4:小屋にて②
「お前か! 人のいない間に勝手に入り込んで、バーバラっ!」
小屋の奥へと向けて怒鳴ったカイルに、一拍の間の後、はぁい、と間延びした綺麗なアルトの声が返ってきた。
「やっぱり! どうやってここに入りこんだ!」
「いやぁねぇ、人聞きの悪い~」
溢れかえった物達を、泳ぐがごとくわっさわっさとかき分けて進んできたのは、その光景にはそぐわない美女だった。
煌く葡萄色の瞳が目をひく、目鼻立ちのはっきりしたまぎれもない美人。ぽってりとして赤い唇がなんとも言えず色っぽい。チョコレート色をした髪も艶やかで、ウェーブがかったそれが顔周りをはっとするほど華やかに縁取っている。
(うわぁ、こんな人ホントにいるんだ。こんなすんごい美人!)
凹凸のはっきりした体に、細い肩紐の真っ赤なスリップドレスは非常に似合っているのだが、豪快に足を上げて物をまたぐし、平気で体を前に倒すわで、汐里は彼女が目の前に辿り着くまで、ひやひやしっぱなしだった。
(この人。すんごく美女だけど、残念な人だわ。なんてもったいない!)
チラと覗く美脚が、女である汐里にもちょっと目に毒だと思うくらい、なまめかしい。色気の中に品も感じられて、髪が乱れていてさえ、崩れたかんじを受けないのには感心してしまう。
(なんか、いいとこのお嬢っぽい雰囲気をしてるからなのかも。あー、その色気の十分の一でいいから欲しいっ!)
親友のリカに、『色気ゼロ』と断言されている汐里としては、羨ましい限りの理想の姿だ。
「あまり細かいことばかり気にしすぎると、禿げるわよお。カイル」
ようやく、カイルと汐里の前に辿り着いたバーバラは、自分のドレスの裾に付いた埃を払って、悪びれず言った。
「こんなの、いつものことじゃない?」
邪気のない笑顔を満面に浮かべて、バーバラは小首を傾げた。
汐里は、そのあまりの愛らしさにノックアウトされそうになったが、カイルには全く効き目がないようだった。
平然とバーバラを白い目で見下ろすと、容赦なくバーバラの発言をばっさり切り捨てた。
「そこは威張ることじゃない。それに、『細かいこと』じゃないし、俺が特別口煩いわけでもない」
カイルが、大きなため息をつき、すうっと空気を吸い込んだ。……と思うと、怒涛の反撃が始まった。
「なんだ、この有様は。ここはお前の家か? いや、違うだろう。勝手に入りこんで、たかが半日やそこらで、どうしていつもいつも、ここまで荒らすことが出来るんだ。そもそも、小屋の鍵はどうした。鍵を今回は三重に掛けておいた筈だ。まさかあれを壊したと言うのか? こんな人が来ないところにまで物盗りが出たのかと思って一瞬、頭が真っ白になったぞ」
見事な一息でのお説教に、汐里は思わず心の中で拍手を送った。
「すご……。一体どこで息継ぎを」
感心するのを通り越して、呆れるほどのマシンガンお説教だった。
けれど、それはバーバラには効き目がないらしい。
「あら、だってどこに何があるのか、さっぱり分からなかったんですもの。せっかくここまで来たのに、カイルはいなかったし」
けろっとした表情で、彼女は言ってのけた。
「そういう問題じゃない。無断で中に入り込んでいること自体がそもそもおかしい。来るなら来ると、前もって連絡があれば、こちらにも対策のたてようがあるのに」
「ところで」
カイルの話を見事にスルーしたバーバラは、汐里に向かってとろけるような微笑みを向けた。
「そちらのかわいいお嬢さんは、どなたかしら?」
「まだ、名前を聞いてない」
「何をやっているのよ」
バーバラに指摘されてダメージを受けたらしいカイルは、うなだれて口をつぐんだ。
「こんにちは。私はバーバラよ」
美女の満面の笑みに目を奪われながら、汐里はぼんやり答えた。
「あたしは汐里。渡塚汐里です」
「シオリ? 可愛くて素敵な名前ね。よろしくね」
バーバラの白魚のような手が差し出された。
「あ、はい。よろしくお願いします」
汐里が遠慮がちに自分の手を差し出すと、すぐにその手はバーバラの両手で力強く握られ、上下にぶんぶん振られることになった。
「よろしくねっ。あ、ちょっとだけ、散らかっているけれど、ゆっくりしていってね!」




