3:小屋にて
「そこが、小屋だ」
「え?」
樹海との境界線としてなのか、その小屋と樹海との間には、とても頑丈そうで高い鉄製の柵が巡らされていて、ずっとどこか遠くまで続いている。
手入れの行き届いた広大な庭を備えた『小屋』が、見渡す限り木の空間の中に奇妙に存在していた。
場所を考えれば、山小屋と呼べなくはないかもしれない。
だが、しかし、汐里の感覚では、それは小屋とは呼べないし呼ばない。
見た限りでも、日本の一般的な一軒家よりはるかに広く、汐里の自宅なら軽く五、六軒は並ぶだろう。
「これが『小屋』? この小屋のほうがうちより断然、でっかいんだけど。なんっか腹立つー」
「ああ、小屋だ。屋敷は別にある」
ケンカを売っているのかと汐里が聞きたくなるほどに、当然のこととしてカイルは再びそれを小屋と呼んだ。
「見てくれは狭いが、ここにも、食料は蓄えがあるから心配しなくても大丈夫だ」
「狭いぃ?」
こんな大きな『小屋』が、もし日本にあったとしたら、キャンプ場で貸し出したとしても、団体様3組入ります! とか言って案内できそうだ。仮に、もしこれを家として住めと言われたら、汐里だったらおそらく喜んで住むと思う。広いし、庭付き一戸建て。樹海の中にあることを考えなければ、快適そうである。
「ホントにこれのどこが小屋だってゆーのよ。だったら何? うちは物置かってゆー話よ……」
見れば見るほど、おしゃれなコテージにしか見えなかった。庭には、畑らしきものもあって、周りは花や草木など様々な植物が生い茂って、一枚の絵画のようだった。
ぐるるうううううぅ。
小屋に見入っていた汐里を、お腹の虫が現実に引き戻した。
「お腹すいた……」
「何をぶつぶつ言っているんだ。食事にありつきたいなら、さっさと歩く」
声のした方に顔を向けると、カイルは汐里を置いてさっさと先の方へと行ってしまっていた。
「歩けばいいんでしょ。歩けば」
汐里は小屋の入り口までの長い道のりを、どうにかこうにか乗り切り、中へと通された。
だが、扉を開けてみて汐里は目を疑った。
「ちょ、なによ、これっ!!」
思わず叫ぶと、カイルも固まった状態でぼんやりと頷いた。
「ああ。なんだろうな」
「なんだろうな、って……」
中は、惨憺たる有様だった。
元々は綺麗な絨毯だったであろう床は、その模様も分からないくらいに物が散乱し、入り口付近には本が散らばり、足の踏み場もない。
「自分の家でしょ?」
「俺が、まさかこんなに散らかしたままにしておくような性格に見えるのか?」
「……いいえ。むしろ逆の性格に見えマス」
潔癖に見えます、という言葉を飲み込んで、汐里は無難な答えを返した。広いはずの通路は生活用品から服やらが占拠していて、奥へ進むほどひどくなっているようだった。カイルと汐里は、散らかった物の波をかき分け、一番手前の一室に辿り着いた。
部屋の取手には、なぜか女物のドレスが引っかけてある。
「……女の人と住んでいるの?」
ちょっと軽蔑の眼差しで見ると、カイルは首を横に振った。
「まさか。ここは俺しか立ち寄らない……。──まさか!」
何事か思いついたように急に顔を上げたかと思うと、カイルは怒りに燃えた瞳で一番奥に位置する部屋の奥に怒鳴った。
「お前か! 人のいない間に勝手に入り込んで、バーバラっ!」
小屋の奥へと向けて怒鳴ったカイルに、一拍の間の後、はぁい、と間延びした綺麗なアルトの声が返ってきた。




