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らいじん  作者: タカバノ
3章 帰りたい
28/33

26:モーリス

 カイルが屋敷に帰ってきたのは、予定より一日早い、出立して二日目の夜だった。

アイザックは、心配気にカイルを出迎えた。


「おかえりなさいませ、カイル様。随分とお早いですね。どうかなさいましたか?」

「ああ。ちょっとな。シオリはどうしている?」

「バーバラ様のところにいらっしゃいます」


 脱いだ外套をアイザックに預け、カイルは自分の背後に向かって呼びかけた。

「どうぞ。中に入ってきてください」 


 声をかけられた何者かは、全く入ってくる気配はない。

 再びカイルが、ため息混じりに言った。

「いいから、入って。誰も叫んだりはしません」


 『叫ぶ』という単語にひっかかりを覚えたアイザックは、その扉から入ってくるものに身構えたが、のっそりと入ってきたのは熊のような大男だった。

「これは……」


 ぼさぼさと生え放題の髭と、いつから着ているのかと思う元は何色か分からない(しかも、つんと臭う)服。

 呆気にとられて思わず男を見上げたアイザックに、彼は髭だらけの顔で意外に柔らかく笑った。


「はじめまして。おれは北のモーリスです」

「わたしはアイザックです」


 アイザックが手を差し出すと、すぐにがっしとその手をモーリスに握られた。にっかりと白くて丈夫そうな歯を見せて笑ってモーリスが離れ、カイルに声をかけた。


「それで、そのお嬢さんはどこに?」

「ああ、そうだな。アイザック」

「はい」  

「詳しくは中で話す。シオリに話がある。すぐに呼んできてくれないか?」 

 

 アイザックは頷き、すぐに汐里を連れて戻ってきた。

「失礼しまーす。っと……」

 カイルが呼んでいる、すぐに来て欲しいと連れらてきた汐里は、来客中とは思わずに、部屋に足を踏み入れ、固まった。


(く、くまがいる)

 黒くてもじゃもじゃの口と顎の髭。大きな体に体毛。

(や、なんてゆーか……。黒もじゃ?)

 口をぽかんと開けたままで動かない汐里を、カイルは手招いた。

「ここに座ってくれ。話がある」

「え? あ、はい、はい」

 

 どうにか衝撃から立ち直った汐里は、示されたとおりにカイルの隣に腰かけた。きっとお高いだろう見事ヤグルマギクと草花の刺繍に、織りも見事な、極上の座り心地のソファだった。

 肌触りも素晴らしく良かったが、なんだかお尻がもぞもぞとする気がした。


 ちらと正面の熊男を窺ってから、汐里はアイザックが用意した紅茶とクッキーを、口に放り込んだ。

 人はよさそうなのだが、なにしろ正面に座っていると圧迫感がすごい。そのあまりの迫力に、呆気にとられてしまう。


 ふと、熊男と目が合った。意外に可愛らしく彼は微笑んだ。

「はじめまして、モーリスだ」

「シオリ。こちらは、モーリス。ライジンの森には、神殿に続く道の東西南北に番人が配置されている。彼は北の担当だ」

 言われてみれば、カイルも初めて会ったときに、森の番人だと言っていた。

 紹介されたモーリスは体格も並外れてよく、いかにも力持ちに見える





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