階段の段差(蹴上げ)はどうやって決められたか探ってドツボにハマる
諸事情により、アメリカの階段一段の高さを調べた。ただ、今の規格ではなく過去(できれば1929年以前)を調べたかったのだが、現在のところ不明である。
「アメリカの住宅の階段(の段差)は低くできている。高齢になっても運動のために階段を上り下りするからだ。」というブログ?を見かけた。
日本の建築基準法23条では、階段の段差の規定は「蹴上がりの高さ(段差)23cm以下、踏面15cm以上」とされている。まあ実際には、こんな急な階段は(ほぼ)見かけない。屋内階段は(大雑把に言って)小学校が蹴上げ16cm以下、踏面26cm以上、中学校高等学校及び店舗・劇場・ホテル等が蹴上げ18cm以下、踏面26cm以上、基準面積以上の共同住居が蹴上げ20cm以下、踏面24cm以上、基準面積以下の同が蹴上げ22cm以下、踏面21cm以上である。
ちなみに我が家(1979年建築の借家)は蹴上げ19cm、踏面20cmであった(昨年4段ほど滑り落ちて1週間ほど背中が痛かった)。
諸外国の基準は一部のみ検索できた。アメリカは蹴上げ102mm(4インチ)〜178mm(7インチ)、踏面279mm(11インチ)以上、イギリスは蹴上げ150mm〜170mm、踏面250mm以上、オーストラリアは蹴上げ115mm〜190mm、踏面250mm〜355mm、カナダは蹴上げ125mm〜180mm、踏面280mm以上である。
やっぱ欧米の方々は足がデカいから、踏面大きいよね。でも背が高いから蹴上げが高くてもどうにかなりそうなものだけど。
マスターの二段階運動負荷試験(Master's two-step test、1929年)、という心肺機能を評価する運動テストがある。学生の時に被検者になってキツかった覚えがある(ダブルだったからかなあ)。これに使う段が凸型で蹴上げがそれぞれ9インチ(22.86cm)、踏面が12インチ(30.48cm)である。ただ、今にして思えば、この9インチ、どこから来たのだろう?現代のアメリカの階段の高さは7インチ以下であるので、もしかして昔(1929年頃)の建築基準は9インチだったのだろうか。
機能的自立度評価法(FIM;Functional Independence Measure、1983年)という(主に)脳卒中患者の日常生活動作を評価する能力テストがある。この中に「12〜14段の階段を登れるか」という項目があり、これは「フロア間を移動することができるかどうか」とされている。しかし現在のアメリカでは178mm×14段=2492mm、つまり1階と2階の床面の間が2.5m弱となり、我が家の2.66mより低くなってしまう。これじゃアメリカ人、天井に頭が着くよ。これが蹴上げが9インチなら3.2mなので納得できる。
日本の建築基準法(昭和25年法律第201号)の階段の蹴上げ23cmはほぼ9インチであり、戦後、アメリカ軍占領下での法律であるので、当時のアメリカの基準から流用きた可能性がある。古民家や城だと階段もっと急(蹴上げが27cmくらいあったり)なので。
ということで調べてみたのだが……。わからなかった。「アメリカ 階段 段差」でググってみても現在の値しか出てこないし、「19世紀」などのワードを追加しても出てこない。札幌市内の某大学図書館(工学部建築学科がある)でも平面図しかわからない。OPACを叩いても(他大学を含めても)「一致せず」でわからない。
もしかしたら日本の建築基準法の数字は、尺貫法モジュールの部材、たとえば1間(6尺=181.8cm)を8つに割って22.725cm、切り上げて23cmだったのかもしれない……。
と、ここまで書いて、建築基準法ができる以前の法律に階段の基準がないか調べたら、あった。「市街地建築物法(大正8年=1919年)」に於いて、蹴上げ0.75尺以下、踏面0.5尺以上の規定がすでにあった。終了〜〜。
いや実は、「北海道開拓の村」(江別市)という明治〜昭和初期にかけての建築物を移築・再現した施設に先日行ってきて、階段周りをチェックしてきた(馬鉄は乗らなかった)。この中で、「旧開拓使工業局庁舎(明治10年建築=1873年)」の玄関前石段や屋内階段の蹴上げが23cm、見た時は「9インチじゃん!」と盛り上がったけど、0.75尺として考えたらアメリカの昔の階段とは関係ないのか。函館まで洋館見に行くのも、辛いなあ。