

「もちろん命を懸けての喧嘩に決まってるだろう」

「いやー。無理だね」

「なぜだ?」

「僕は家を飛び出してきちゃったから戦いの仕方なんて知らないんだよ」

「それじゃあ勝負にならないじゃないか!」

「うん。僕は君に3秒で負けられる自信があるよ」胸を張って言う桃太郎に、時彦は威張るところが違いますよ、と心の中でつっこむ。

 そんな中、鬼はよろめきながら言った。

「戦えない桃太郎など・・・来た意味が無いじゃないか!」

「うん。だから君には弟の方へ行ってもらえると助かるんだけど」

 大きなため息をついた鬼は、そこで突然動きを止めた。

「なんか・・・甘い匂いがするな」

「えっ、ああ・・・。ガトーショコラのことかな?」

 金太郎の頼むモーニングセットは必ず金太郎の大好物であるガトーショコラをつけることになっていた。美里が桃太郎に(うなが)され、嫌々ながら鬼の前にケーキを置く。

「これが・・・牙頭薯弧羅(ガトーショコラ)・・・」

「・・・・・・。食べてみる?このケーキ、ウチで焼いてるものだから」桃太郎は既にツッコミを放棄していた。

「いいのか?」聞きつつ既に一口目は鬼の口へと運ばれている。後ろから金太郎の嘆きの声が聞こえてくるが、今は誰も相手にしない。

「どう?美味しいかな?」少し不安げな桃太郎には答えず、鬼は無言でケーキを平らげるとおもむろに背を向けた。

 そのまま立ち去ろうとする鬼を慌てて呼び止める。

「ゴメン。口に合わなかったかな?何なら他のもあるけど―――――」

「呼び止めてくれるな。俺は・・・自分が情けないんだ!あんたの手は戦うための手じゃねえ。うまい気獲帰(ケーキ)を作るための手だ!それなのに俺は・・・アンタに勝負を挑んで・・・。もう2度とこない。安心して、家得毅(ケーキ)作りに励んでくれ・・・」

 そう言って、鬼は重い足取りで店を出て行った。

「なんだったんだ?あいつ」

「まあ、いなくなってくれて清々したっていうか・・・あれ、桃さん?桃さーん!?」美里の声を後ろに置いて、桃太郎は店を飛び出した。


「鬼君!!待ってくれ!」

「なんだ?もう俺は――――」

「そんなにウチのケーキが気に入ったのなら、いつでも食べに来るといいよ。僕としては、敵じゃなくてお客さんとして来てほしいけど」それを聞いて鬼の眼に活力が戻った。

「本当に、いいのか?」

「僕のケーキなんかでよければ・・・」

「ありがとう!今度は客として必ずまた来る!!」そういって今度こそ鬼は歩き出した。



「というわけで、また来るって」

「さっすが桃さん!敵にすら優しさを見せるなんて!惚れます!!」美里が黄色い声を上げた。

「なんで来ていいなんて言ったんですか。後から後悔することになるかもしれませんよ」

「元々店長を殺そうとして来た人なんですからね」打って変わって昇と時彦が厳しい口調で言う。

「でもすごくケーキ気に入ってくれたみたいだし」

「いや、こちらを油断させる気かも・・・まあアイツはバカそうですし大丈夫だと思いますけど」

「そんなに言ったらかわいそうじゃないかな?」

「そうやって哀れみをかけるのが間違いなんです!!」

「えぇ・・・・そ、そういえば彼、随分体が丈夫そうだったねえ」桃太郎は話題を逸らす作戦に出た。

 それに自分のガトーショコラを食べられたショックからようやく立ち直った金太郎が反応する。

「何でだ?まあがたいは良さそうだったが」

「だってみっちゃんが薬入れてたケーキを平気で食べてたもんね」今度は一斉に美里へ視線が集中する。

「あれはキジがこっそり何か渡してきたから入れただけで――――」

「それにあれはただの即効性の眠り薬ですよ。店に迷惑がかかると困るので後からこっそり()ってしまおうと思って」

「色々とツッコミどころがいっぱいだが、店長それを見てて止めなかったんですね・・・」昇は複雑な表情をして言った。

「とりあえず!彼はこれからはお客さんだからね!!間違っても始末しようとか考えちゃ駄目だよ!」しかしこの声が皆(主に時彦)に届いたのかは微妙であった。


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