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自分が優秀すぎて怖い─── 有能な仲間は俺の輝きを霞ませる不純物なので、活躍したら、即解雇します  作者: 燕尾
第1章:有能な元仲間のテロリストが数秒で細切れにされるまで
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第4話 名声と悪評

1章ラストです!




 ───ピンポーン……




 再び、静寂を切り裂くようにして、鋭いチャイムの音が鳴り響いた。

 室内の空気が一瞬で凍りつき、グラムたちは先ほど以上の、強烈な警戒の色を全身に強めた。


 深夜の連続するチャイム。これがただの偶然などであるはずがない。

 グラムは声を発することすら拒み、顎を小さく動かしてもう一度、合図を送る。

 一人の男が息を殺し、腰の武器に手をかけながら、慎重にドアへと向かっていった───



「誰だ……」



 部下がそう言って、ドアスコープに片目を押し当てて覗き込んだ、まさにその瞬間───




 パキィン!!!




 ホテルの重厚な装飾ドアごと、その男の肉体が斜め一文字に『完全切断』された。



「───ッ!?」



 ここは周辺の街でも指折りな最高級ホテルだ。

 使われて使われているドアも、生半可な打撃や魔法では傷一つすらつかない極めて頑丈なものであった……が、まるで薄い紙切れのように、跡形もなく切断されたのだ。


 真っ赤な血しぶきを派手にぶちまけながら、真っ二つになって床へと崩れ落ちる男の死体。

 その硝煙と血煙の奥から、一人の人間がゆっくりと、あまりに平然と部屋の中へと足を踏み入れてきた。



 アロンだ。



 夢にまで見たあの最悪の男の登場に、室内のメンバーが絶叫を上げようとする。




「な、───ッ─!!」


                    「てき────!」


      「────あ、───」



「遅い」



 アロンが冷徹にそう呟いた、まさに次の瞬間だった。


 言葉を発しようとした3人の人間が、なんの前触れもなく、視認することすら不可能な速度でまとめて切断されていった。

 ドサドサと肉塊が崩れ落ちる音が響き、真っ赤な血しぶきが、高級な壁紙や絨毯の上へと無慈悲に散布されていく。



「なんだ───」


      

      「お前────」



 辛うじて生き残っていた最後の2人が、死に物狂いで臨戦態勢に入り、迎撃の魔法を発動しようと魔力を練り上げる。



 ────が、それすらも、彼らのささやかな抵抗は叶わなかった。



 アロンが軽く指先を動かしたかのように見えた一撃によって、二人の肉体は魔法が完成する前に、一瞬で切断された。



 ほんの数秒。



 グラムが誇った精精たち6人は、ただの1回も武器を振るうことなく、すべて床の上の肉塊へと変えられていた。


 それを目の当たりにして、グラムは全身を激しく震わせていた。

 自分の目の前で起きたあまりの超常の惨劇に、脳の処理が完全に追いついていなかったのだ。



「遅いのはお前だ……私にこんな格好させておきながら……」



 死体から立ち上る硝煙の向こう側で、リンカが制服の襟元を直しながら、心底気だるげに言い放った。

 アロンは手にした魔力の刃を霧のように霧散させながら、呆れたように肩をすくめる。



「逆だぞ、副リーダー……お前の合図が遅すぎるんだ。なにやってんだ」


「合図……ああ……忘れていた」


「お前が悪いじゃないか」



 緊迫感の欠片もない、いつもの調子で交わされる二人の会話。

 そのあまりに日常的で、あまりに異常な会話を聞いた瞬間、恐怖で硬直していたグラムの脳が、劇的な速度で正気へと引き戻された。

 グラムは死に物狂いで腕を伸ばし、デスクの側にいたリンカの身体を自分のほうへと強く引き寄せた。



「リンカさん……騙したんですか……俺を……解雇されたって……」



 その声は、裏切りへの怒りと、縋るような絶望で激しく震えていた。

 だが、引き寄せられたリンカは身をよじることすらなく、ただ氷のように冷たく、昏い笑みを浮かべてグラムを見下ろした。



「私は一言も言ってないぞ? 勝手に勘違いしていたのはお前だ……私は『頭のイかれた物好き』なんだ」



 ニコリと、それはスタッフとしての営業スマイルではなく、一人の狂人に寄り添う女としての、残酷な笑みだった。

 その言葉の意味を理解した瞬間、グラムは血が滲むほどに強く歯を食いしばった。



「なんの話だ?」



 一人だけ会話の文脈に置いていかれているアロンが、不思議そうに首を傾げる。



「ただの世間話さ……それよりこの男……見覚えあるだろう?」



 リンカが顎でグラムを示す。

 アロンは顔を近づけ、グラムの怯えと怒りに歪んだ顔をじっと見つめた。



「うん? ………ああ……グラム君か……久しいな、1年ぶりか。元気そうでなにより」



 まるで街角で偶然知人に会ったかのような、あまりに軽すぎる挨拶。

 その決定的な『無関心』に、グラムの瞳が烈火のごとく赤赤と燃え上がった。



「ふざけるな!! またお前が……! よくも! よくも!! 俺の仲間を!!!」



 グラムの絶叫が、血に染まったスイートルームに虚しく響き渡る。

 だが、アロンはただ心底不思議そうに、眉をひそめるだけだった。



「仲間って……このテロリストたちが?」


「アロン、こいつが親玉らしい」


「ほーう……」



 アロンが、心底つまらなそうに、冷淡な視線をグラムへと向けた。



「冒険者だったくせにテロリストなんて……」



 その侮蔑すら含まれていない無関心な瞳を見た瞬間、グラムの理性が完全に吹き飛んだ。



「黙れ!! お前が!!! その目を向けるな!! 俺に向けるな!! ギルドに媚びへつらうお前が!!! お前のような!! 傲慢で!! 他者を見下し!! 思い上がった!! お前のような奴が!!! 俺の仲間を!!!」



 喉を引き裂くような叫び声を上げながら、グラムは凄まじい魔力を練り上げ、死に物狂いで臨戦態勢に入る。


 それに対してアロンも、一切の容赦なく彼を消し飛ばそうと攻撃の予備動作に入ろうとする───が、それよりも早く、グラムは狂気に駆られた腕を横へと伸ばした。



「動くな!!! 動くとリンカさんの首が飛ぶぞ!!」



 グラムは隣にいたリンカの身体を乱暴に引き寄せ、その細い首へと鋭い刃を突きつけた。

 人質……それが、本物の精鋭たちをすべて一瞬で失ったグラムが、最後に縋りついた唯一の反撃の札だった。



「仲間にしてくれるのではなかったのか?」



 首を掴まれたリンカは、声のトーン一つ変えずに、ただ冷ややかにグラムへと問いかけた。



「そうですね……でもそれは、この男と離れていたらの話です……まだ解雇されていないということは……彼はあなたを大切にしていると見ていいでしょう……そんなあなたを殺せば……彼の余裕も消える」



 グラムは目を血走り狂わせながら、リンカの首を強く締め上げ、正面のアロンへと向かって狂ったように語り掛けた。

 これであの傲慢な怪物の顔が絶望に歪むはずだ、そう信じて疑わないまま。



 しかし───アロンの表情は、いつもの退屈そうなものと何一つ変わらなかった。



 焦りも、動揺も、怒りすらもない。

 アロンはリンカの首に刃が突きつけられているという状況など存在しないかのように、ただゆっくりと、一定の歩調のままグラムへ向かって近づいていく。



「な───ッ! ち、近づくな!!! これ以上近づくと────」



 その言葉が、グラムの喉から完全に紡ぎ出されるよりも早かった。




 パキィン!!!




 何が起こったのか、閃光すら見えなかった。

 ただ空間が歪んだかと思った次の瞬間には、リンカの首を掴んでいたはずの、指示を下していたはずのグラムの両手首が、音もなく綺麗に『完全切断』されていた。




「AHAAAAAAAAAAAA!!!!!!」




 遅れて噴き出した鮮血が、スイートルームの贅沢な天井を赤く染める。

 グラムは失った両手の断端を抱きしめ、床の上を無様にのたうち回った。



 だが、アロンの無慈悲な制裁は、それでは終わらなかった。



 足元で絶叫を上げる男に追い打ちをかけるかの如く、アロンは視線一つで彼の『視界』を永遠に奪い去る。

 空間が一閃し、無造作に切断されるグラムの両眼。




「AHAAAAAAAA!!!! NOAAAAAAAAAA!!!!! GUAAAAAAAA!!!!!!!!!」




 視界を暗黒に染められ、今度こそ逃げ場のない地獄に突き落とされたグラムが、激しくのたうち回りながら狂ったように叫び声を上げる。

 自分が1年間かけて築き上げたすべてが指先一つで、文字通り塵のようにすり潰されていく。



 ───それから、数十秒後。



 激しい叫び声が絶望の掠れた呻きへと変わり、血の海と化した部屋に静寂が戻る。



「……帰るぞ」


「ああ」



 アロンは足元の肉塊を一瞥することすらなく、短くそう告げた。

 リンカもまた、衣服についた返り血を軽く払いながら、当然のようにその隣に並び、血生臭いスイートルームを平然と後にした。










 2日後────


 商業都市ゼレウス、冒険者ギルド長室。



「おい……これはなんだ?」



 アロンは激昂した様子で、手にした新聞記事をルドベキアのデスクへと乱暴に叩きつけた。

 広げられた紙面には、これ以上ないほど大きく、そして最悪な見出しが躍っていた。




『────世間を震撼させていた謎のテロリスト集団・解放の枷を無力化に成功したと……都市ゼレウスギルド長・ルドベキアが先日公表!!』




 そこには、カメラに向かって至極得意げに、英雄気取りでインタビューに答えているルドベキアの姿が、大々的に写し出されていた。



「……なぜ?」


「まぁ、落ち着け」


「落ち着いていられるか …騙したのか、 俺を」


「俺の配慮で公表しなかったんだぞ?」


「は? ……配慮?」



 アロンの眉間に、これまでにないほどの深い皺が寄る。

 ルドベキアはため息をひとつ吐くと、アロンが持ってきた記事の、さらに下にある別の話題へと無造作に指を滑らせた。




『【高級グランド・ロイヤル・ルミエールを襲った悲劇!!!】血塗れの部屋!! 賠償は計り知れない!!!』




「あ……」



 アロンの口から、マヌケな声が漏れた。



「別にお前たちが解決したことを公表しても良かったんだが……」



 ルドベキアは呆れたように肩をすくめる。


 あの500億の強奪事件を解決したという事実を公表すれば、確かに名声は得られる───

 しかし、それ以上に「スイートルームを血の海に変え、高級ホテルの重厚なドアを切断した破壊魔」として、天文学的な額の賠償請求と悪評がついてくることは明確だった。



「諦めろ……お前が派手に暴れすぎたせいだ」



 リンカはクククと喉を鳴らし、愉快そうに笑いながら言った。



「リンカ……お前はどっちの味方なんだ?」



 アロンが、裏切られたと言わんばかりの細い目をリンカへと向ける。



「まぁそんなに怒るな……元はと言えばお前のせいなんだから?」


「は?」


「お前があいつ解雇したから闇落ちしたんだぞ? これらの騒動はお前が元凶といっても過言では────」


「スイーツ食べに行くぞ」



 痛い言葉を聞こうともしないアロンの、そのあまりにも真っ直ぐな後ろ姿を見送りながら、リンカは小さくため息を吐き、静かに思う。



 この救いようのない傲慢な毒を一生独占できるのは、世界中で自分という『頭のイかれた物好き』だけなのだと……




▶続きの閑話が以下の話です!

【1章 閑話】無防備の脱衣 ~リンカ視点~



第5話は、19日【 12時40分 】に投稿いたします。


次章は『第2章:覚醒冒険者が解雇されるまで』です!


もしよろしければ、ページ下部より【ブックマーク】や【評価】をいただけますと、大変励みになります。


それでは、明日の更新でお会いしましょう。


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