春を待ちながら
外はまだ冷たい風が吹いているのに、
邸の中は糸車のやわらかな音で満たされていた。
くる、くる、と糸が巻かれていく。
その規則正しい響きが心地よくて、
私は膝掛けに包まりながら手元の糸を確認した。
「……うん、悪くない」
冬のあいだ、外仕事がほとんどできない代わりに、
家の中でやれることが増えた。
糸の整え、布の仕上げ、染めの準備。
気がつけば一日があっという間に過ぎていく。
向かいでは、ルベルが淡々とした表情で布を広げ、
私が紡いだ糸の質を指先で確かめていた。
その仕草が妙に丁寧で、
まるで高価な魔道具でも扱うみたいに慎重で……
(そんなに丁寧に触らなくても……)
少し恥ずかしくなる。
ふと、ルベルがこちらを見上げる。
「……この糸、エレノアが紡いだんだろう?
細いのに、強い」
「え、えへへ……。冬のあいだ、練習したから」
私がそう言うと、ルベルの瞳が柔らかく揺れる。
その真紅の色が、
暖炉の火よりもずっと温かく見えた。
──そして、頭の中にひとつの考えがふわりと浮かぶ。
(春用に……ルベルのローブを新しく繕いたいな)
彼が初めてこの家に来たときのローブは、
すでに縫い直しを重ねている。
ルベル自身は気にしていないけれど、
春になったら外へ出る機会も増えるだろう。
せっかくなら、
少し明るい色を入れてもいいかもしれない。
そんなことを考えていたら、
思わず笑みがこぼれてしまった。
すると、ルベルがわずかに首を傾げる。
「……エレノア、今……何か、嬉しそうにした?」
「え!?う、ううんっ、なんでも!」
誤魔化したつもりだったけれど、
ルベルは静かに、でもどこか甘く見つめてくる。
その目に、また胸が熱くなる。
くるくると糸車は回り続けて、
冬の空気をやわらかく震わせた。
外では雪解けの滴の音が微かに響き、
季節がほんの少しだけ、春へ足を踏み出した気がした。




