2.3
明津一彩はヒトである。野望はまだない。
生まれも育ちも野良猫よりか遥かにいい「僕ら」は、いかにして生きていくのか。
動物として欠陥を抱えたヒトたちの、苦悩と未来の物語。
「じゃ、運ぶのはよろしくたのむわ。」
淡い期待を持たせておいて、その次の瞬間には見事に刈り殺した彼女は、僕に会話を押しつけた時とおなじように、細い指で、さらに細い黒髪を梳きながら。
今回も見事に、面倒ごとを僕に押し付ける。
「あぁ……はぁ。」
「あら、不満かしら。でも諦めなさい。最初からそういう意味での人手よ。」
いやまあ、不満っちゃ不満だけれども。
あんなものを見せられてしまったら、ぶっちゃけ反抗する気なんてあっても失せてしまう。
僕に元気がないのはパンツを装ったパンツのせいなんだけど、それは口に出さなければ問題ない。そっちは、しゃがんでいて見てなかったことにすればいい。
……ん、パンツの他になにを見たんだって?
ああ、言ってなかったかな。
彼女は◯面ライダーの如く飛び上がって、僕の頭上を通過したんだけど、べつに飛べるわけじゃないから。彼女も人間なわけだし。
だから必然、重力に引っ張られた体は位置エネルギーを運動エネルギーに変換して加速しながら、最後は大男に突っ込んだわけで。
「こんな華奢な子があんな事するとは思わんでしょ、普通。」
「あら、見た目で判断するのは良くないとか言いそうな顔だけれど、そういうことを言うのね。」
「どんな顔だよそれ。」
力のこもらない声でナヨナヨな突っ込みをした僕は、扉の近くでノビている大男に近寄る。
「上野陽貴……3年B組、先輩かよ。」
モリモリな筋肉で張り詰められた制服からこぼれ落ちた生徒証を開いた僕は、ため息をひとつ。
「あなた、面白いわね。」
「そりゃどうも。」
なにに対してか変な間で放たれた発言に、もう考える気力もない。
こいつを運んで、さっさと教室に戻ろう。
そう決めた手で、自分よりも何回りも深い襟に手をかけて。
「やっぱりちょっと待ちなさい。」
王妃から、これ以上無いくらいに丁寧な待てが入る。
「……まだなにか?」
想定していなかったその言葉に、でも言葉だけで返して、体は出口に向いたまま。
彼女の覚悟がこもった宣言を聞いた。
「自己紹介のーーー続きをするわ。」
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