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らいじん  作者: タカバノ
2章 災いがやってきた
24/33

23:お祝い

 屋敷の中に戻ると、パンの焼けた香ばしいかおりが漂っていた。食堂にカイルと足を踏み入れると、いつになく豪華な料理がテーブルにところ狭しと並べられていた。


「どうしたの、何かのお祝い?」

 食堂に集まったアイザック、その妻サラ、その娘ケイトを見渡すが、黙って微笑むばかりだ。カイルが無言でアイザックを促した。アイザックは汐里の方へ一歩進み出て、優しく声にした。

「新しい家族を迎えるお祝いです」

 一瞬、アイザックとサラの間に新しい子供ができたのかと思ったが、それにしては汐里に注目が集まっている。と、いうことは自分なのかと自分を指差すと、アイザックはにこやかに頷いた。 

「シオリさんさえよろしければ、我が家の一員として迎えるつもりでいます」

 アイザックの後ろにいるサラも、控えめにそっと頷いて汐里に温かな笑顔を見せてくれた。

「そんな……」


「嫌なのか?」

 汐里はぶんぶんと頭を横に振った。嫌なはずがなかった。優しくって温かいサラは大好きだし、アイザックもとても優しく穏やかで、義理の父母としては理想的だ。その娘の小さなケイトも可愛らしくて、彼女が義妹になるのも心からうれしい。うれしいのだが──


「ううん、嫌じゃない。そうじゃないけど」

 だけどなんだと先を促されて、汐里はなりゆきを見守っているアイザックとサラを見た。カイルに目線を戻すと、カイルもじっと汐里の答えを待っていた。

「この家の子になってもいいの? あたしがいたら迷惑じゃない? お金もないし、これといった特技もないし、陸だってライジンの村にいるのに、あたしだけがここにいるわけには──」


 言葉を選びながら言い終えると、カイルがそっと手を差し出した。汐里の前に差し出されたのは、そこに手を重ねろということらしい。戸惑いつつその手に手を置くと、アイザック一家の前に引かれていった。

「あの、できればこの家に置いて欲しいです。お手伝いでもなんでもします! よろしくお願いします!」

 勢いよく頭を下げた汐里の上から、ふわりと笑いまじりの声が降りてきた。

「もちろんいいですよ。よろこんで」

「ありがとう。すごく、うれしい」


 ちらと汐里の頭の隅に母の顔が思い浮かんだが、すぐに振り払った。

父親も見たことのない汐里に、一度に養父と養母と、そして義妹ができた。汐里のことなどいつも眼中にない実母より、よほど家族だと思える三人だ。

 いつも、こんな人達が自分の本当の家族だったらどんなにいいかと憧れていた三人が、まさに今そうなったのだ。夢のようだった。


「シオリちゃん、はい。ハンカチ」

 いつの間にか泣いていたらしい。

 サラにハンカチを差し出されて初めて気がついた汐里は、礼を言ってそれを受け取った。涙を拭うと、席につくように皆から口々に急かされた。


「さあ、早く席についてください」

「そうだな。料理がさめてしまうぞ、シオリ。今日はお前の好きな肉もある。パンも焼きたてだ」

「ほら、シオリちゃん。ケイトも座って」

 されるがままに着席した汐里は、火の灯った燭台が照らす料理に微笑んだ。

 目の前の料理と燭台のロウソクは、ケーキとそれに刺さったロウソクでもないけれど。まるで、誕生日祝いのように思えて、余計に泣けてきた。

「……ありがとう。夢みたい。あたし、ずっとこうしたかったの」


 家族でテーブルを囲んで、誕生パーティ。今日は汐里の誕生日ではないけれど、アイザック一家の一員になった誕生日と思えなくもなかった。

 ライジンの森で目覚めた前日の朝、すっかり娘の誕生日など忘れてしまった母に泣きたい気持ちになったことを思い出した。

 これが、夢でありませんように。

 泣きながら、何かの神に祈る気持ちになった。


 汐里が涙を止めて落ち着くのを待って、カイルが口を開いた。

「そういえば、リックにも話を持ちかけてみたが、断られたんだ」

「うそ。どーして?」

 思いがけないことに、汐里は泣いていたのも忘れて顔を上げた。

 陸にだって良い話だったはずだ。急に身寄りも誰もいない世界に放り出されて心細い。それには、異世界から来た事情も知っている人がいれば安心なはずだ。


「どうも村の長のことが心配なようだ。ずっとここに住む気になれないらしい。養子にするまでいかないまでも、俺が後見人になろうかとは考えている。何か必要な時や助けが欲しいときには援助する。だから」

 その後の言葉は、アイザックが引き継いだ。

「安心してここにいてください」

 いいよと言われて、汐里は不覚にも涙が出そうになった。


「いいの?」

 アイザックとサラが微笑んで頷き、ケイトは小首を傾げた。

「本当にいいのかな」

 不安になってカイルを仰ぐと、

「しつこい」 

 カイルがぴしゃりと言って、グラスを手にした。

「家族が増えたことに、乾杯」

「乾杯」

 

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