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少女の話

 死にたい、わけじゃないけれど。

 面倒臭い。


 面倒臭いと思うのも億劫で、ただ、何もない。


 生きたくないというわけでもないけれど、生きたくはない。


 でも行きたくはない。


 そんな感情。


 そんな感情はどう殺せば良いのだろうか。


「大丈夫だよ、私がいる」


 なんて安い言葉を言われたくない。


 いや、どうせなら言われたいけれど言ってくれる人はいない。


 だって周りに誰もいない。


 もしそんな風に言われたら、嬉しい。


 でも生きなきゃいけなくなる。


 なら生きてあげても良いけど、どうせ生きたらその人はいなくなる。


 いなくなったら、また同じことの繰り返し。


 詰まるところ、全部どうでも良くて。


 自分のことを自分で決めたくなくて、考えるのを放棄してる。


 それが一番楽だ。


 でもそれじゃ生きていけない。

 死ぬ勇気すらない。

 だから、どうでもいい。


 小耳に挟んだ。

 自分を傷付けたら生きている実感がするらしい。


 やってみた。


 傷が滲んで広がるだけだった。


 自分は意外と病んでいないのかもしれない。


 そう思ったら余計に生きる意味は分からなくなる。


 あー分からない。


 もういい。


 死にたくないけど、死にたいし、生きたくないけど、生きたい。


 その時点でもう死んでいるのかもしれないね。


 あーもう無理。


 何だか勇気が湧いてきた。


 そんな勇気はあなたを救った——かもしれない話。


 ★



 怠いけど、やらなきゃ。


 だっていきたくない。


 うざいし。きもいもん。


 ほんとゴミ。


 駆けた。


 善は急げって感じで。


 深夜3時だ。


 ここは田舎で周りには誰もいない。

 だからまるで世界に一人みたいだった。


 すごく嬉しい。

 こんな世界が一生続けばいい。


 でも寂しい。

 面倒臭いな。


 たどり着いた場所は、希望。


 綺麗で綺麗で綺麗な場所、崖。

 新たなるステップへと進める場所。


 けれどそこには異物がいた。


 少女が体を震わせて蹲っている。


「どうしたの?」


 聞くと、少女は涙で答えた。


「そっか」


 この少女もそうだったのだ。

 同じで更なるステップアップを目指している。


 少女はコクリと頷く。


 少女の横にちょこんと三角座りで並ぶ。


 心なしか少女は優しい表情をした気がした。


「聞かないの?何も」


「聞かないって?何が?」


「お姉ちゃんは止めないの?私のこと」


 震えながらに少女は言った。


 事情を聞いて何となく説得したら多分この少女はスッテプアップを諦めることだろう。


 別にどっちでもいいし。


 どうせ人間死ぬし。


 それが早いか遅いかの話だし。


 止める意味も分からないし。


 それなりの理由があって考えてその選択肢を取っているのなら、それはすごいこと。


「止めない。見てたげるから」


「え?」


 少女は目を丸くする。


「寂しくないよ?一人で細々と死ぬわけじゃないもんね」


 少女はさらに震えを増した。


 きっと少女は毎日ここにきては、上に上がる決意が出来ないで帰って来てを繰り返して今日にたどり着いたのだろう。


 でももう大丈夫。


 なぜって?——ってやつだ。


「行ってらっしゃい」


 朗らかな笑顔を少女に見せる。


 少女はびくりと肩を上げた。


「え?で、でも——」


 フルフルと首を何度か振る。

 泣きそうな顔だ。


 てか泣いてる。


「わ、私さ。学校で虐められてて親も先生も誰も助けてくれなくて、それで——」


「楽になろうってんでしょ?良いじゃん。やろうよ」


 否定はしない。

 人様の意見を否定するほど自身はすごい人間ではない。


「で、でも。やっぱり痛いのは嫌だから」


「痛くないよ。きっと気持ち良いよ」


 けれど、勘違いは正す。


「た、高いところ。き、嫌いなの」


「高いところだってあなたのこと嫌いかもよ?お互い様だよ」


 きちんと少女以外の気持ちも鑑みる。


「わ、私やっぱりやめようかなあ——」


「やめてどうなるの?その後は?いじめをどうやって乗り越えるの?」


「そ、それは——」


 少女は震えをさらに増長させる。


「それができるなら最初からこんな道を選んでいないよね?」


「は、はい。わ、私は——死にたくな」


 それから今月一番の笑顔を少女に向けた。


「一緒に死のっか——」


「へ?」


 すると少女は大粒の涙を続々と地面に落とした。


「そ、それ、なら、その——でも、良いの?」


 きっとこの少女は死にたくない。

 けれど、生きたくもない。


 似たもの同士だから。


 少女はこの解答をずっと求めていたのかもしれない。


「いいよ」


「お——」


 少女はしつこく抱きついてくる。


「おねえちゃあああん!」


 鼻水だとか涎だとかを必死で服に擦り付けてくる。


「お姉ちゃんじゃないし。てか汚い」


「ご、ごめん」


 少女は素直に謝る。


「良いけど」


「でもお姉ちゃんはこんなに美人さんなのにどうして死にたいの?」


 少女は顔を覗き込んで聞いてくる。


「色々あるんだよ」


「そっか」


 色々ある。本当にしがらみとか何やら。


 面倒だ。


「じゃあ逆に聞くけど、お嬢ちゃんはこんなに小さいのにどうして死ぬの?まだ未来はいっぱいあるでしょ?」


 少女ははっとした顔をするとすぐに目を逸らした。


「ご、ごめんね」


 少女は色々を察してくれたみたいだ。


「じゃあ手を繋ごう」


 それから手を繋ぐ。

 少女の冷たくて小さい手と絡み合わせる。


「じゃあ行こっか」


「うん」


 少女は満面の笑顔で喜んだ。


「いっせーのーで」


 それから同時に身を投げた。


 体のスピードはだんだん遅くなって。


 ゆっくりゆっくり過去の記憶が頭を支配する。


 これが所謂、走馬灯。


 綺麗だ。


 綺麗で綺麗で綺麗だった。


 終わりが近付き嬉しくなる。


 ふと少女を見る。


 少女は笑っていた。


 多分同じ気持ちだろう。


 と、その笑顔は突然変わった。


 小悪魔めいた笑顔に変わったのだ。


 それから突然に少女はこちらに抱きついてきて。


 そしてぎゅっとくるっと体勢を変えた。


 少女が下でこちらが上になった。


 これじゃあ、一緒に行けない。


 ずるい。このままじゃ行けない。


 やだ。いやだ。


 行かせてよ。どうして?


 そしてその時が来る。


 少女はニヤリと笑って。


「残念でしたー」


 そう言って、綺麗に終わった。


 少女だけが行ってしまった。


 どうして。


 ずるいずるいずるい。


 なんでなんで。


 一緒に行こうって——


 気がつくと少女へ向かって透明の大粒を打ちつけていた——


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