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後編:それぞれの終焉

俺は、この国の第一王子として生まれた。

母上は、男爵家の出身だったらしい。

父上と恋に落ち、その愛を貫いて王妃となったのだと聞かされている。


下位貴族の話にも耳を傾け、王妃としての役割をしっかりと果たしている母上を、俺は心から尊敬していた。


だから俺も、学園では身分にこだわらず、下位貴族とも積極的に交流した。

そして、その中から将来の側近候補を見つけていった。


「男爵家や子爵家の俺たちが、将来の国王の側近になれる日が来るとは…」

「カメロ殿下は、きっと賢王になられる」

「身分に囚われず、人の才を見抜かれる素晴らしいお方だ」


そう言って、皆が俺のことを褒めた。

俺は、こうすることが国をもっと豊かにすることだと、信じて疑わなかった。



そんな俺には、婚約者がいた。

公爵令嬢のジュリアだ。

ジュリアは、母上とは違っていた。

下位貴族を見下しているようなところがあり、俺は、それがどうしても気に入らなかった。


——まるで、あの側妃のようだ。

母上の話では、側妃はもともと父上の婚約者だったらしい。


けれど、父上と母上が真実の愛で結ばれたことで、二人の婚姻を周囲も祝福した。

その結果、側妃は婚約者の座を追われたのだという。

それでも、腐っても公爵令嬢。

側妃の実家が婚約解消を受け入れなかったため、最終的に側妃という立場に納まったそうだ。


俺は、そんな側妃が好きではなかった。

幼いころから、母上と父上の真実の愛を引き裂く邪魔者としか思っていなかった。


母上を支えることもせず、高位貴族を相手にお茶会を開いては、チヤホヤされている。

そのくせ、夜会となれば、自分の手柄だと言わんばかりに主催する。

苦しいことは、母上に。楽しいことは、自分で。


——そんな側妃を、俺は心から軽蔑していた。母上とは真逆の女だった。


ジュリアと話していても、側妃と同じような女としか思えなかった。

だからこそ俺は、母上に、ジュリアとは婚約したくないと何度も訴えた。

けれど、母上は困ったように眉を下げると、悲しそうな表情で俺の頭を優しく撫でた。


「ごめんなさいね…。それだけは、できないの。

…あと、その話は絶対にお父様には言ってはだめよ」


母上は、俺の瞳を覗き込んできた。

その表情が、あまりにも真剣だったため、俺は何も言わずこくりと頷いた。



——ショコラに出会ったとき、俺は運命だと思った。

母上のように慈悲深く、天真爛漫で、可憐な少女。

彼女こそ、俺の運命の相手なのだと、体が喜びで震えた。


父上と母上がそうだったように、俺たちも恋に落ち、その愛を貫こう。

そうすれば、きっと誰もが俺たちを祝福してくれる。

これからは、下位貴族にも活躍の機会を与え、俺たちの力で、もっと国を豊かにしていく。

…そんな輝かしい未来を、俺は思い描いていた。



——だというのに、どうしてこうなった…。

俺は、王城に与えられた私室で、頭を抱えたまま蹲っていた。


『王太子は、第二王子のライゼに決めた』


あの日から、何度も父上の言葉が頭をよぎる。

なぜ…なぜ、俺は王太子になれなかったんだ。


下位貴族の話にも耳を傾けてきた。

父上と母上のように、自らの手で良き伴侶も見つけた。

それなのに——俺は、何を間違えたのだ。


その答えを問おうにも、父上は俺に会おうとすらしてくれない。

母上は、一度だけ俺の部屋を訪れた。

怒りに歪んだ顔で俺を睨みつけると、震える声で叫んだ。


「お前のせいでっ…!」


そして、手にしていた扇で俺の頬を打つと、そのまま何も言わずに部屋を出ていった。

俺は、しばらく何が起きたのか理解できなかった。

あんな母上は見たことがなかった。


さらに、ショコラと俺の側近たちは、公爵令嬢であるジュリアに冤罪をかけようとした罪で、すでに投獄されているらしい。

…冤罪?ショコラは泣きながら、ジュリアにいじめられていると訴えていたのだ。嘘であるはずがない。きっと、公爵家が娘の醜聞をもみ消したのだろう。

そんなに身分差は重要なのか?


しかも、ジュリアは俺の婚約者ではなく、婚約者候補だったそうだ。

俺と、第二王子であるライゼ。公爵家は、その二人を天秤にかけていたという。

公爵令嬢だからといって、何をしても許されるわけではないだろう。

王家を、いったい何だと思っている?


きっと、父上は、あの側妃やジュリアに騙されているんだ。


「くそっ…なぜだ…。どうしてこうなった…」


けれど、いくら考えても答えは出なかった。

そして、俺に真実を教えてくれる者は、誰一人として現れなかった。


その後、俺は母上とともに離宮へ移されることとなった。

ショコラや側近たちに会うことも、二度と許されなかった。

俺は、ただ静かに、歴史の表舞台から消えていった。



ーーーーーーーーーーーーーーー



私は、平民から一国の王妃にまで成り上がった。

そして、息子が王太子となり、やがて国王となる。

そうなれば、私は歴史に名を残す賢妃となれるはずだった。

平民出身でありながら、国を支え、偉大な王を育て上げた王妃。


なんて、素敵な未来だろう。そんな未来を、ずっと思い描いていた。


…だというのに、息子が、私の夢をすべて台無しにしてしまった。


何度もジュリアを大事にしなさいと伝えた。

どうして、理解しなかったのか。


こんなことなら、もう一人スペアを産んでおくべきだった。カメロを産んだ後、醜い体型になったことが、我慢ならなかった。

陛下の寵愛を得続けるためには、美しい私でいなければならない。そのためには、もう二度と子を身籠ってはならないと誓った。

それが、間違いだった。


陛下の寵愛を受けられず、私に負けた女のくせに。

今日までずっと、陛下は私だけを愛してくださった。

それなのに…国母になるのは、あの女だというの?

そんなの、許せない。


第二王子が王太子に決まった瞬間。

あの女が浮かべた表情が、何度も脳裏に蘇る。

今思い出しただけでも、腹が立つ。

怒りを抑えきれなくなった私は、部屋にあった花瓶を次々と床に叩きつけた。


「ひっ…」


女官たちは怯えた様子で身を縮めながら、床に散らばった花瓶の破片を片付けている。

そのとき、別の女官が慌てた様子で駆け込んできた。


「王妃様、陛下がお見えになります!」


すぐさま髪や衣服を整え、何事もなかったかのように表情を取り繕う。

そして、陛下を出迎えるための準備を急いだ。


陛下が部屋に入ってくると、私はいつものように、その腕へそっと手を絡め、甘えるように身を寄せた。

しかし、陛下は私の手をそっと外すと、静かな声音で向かいの椅子を示した。


「座りなさい」


いつもなら、こんなふうに私を遠ざけることなどなかったのに。

戸惑いながらも、私は促されるまま向かいの椅子へ腰を下ろした。



「…そなたを、廃妃とする」


陛下は、何と言った?私を、廃妃に…?


「そんな…っ。なぜです?

私は、今まで充分に頑張ってきました。

それは、陛下だってご存知でしょう?

たった一度、息子が間違えただけではありませんか。

それなのに、こんな…。あんまりです」


その言葉を聞いた陛下は、片手で顔を覆った。


「その発言こそが…すべてを物語っている」


悲しそうな、どこか寂しげな表情を浮かべると、私の方へ視線を向けた。


「儂は、いつから…そなたのことを見誤っていたのだろうな。

…為政者失格だ。

そなたには、明日にでも離宮へ移り住んでもらう。

安心しろ。カメロも一緒だ」

「そんな…!陛下っ!何卒、何卒考え直しを…っ!」


私は、必死に陛下へ縋りついた。

けれど、陛下はもう、私と目を合わせようともしなかった。


「王妃よ…。そなたは、いつから儂に嘘を申していた?」

「…え?」

「執務は少しずつ側妃から引き継いでおる、と。そう言っておったのではないのか?」


その言葉に、私ははっと息を呑んだ。

——まさか。陛下に知られたのか…。


「思い当たることがあるようだな…。

先日の謁見の後、ジュリア嬢から申告があり、色々と調べたのだ。‥側妃には申し訳ないことをした」


陛下は、苦しげに眉を寄せる。


「第二王子のこと、そなたには気の毒なことをしていた自覚があった。だから、そなたの望み通りに、カメロを王太子にしてやりたかった。

しかし、そなたに任せた結果があれだ…」


陛下は、深く息を吐いた。


「しかし、そなたの最も大きな罪はそこではない。

下位貴族に対し、高位貴族への不満を煽ったな…。

危うく国が揺らぐところだった」

「なっ…何のことでしょう?私は、そのようなこと、一度も…」


私は眉を寄せた。

本当に何のことか分からない。

その様子を見て、陛下は小さく息を吐いた。


「無意識か…。なおさら、そなたを王妃にしておくわけにはいかぬ」

「陛下っ!なぜです…っ!」

「そなたの罪は、私の罪だ。

私には、貴族たちの混乱を治める義務がある。

…そのためにも、次の王妃には、側妃を据える」


その言葉に、全身の血が沸騰するかのような衝動に襲われた。

もう、感情を抑えることなどできなかった。甲高い声で、私は泣き叫んだ。


「なぜっ、なぜですっ!私だけって、言ってくれたじゃないっ!

私だけを愛するって…陛下が、そう言ってくれたから。

私を蔑む高位貴族たちの視線にも耐えてきたっ!

皆が、あの女の言うことばかりを聞くことにも我慢したっ!

なのに…。どうしてっ!結局、あの女を選ぶのっ!

許さない、許さない…許さないっ…!」


そんな私の取り乱す様子を、陛下は悲しそうに見つめていた。

そして、ぽつりと呟いた。


「そなたを、王妃にすべきではなかった」


その言葉で、私の心は完全に壊れてしまった。

陛下が「すまない…」と呟いていたことさえ、もう私の耳には届かなかった。


——翌日、私は最低限の荷物と共に離宮に押し込まれた。

そこには、すでに息子もいたようだ。

けれど、今の私には、そんなことなどどうでもよかった。




——その後、王国では第二王子だったライゼと、公爵令嬢のジュリアが結婚し、やがて二人は国王と王妃となった。

二人は、本当に能力のある者には、身分に関係なく積極的に活躍の場を与えた。


その結果、貴族たちは互いの立場を尊重しながら、それぞれの力を国のために尽くすようになった。

そして——。

賢王と賢妃として、後世に語り継がれるようになった。


ここまでお読みいただきありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
「そなたを、王妃にすべきではなかった」遅っそ!! 結婚する前に気づけよ。政治力、実務能力0の王妃とか誰のためにもならないだろ。
>儂は、いつから…そなたのことを見誤っていたのだろうな。 最初からだろw まあ、頭パッパラパー女と恋愛して結婚して十数年も一緒に居れるような国王だし仕方ないね…。 頭パッパラパー女と同類だもんね。 …
カメロが最後まで全然反省してなくて、しかも自分が皇太子になれなかった理由すら理解してないのが本当に残念だった。 ショコラの嘘にも最後まで気づかず、下位貴族たちのおべっかを鵜呑みにするわ、王妃が執務を…
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