26:モーリス
カイルが屋敷に帰ってきたのは、予定より一日早い、出立して二日目の夜だった。
アイザックは、心配気にカイルを出迎えた。
「おかえりなさいませ、カイル様。随分とお早いですね。どうかなさいましたか?」
「ああ。ちょっとな。シオリはどうしている?」
「バーバラ様のところにいらっしゃいます」
脱いだ外套をアイザックに預け、カイルは自分の背後に向かって呼びかけた。
「どうぞ。中に入ってきてください」
声をかけられた何者かは、全く入ってくる気配はない。
再びカイルが、ため息混じりに言った。
「いいから、入って。誰も叫んだりはしません」
『叫ぶ』という単語にひっかかりを覚えたアイザックは、その扉から入ってくるものに身構えたが、のっそりと入ってきたのは熊のような大男だった。
「これは……」
ぼさぼさと生え放題の髭と、いつから着ているのかと思う元は何色か分からない(しかも、つんと臭う)服。
呆気にとられて思わず男を見上げたアイザックに、彼は髭だらけの顔で意外に柔らかく笑った。
「はじめまして。おれは北のモーリスです」
「わたしはアイザックです」
アイザックが手を差し出すと、すぐにがっしとその手をモーリスに握られた。にっかりと白くて丈夫そうな歯を見せて笑ってモーリスが離れ、カイルに声をかけた。
「それで、そのお嬢さんはどこに?」
「ああ、そうだな。アイザック」
「はい」
「詳しくは中で話す。シオリに話がある。すぐに呼んできてくれないか?」
アイザックは頷き、すぐに汐里を連れて戻ってきた。
「失礼しまーす。っと……」
カイルが呼んでいる、すぐに来て欲しいと連れらてきた汐里は、来客中とは思わずに、部屋に足を踏み入れ、固まった。
(く、くまがいる)
黒くてもじゃもじゃの口と顎の髭。大きな体に体毛。
(や、なんてゆーか……。黒もじゃ?)
口をぽかんと開けたままで動かない汐里を、カイルは手招いた。
「ここに座ってくれ。話がある」
「え? あ、はい、はい」
どうにか衝撃から立ち直った汐里は、示されたとおりにカイルの隣に腰かけた。きっとお高いだろう見事ヤグルマギクと草花の刺繍に、織りも見事な、極上の座り心地のソファだった。
肌触りも素晴らしく良かったが、なんだかお尻がもぞもぞとする気がした。
ちらと正面の熊男を窺ってから、汐里はアイザックが用意した紅茶とクッキーを、口に放り込んだ。
人はよさそうなのだが、なにしろ正面に座っていると圧迫感がすごい。そのあまりの迫力に、呆気にとられてしまう。
ふと、熊男と目が合った。意外に可愛らしく彼は微笑んだ。
「はじめまして、モーリスだ」
「シオリ。こちらは、モーリス。ライジンの森には、神殿に続く道の東西南北に番人が配置されている。彼は北の担当だ」
言われてみれば、カイルも初めて会ったときに、森の番人だと言っていた。
紹介されたモーリスは体格も並外れてよく、いかにも力持ちに見える




