習作その4・ハイファンタジー(異世界恋愛の要素もあり)・底辺女冒険者が偶然チートスキル貰って無双してハイスペイケメンに溺愛される話
考えるのが面倒だったので、主人公すら名前や細かい容姿の設定がない。書き直す可能性もゼロじゃないけど、読むときは各人が適当な名前や外見を想像してください。
「買い取り額は、全部合わせてこんなもんだね」
「ふぁっ!?」
店員のあんちゃん――店主は底辺冒険者の相手はしない――が差し出したアバクス(算盤の一種)を見て、あたしは思わず奇声を上げた。好奇や憐れみに満ちた周囲の生暖かい視線が集まるが、気にしてる余裕なんかない。
「いやいやいや、安すぎるでしょ」
「そうは言ってもねぇ。ほら、この短剣はここに傷があるし、こっちの魔法石は純度が低いし」
「ええ……」
結局、あたしは渋々その額で売却するしかなかった。これじゃ消耗品を補充したら、食費と宿代で消えちゃうよ。
いや、そろそろガタがきてる装備品があるから、そのメンテナンス費用を残しとかないと……。
ああ、これじゃ食費を削らないと路地裏で野宿することになるなあ。仕方ない、パンとお肉は我慢して麦粥と芋&豆のスープのセット、通称「貧乏定食」にするか。
ていうか最後にお肉食べたのいつだっけ。
一部ではあたしのことを菜食主義者と勘違いしてるヤツもいるらしい。
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あたしは冒険者だ。地下迷宮に潜ってお宝を探したり、モンスターを討伐して賞金を稼いだりする……ま、フリーのハンターみたいなもんかな。
こう聞くとカッコいいでしょ?
夢と冒険追い求め、男ひとりの(いや女なんだけど)旅をゆく。おおギャラクシー。輝く熱き勇姿。
んなもんAとかSとか、英雄扱いされる上位ランク様だけだっつーの。
あたしはしがないDランク。下から三番め、しかも三年目でこれだ。はっきり言ってザコだ。モブキャラだ。特別じゃない何処にもいるわ。
でも、もう少女って歳でもなくなりつつある(これでも乙女なんだから年齢を聞くのは勘弁してほしい)今、もうハッキリ分かっちゃったのよね。
夢は現実にはならないから夢なんだって。
この世は神様に選ばれた特別な人のためにあるって。
よく「誰もが自分の人生の主人公だ」なんて言うけど大嘘だ。
世界があって主人公がいるんじゃない、主人公のために世界があるんだ。そしてあたしはモブだった。
ここまで分かってるなら、もう廃業して故郷に戻る頃合いなんだろう。実際、同世代の何人かはさっさと危険な仕事に見切りをつけて、農家や鍛冶屋の女房になってる。
でも、冒険者になるのを反対してた両親に啖呵切って飛び出した手前、今更「Dランクで挫折しました~」と戻るのもね……。
才能もないのに、一攫千金と英雄の名声という夢ってか未練にしがみついてる負け犬、それがあたしだ。
そんな犬っころは今日もダンジョンに潜る。
特定のパーティは組んでない。こんなザコと常時組みたがる物好きはいない。
余り者同士でその都度臨時パーティを組んで、浅い階層でちまちま狩ったり拾ったり。
ちょうど野良犬の群れが残飯を漁るようにね。
それがあたしたち負け犬の日常だった。
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「な、なんでこんな浅い階に悪魔が出るんだよ!」
「知るかそんなもん!」
「も、もうダメ、死ぬ……」
あたしたちは目下、強力なモンスターのデーモンに追われて絶賛逃亡中。こいつは本来、魔界に近い深い階層にしかいないはずなのに!
ダンジョンではごく稀に、こういった不可思議な現象が起きる。その謎は偉い学者の先生方が研究してるらしいけど、まだ解明には至っていないらしい。
悪いときには悪いことが重なるものだ。今度は前から大量の骸骨戦士が!
こいつは人間のガイコツが魔法で動いてるモンスターで、デーモンと違って元から浅い階にいるヤツだ。骨だけだからパワーは大したことなく、脳ミソもないから判断も鈍い。単体ならあたしでも勝てる。でも今回は数が多すぎ!
しかもスケルトンどもは一直線にあたしらに向かってきた。たぶんダンジョンの侵入者――つまりあたしらだ――の始末を最優先に行動してるんだろう。
ここで戦ったらデーモンの攻撃に巻き込まれるんだけど、それを恐れる知能なんてこいつらにはない。
絶体絶命ってやつだ。誰かが涙声で叫ぶ。
「な、なんとかならないのかよ!」
その悲鳴で、あたしはあるアイテムのことを思い出した。
以前、上位のパーティの荷物持ちとして一回だけ深い層に行ったことがある。帰還後に、分け前として貰った転移の魔法が使える巻物だ!
「そんないいもんあるならさっさと使えよ!」
そう叫ぶ気持ちは分かるけど、使えない理由があるのよ。考えてみ? 上位パーティ様があたしなんかにホントに価値のあるお宝くれると思う?
「これ大昔ので、羊皮紙や木片じゃなくて布に呪文か書かれてるヤツなのよ! で、転移の場所書いてる部分が破れててないの! つまりまともに作動するか、作動してもどこに飛ぶか分かんないのよ!」
「何処でも良い! 死ぬよりマシだ!」
「いいから使えよ! どうなっても恨まないから!」
確かにこのままじゃ全滅だ。ダメ元に賭けるしかない。
「ああもう! どうにでもなれ!」
巻物が光を放ち、ボロボロになって消えてゆく。
同時にあたしらの体も、淡い光に包まれる。
不思議と心地よい浮遊感……
(ああ死んだわコレ。やっぱ意地張らないで故郷に帰ればよかった。せめて最後にもう一度会いたかったな、父さん、母さん……)
そして、あたしの意識は途絶えた。
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「……ここは?」
目覚めたのは、なんかよく分かんない神殿みたいなとこだった。
四方にはでっかい柱の上に建ってる彫像がある。仲間たちは誰もいない。ランプも松明もないのに淡い光があたりを優しく照らしているのが、不思議な非現実感を覚えさせた。
「もしかしてあの世かなあ」
独りごちたあたしの頭の中に声が響いた。
『あの世ではない。ここは精霊の祠だ』
「ああ幻聴が聞こえる」
『だから幻聴ではない』
「寝不足はお肌の大敵よね。お休みなさ~い」
『寝るな。人の……いや精霊の話を聞け』
うるさいので仕方なく話を聞いた。要約するとこうだ。
①あたしが使った巻物は古代魔法王国の遺物で、精霊の試練を乗り越えた者が力を授かる聖域に入るために用いるものらしい。
②その国はとっくの昔に滅んでおり、長い歴史の中であらゆる物品は失われるか散逸し、巻物は偶然にも現存してダンジョンに流れ着いていた。
③聖域に入れるのは巻物を使った本人だけ。仲間はアフターサービスで町に転移させてくれたらしい。精霊さんグッジョブ。成りゆきで組んだ臨時パーティだからって、死んで平気な訳じゃないもんね。あたしはまだそこまで堕ちてない。
④で、あたしに精霊の力を授けてくれるらしい。
…………。
「いやいやいや、ダメでしょ。あたし試練なんて受けてないもん」
でも精霊さんたち(言い忘れてたけど風、炎、大地、水)は頑として聞き入れない。
『経緯はこの際問題ではない。ここに辿り着いた者に加護を与える、それが魔法王国の王と交わした契約なのだ。よってそなたに我らの力を授ける』
「そんな契約無効じゃないの? たしか法律でどうたらこうたら」
『そなたの国の決まりごとなど知らん』
「でもねぇ……」
『ああもうしつこいな! だったらハッキリ言ってやる! 魔法王国が滅んでから、我らはず~っと巻物が使われるのを待ってたんだよ! 誰も来ないのに! 退屈で死ぬわ! ぶっちゃけとっとと終わらせたいんだよ!』
「ええ……。完全にそっちの都合じゃん」
『悪いか!? とにかく受け取れ! 言っておくが返品は受け付けないからな!』
その言葉を合図にするかのように、四つの彫像がまばゆい光を放つ。そしてその光は球体となり、四方からあたしに向かって飛んできた。
あたしは思わずガードの姿勢を取るけど、もちろん実体がない光を防げはしない。
なんだろう、体の中に不思議な力が宿った感じ。
『これでそなたは我らの加護を得た。力の使い方は、その時が来たら脳裏に浮かぶだろう。ただ鍛練は怠るでないぞ』
「はあ。仕方ないなあ。分かった、受けとるよ……ってそうだ! あのデーモンどうなったの!?」
『ん? ダンジョンから出て普通に町を襲ってるぞ』
なんですとぉー!? それ先に言ってよ!
「何とかならないの!? こんなあたしだけど、町には親しい人だっているんだよ!」
『ならば早速我らの力を使うがよい、町まで転移させてやる。世界の危機でも訪れない限り、我らほどの力を持つ精霊が人間界に関わることはそうない。そなたが生きているうちに言葉を交わすのは、おそらくこれが最後だろう。さらばだ、娘よ』
「娘じゃない、あたしは……」
『そうか。我らは……』
別れ際に交わした最後の言葉。彼らの名は、子供の頃に母さんが子守唄がわりに聞かせてくれたおとぎ話に出てくる、四人の精霊王と同じだった。
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町中の鐘楼や教会の鐘がけたたましく鳴り響く。
襲撃から町を守るため門は固く閉じられたが、いつまで持つか……。人々は頑丈な建物に集まり、ただ息を殺して震え、祈ることしかできない。
だが。
町の外ではたった一人の人物が、ダンジョンから這い出たデーモンの前に立ちはだかっていた。
すなわち騎士隊長その人である。彼は部下たちに、
「お前たちが束になっても勝てる相手ではない。私が一人で迎え撃つ」
と言い、単身迎撃に向かったのである。
もとより勝てるとは思っていない。
町の兵力が体勢を整える、あるいは周辺地域から援軍が来るまでの時間稼ぎ。あわよくば多少なりとも手傷を負わせられれば……。
民を守るのが騎士の務めである。いつでも捨て石となる覚悟はできていた。
だが覚悟だけで物事が上手く運べば誰も苦労はしない。
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「……ここまでか」
満身創痍となり、もはや動くこともままならぬ。
そして眼前に迫るデーモンが、今にも地獄の業火を放たんとしている。
(……無念)
死を覚悟し、目を閉じたその時。
「岩壁っ!」
突如として地面が盛り上がり、巨大な土の壁が炎を遮った!
(!?)
驚いたのは彼だけではない。デーモンもだ。しかし巨大な悪魔は、さらに凄まじい火炎を吐き出す。
息が苦しい。視界が白く染まる。このままでは直接炎に巻かれずとも、熱された空気で肺の中を焼かれてしまうだろう。
だが。
「そんなに火を吹きたいなら自分で喰らいな! ロックウォール三連発!」
なんと! さらに三つの壁がデーモンを取り囲むように形成されたではないか!
「グオォォォ~ッ!」
これでは竈の中に閉じ込められたようなものだ。悪魔は自らの炎に焼かれ、苦悶の表情――人間とは顔の造りが違うがたぶんそうだろう――を浮かべる。
「な……!?」
隊長の目に映ったもの。それは信じがたいことに一人の少女……いやもう大人の女になりつつあるだろうか、とにかくたった一人の女性の姿であった。
デーモンは怒り狂い、土の壁を破壊して女性に迫る。しかし……
「熱いの!? なら冷やしてあげる! 見せてあげるよ水の刃、ウォーターカッター!」
空気中の水分が一点に集まるように水の球体を形成し、一拍の間をおいて凄まじい勢いでデーモンめがけ射出される。そして……
ズゥゥン、と音を立て、悪魔の右腕が地面に転がった。
彼は知らなかったが、これはいわば水鉄砲の超強力なものだった。音の伝わる速さを超える水流は、鋼鉄の塊をも容易に両断するのである。
「まだまだいくよ! 切断続きで芸がないけど、風刃っ!」
今度は左腕が斬り落とされた。よく見えなかったが、空中の一点が三日月型に歪み、それが射出されたように思えた。いわゆるカマイタチであろうか。
「目には目を、歯には歯を! 炎には炎、これでトドメっ! 火壁四連発だっ!」
先ほどの土壁と同じように、今度は炎の壁が四方からデーモンを取り囲む。それは一斉に悪魔めがけて移動し……
「グギャアァァァァーッ!!」
己の炎を上回る業火に包まれ、デーモンは断末魔の悲鳴を上げて倒れた。
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信じがたい光景であった。
過酷な訓練に明け暮れた自分ですら死を覚悟したデーモン。それがたった一人の女性に、あっけなく討ち果たされたのである。
奇妙にも驚きはなかった。己の力が足りなかったことへの悔しさも、自分をはるかに上回る強さを見せた謎の女性への嫉妬も。
あまりにも現実離れしていたためかもしれない。
むしろ彼女への憧憬だけがあった。
「壁系が二つ、切断系が二つ。やっぱまだ鍛練ってかイメージのレパートリーが足りないね。でもまあ町は守れたっぽいから、とりあえずオッケーかな」
隊長のことを思い出したのか、その女性は彼に手を差しのべる。
「あー、騎士様ですか? 大丈夫ですか? 痛いとこありません? 安物ですけど回復薬飲みます?」
彼は呆然と目の前の女性を見ていた。
痛むとすれば胸であったろう。
彼はまさにこの時、己が生涯をかけて剣を捧げるべき乙女を見ていたのであるから……。
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「こんな格好落ち着かないよぉ。一着であたしの年収何年分!? ソースついたらどうしよう!?」
「何度言えば分かるのです! そのような言葉遣いは改めて下さいませ!」
あれから、あたしの人生は激変した。
なんか「精霊王の加護を得た乙女」とかなんとか持ち上げられて、目玉が飛び出るほどのご褒美もらって(久しぶりに肉食べた!)、故郷に錦を飾って……。
そこまではいいんだけどさ、なんか王都に連れてこられて、無理矢理レディの教育をさせられてんのよ。ドレス着せられて、食事のマナーだのダンスだの、難しくてめんどいことを色々ね。
精霊王の加護を得たといっても、所詮ひとりの力なんて知れてる。家族の立場もあるし、王様の要求(もちろん実質的には命令だ)は無下にできない。
なんでも、英雄が力を貸してくれることが、王様の人徳をアピールすることになるんだってさ。
で、そのアピールをするためには、当然ながらあたしが他の国の王様とかと会う必要があるわけで。それには社交界のマナーを身につけないといけないわけで。
かくしてあたしは今、なんちゃら夫人とかいうマナー講師の怖~いおば様にお小言を言われてるのよ。でも、頑張らないとね。だって……
「なに、すぐに慣れるさ。いずれ夜会にも出るだろう、その時は私にエスコートさせて欲しい」
隊長さん改め、騎士団長様のためだもん。
たった一人でデーモンに立ち向かった勇気を讃えられ、彼は王都に栄転して団長に昇進。今や王様のお気に入りだという。
で、なんでか知らないけどこのイケメン騎士様、あたしにグイグイ来るのよね……。
困惑はある。
でも、嫌じゃない。
実はこの人、意外にも平民からの叩き上げでね。人が見てない時はあたしの口調や振る舞いに合わせてくれるのよ。それに気分転換と称して、お忍びで王都を案内してくれたりもする。
慣れない宮廷で神経すり減らしてるあたしへの気配りだろう。その優しさがほんのちょっぴりむず痒く、そして、とても嬉しい……。
まだ出会ってから日は浅いけど、あたしも彼に惹かれつつある。それは自分でもはっきり分かる。
だから彼の顔に泥は塗れない。辛いけどレディになるしかないのだ。よし、やるぞ!
それはそれとして……。
隣の芝生は青く見えるってホントだね。
あああああ!
貧乏定食が恋しいよ~っ!
【完】




