英雄と守護者(後編)
痛い!これが指輪を嵌める痛み…
私は顔を歪める。痛みが来るとわかっていたから叫んだりはしない。痺れるような、割れるような。
でも、収まってきた。
「琴葉オメー…叫び声一つ出さずってか…」
「ハァ…ハァ…す、すごいでしょ?」
颯真は「能力」を使うときモチーフをイメージして使っているらしい。
私は「ゲルデ・マシーンズ」シリーズには詳しくないけど、なんとなく颯真の家に飾ってあるプラモデルと同じものなんだろうなとはわかる。
それなら、私は?何をイメージする?そんなの決まってる。
『ボーダー・ガーディアンズ』。
今尚覇権をとっている少年誌「週刊少年ライト」における一時代を築いた名作。
実在する各国をモデルにしたオーラパワーに選ばれた主人公たちが、ある街を舞台にバトルロワイヤルを繰り広げる。最後に明かされた設定の自由度からスピンオフも多く作られ、近年見事にアニメ化し再び注目が集まった。
これは私の、パパとの思い出の作品でもある。
原作っぽく…決め台詞と一緒に!
「レッドボール・トゥー・リバティー!」
これは「アメリカ」のオーラ。「Lead Ball To Liberty」の名の如く、その姿は万華鏡のように拳銃、ライフルが浮かぶ。
「…出来た…。」
「お前ならそう来ると思ったよ。『ボーダー・ガーディアンズ』だろ?かっこいいよなぁ」
颯真はもう一度アーマーを身に纏っている。
「来るぞ!」
「任せて!」
自分の背中側の火器を一斉に正面に向けて発砲!凄まじい轟音と共に数百発の弾丸が発射、炸裂する!
「俺も合わせる!」
颯真は両手と両肩にガトリング砲をそれぞれ担いで撃ち始めた。周囲に爆発が帯状に広がる。
「!…撤退するの?」
「アジダは出てこなかったな…。」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
俺が一番嫌いなパターンだ。琴葉にだけは戦場に出てほしくなかったというのに。
本部の復興にはしばらくかかる。参ったな、なんで場所がバレたんだ?
<♪♪♪♪♪>
「電話…一晴3曹からか。もしもし?浅儀です」
<ニュース見れるか?>
「ええ、点けます…へ?」
<昨日の学校での戦闘が高台の避難所から目撃・撮影されてたらしい。映像が出回ってるぞ。>
「」
<俺達の英雄だ!なんて騒がれてるよ。寄付金の額もすごいことになってるらしい。どうする?>
「えぇ…」
幸いどれも顔は写っていなかった。おかげでこのあとの対応の選択肢は広い。
「琴葉とも相談しますね…」
<了解。近い内に報告してくれよ。>
<我々自衛隊第一対特別侵略隊はこれより独立組織Anti-Special Invasion Squad、通称A.S.I.S.として世界をチェルンボーグの魔の手から守ります。>
俺達は「自衛隊」という国の組織から独立することにした。
俺達の能力は一国、しかも平和主義を謳っている日本が保有していい威力じゃない。やろうと思えば国だって滅ぼせる能力だからな。
他国にいちゃもんをつけられたら堪らん。
とはいえ変えたのは肩書だけ。
寄付金を元手に財団を設立、残りのお金は復興支援組織に突っ込んでおいた。財団の運営は松金陸将に適当な人材を見繕ってもらった。
「いわば私達は私兵団と考えていいの?」
財団の基金で確保した訓練施設兼A.S.I.S本部のロビーで琴葉と朝食を摂る。
この一ヶ月弱、チェルンボーグはうんともすんとも動きを見せなかった。
「誰かに仕えてるわけではないが、まあそんなところだろうな。ただ、俺達の素性は誰も知らないから学校では普通にしてていいと思うぞ。」
俺達が通っていた学校の生き残り十数名は全員近隣の高校に転校した。今は普通に授業を受けている。
「それにしても廃校を改築して訓練施設と宿舎にするとはいいアイデアだな。」
「まさかここまでうってつけの場所があるなんてね。騒音も気にならない、かといって田舎過ぎないいいバランス。」
「山を背にした造りだから羆が出そうだがな」
「私もクマ出せるよ」
あ。
「今ので思い出したんだが…この指輪の能力さ、イメージした物が生成されるじゃん?」
「そうだけど…?」
「お前が今まで使った能力のモチーフって全部『ボーダー・ガーディアンズ』だよな?」
「確かに模擬戦でもそれしか使わなかったかも。」
「俺は『ゲルデ・マシーンズ』なんだがな…それ以外生成出来なくなってるんだ」
「どういうこと?」
「つまりだな、俺がどれだけ強く『アメリカのオーラを使って奴らを撃つ!』ってイメージしても、うんともすんとも言わないんだ。」
「…確かに。他アニメのグッズを生成出来ない。」
「どうやら一度モチーフを決めたら、そこから逸脱できないみたいだぞ。」
「みたい。まあ大丈夫でしょ。そっちもレパートリー豊富でしょ?」
「40年続いた作品だし当然。」
「この一ヶ月で新しく指輪は発見されてないし奴らの侵攻もない…不思議なくらい動きが無いね。」
「奴らの動きが無いのはいいことだ。このタイミングで指輪の能力を最大限発揮できるように訓練しないとな。」
「私はフルスペック出せるけど?」
「クッ…こっちは元が機械なもんで、脳みそがついていかないんだよ。」
「大変そうだもんね…ごちそうさま。準備できてる?」
「ああ。このコーヒー飲んだら出れるよ。」
「ミコ姉!元気だった?」
「コト!よかった!また来てくれて!颯真もありがと!」
「どういたしまして、ミコさん。みんな元気そうで何より。」
ここは俺達が世話になった児童養護施設。ミコさん…四宮未尊はここの2代目だ。
「ささ、入って入って。」
「そーま兄ちゃん!みてみて!」
「んおっどうした理来。」
施設を出てからもちょくちょく顔出してるから、嬉しいことにちびっこ達からは慕われている。琴葉もさっきから足元が騒がしそうだ。
「せつ兄ちゃんにもらったんだよ!かっこいいでしょ!」
「雪矢も来てるのか!どれどれ?」
これは…超戦士ナイトなりきり変化ガントレット、しかも俺達世代のやつじゃねぇか。
「懐かしいな、ワークナイトだろ?」
「そう!せつ兄ちゃんが一番好きなやつっていってた!」
あいつの特撮オタっぷりは俺から見ても凄まじい。確かにナイトシリーズは面白い、男子なら誰もが通る道だし、毎週TV前にかじりついていた。
だが、特撮ってのは親泣かせで金のかかる趣味だ。毎年更新される変化グッズに春映画、増え続ける玩具。フィギュア展開だって豊富だ。
俺もプラモデルのコレクションには自信があるが、ナイトのコレクションは商品単価が倍ほど違う。
まぁ俺のプラモコレクションは瓦礫の下に消えたが。
「颯真ァ!」
「雪矢ァ!」
パァン!という小気味良い音。久方ぶりのハイタッチ成功だ。
「心配したんだぞ2人共!」
「そっちも無事で何よりだ。」
「高石君も今日はありがと〜。」
「いえいえ、丁度オフの日だったのでよかったッス。」
雪矢よ、頬が赤らんでいるぞ…
子供達の勉強やお昼寝といった自室での活動の時間は「お世話する側」にとっては週末のスケジュール中の数少ない一息つけるタイミングである。
「コト、颯真、ちょっといい?」
「もちろん」
広くさみしげな大広間のダイニングに俺と雪矢、琴葉とミコさんがそれぞれ向かい合うように座る。
「この写真なんだけど…」
そういってミコさんが俺と琴葉に向けて差し出したスマホ画面にはまぁ予想通り、半壊した自衛隊本部前で仲良く鉛玉をぶっ放す人影が写っていた。
「写真からじゃ顔はわからないけど…これ、あなた達よね…?」
「あと、A.S.I.S.のこの動画で喋ってるの、お前だよな?」
雪矢が付け足す。まさか声だけでバレるとは。
隣の琴葉に目配せをする。…そうだよなぁ。バレちまったもんは説明しなきゃなぁ。
「っていうかくかくしかじかでですね…」
「「…」」
「一ヶ月…教えてくれりゃよかった。」
「巻き込む訳にはいかないの。このことは誰にも言わないで。」
そうだ。しかし俺は既に琴葉を巻き込んでしまった。
「俺の不注意だ…申し訳ない」
あの動画だってボイスチェンジャーを入れておけば…そもそも俺が喋らなければよかったんだ。
「暗い雰囲気になっちゃったね、紅茶できたよ。」
ミコさんが慣れた手つきで蒸らしていた紅茶の蓋を外す。
辺りに広がった馴染み深い香りが、重暗い気分を多少マシにしてくれる。
「もっと胸張れよ。」
「雪矢…だが」
「お前達は英雄だぜ?ネットのトレンドだってお前の話題でもちきりだ。
『正体不明の救世主』ってな。まるで映画じゃないか。」
「…」
「颯真、琴葉。」
「ミコ姉…」
「無理しないでね。」
その日、俺達はこれ以上この話題について話すことは無かった。
■■高校1年2組。ここは学校壊滅後、俺と琴葉が転校し在籍する場所。
この学校で指輪のことを知っているのは校長だけ。校内にはA.S.I.Sの頼れる用心棒が数人、用務員や事務員として潜入している。
「浅儀〜おはざーす」
「おはざーす。」
今日の天気は快晴、気分上々な朝だ。
♪キーンコーンカーンコーン♪
「日直ー。号令ー。」
「起立。『おはようございます。』」
隣の席の琴葉が号令をかけたということは、今日は俺も日直だったようだ。忘れてた。
「突然だが、今日は転校生を紹介するぞー。」
クラスがどよめく。何の前触れも無かったもんな。道理で机が一つ増えている。
「琴葉、何か聞いてるか?」
「いいや何も。」
「入っていいぞー。」
担任が招き入れたその顔に、俺は見覚えがあった。
机の下にライフルを生成する。
「何してるの!?」
「琴葉は顔を見てなかったな…」
「?」
「奴がアジダだ」
来年の抱負:投稿頻度アップ




