1.2
明津一彩はヒトである。野望はまだない。
生まれも育ちも野良猫よりか遥かにいい「僕ら」は、いかにして生きていくのか。
動物として欠陥を抱えたヒトたちの、苦悩と未来の物語。
「お気に召したようでよかったよ。あんまりあっさりしてるようだと、誘い甲斐がないからね。」
そう言うと同時にバチコンと放たれたウィンクで、明津は正気を取り戻す。
「そ、それで俺は、ここでなにをさせられるんですか。」
思えばここは、普通に学校生活を送る上ではまず立ち寄ることのない旧校舎。しかも歩いた距離的に、そのなかでもかなり奥の方だ。
校内は治外法権ーーーなんてアニメみたいな事はないだろうけど、こんな人気のない場所で起こったことなんて簡単に偽装できそうだ。
それに、この先生は何かがおかしい。
真面目なわけでもなく礼儀正しいわけでもなく、生徒のお手本になる立場の人間だとは到底思えない。さっきのウィンクだって新宿の東宝ビル前辺りで醸成されたものにも思えるし、へんに顔が良いのも、この状況下では不安要素になる。
一彩は医務室(旧)への感動から図らずとも近付いていた柚月との距離を一歩あけて、慎重に目的を質そうとして。
「そんなことは私に聞くよりもひなたに聞いた方が速いだろう。」
たった一言でさらりと躱された。
だから他人は嫌いなんだ…とやりづらさに苦い顔をする一彩をよそに、柚月は「入るぞひなた」と一声かけてドアに手をかける。
ドアとその枠とが擦れて、布を引きずるような音を出しながら扉は開く。
聞いたことのない木と木が摩擦を起こす音に、なんだか新鮮なものを感じて、少し和んで。
直後、脳を直接ぶん殴られたような衝撃を受けるのだった。
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