全校集会、春の陣
ぱっと思い付いたのでがーっと楽しく書きました。
主に私の趣味にしか配慮しておりません。ご留意ください。
皆さん、おはようございます。
全校集会の場をお借りして生徒指導係より大切なお話があります。君たちの今後の学校生活どころか人生に大きな影響を及ぼす類のお知らせなのでどうか真面目に聞いてください。聞き逃すと最悪社会的に死にます。大袈裟な、と笑ったそこの君、残念ながら大袈裟でも誇張表現でもありません―――――実際、一人の新入生が昨日社会的に死にました。
はい、皆さんが真面目に聞いてくれる気になったようで何よりです。
顔色が若干悪い方がちらほらと見受けられますね。ですが思い当たる節があってもきちんと最後まで聞いてください。いいですか? 本題に入ります。
当校は、『平等』ではありません。
十日前に入学したばかりの一年生たちはともかくとして、どうして他の学年の生徒たちも一部ざわついているのかが僕にはさっぱり理解出来ませんが大切なことなので繰り返します。
当校は、『平等』ではありません。
この帝国学校の設立当初から掲げられてきた鉄の掟とも呼ぶべきこれは、入学前に各家配られるパンフレットにも書いてありますし校則にも明記されています。嘘だと思うなら生徒手帳の一ページ目をあとで確認してください。今は生徒指導係の教員からのお知らせを聞く時間です。つまり僕の話を聞け―――――いやもう本当に冗談抜きで人の話を聞きなさい、特に一年。特に一年!
生徒は誰しも平等なはずです?
違います、平等ではないです。
学校で身分は関係ありません?
誰ですかそんなこと言ったの。
少なくとも僕ではないですね。
いいですか、そもそも我が校は貴族のための学び舎です。優秀だろうが金持ちだろうが貴族籍を持たない者には一切! 絶対! 門戸を開かない『貴族』のなんたるかを学ぶ場所!
そう、つまり、下は男爵家から上は皇家までを受け入れている我が校に―――――社交界の縮図でもある貴族のための箱庭に『平等』なんてあるわけないでしょう。
ええ………嘘でしょう一部の生徒たち………そんなに驚くことあります?
だって考えてもご覧なさい、あなたたちが此処を卒業する頃にはもう年齢的に成人ですよ。子供じゃなくて大人です。つまり、ガッチガチの身分制度で成り立っている社交界で生きて行かにゃならんわけですよ。嫌でも何でも強制的に生きるフィールドがそこになります。そこでは甘えなど許されません。
これはあくまでも例え話ですが、もし当校が生徒たちは『平等』なのだとの方針を明言していた場合、極論つい先日まで学生気分で『平等』なんですう、とか建前を盾に振舞ってもまあ大目に見てもらえていたのにいきなり『平等』が取っ払われた魔窟に漕ぎ出さねばならない―――――。
そんなの教育の失敗でしょうよ。
失敗です。何度でも言います。そんなものは教育の失敗です。明らかに方針を間違えています。設定ミスです。だってそうでしょう。
何が悲しくて『学校生活』という予行演習の場で『本番』と違う環境設定をわざわざしなきゃならんのですか。それ意味あります? 将来的に『平等』じゃない身分制度の中で生きるなら最初から『平等』じゃない環境でそれに慣れた方が遥かに有意義。少なくとも我が帝国においてはそういう方針が支持されています。少数派? なんとでもおっしゃい。
『学校では生徒の誰もが平等に学ぶ権利がある』を誇大解釈した結果「男爵令嬢も侯爵令嬢も学校では平等でしょう!」と身分制度を度外視した振る舞いをする生徒が出た挙句王族をも巻き込んだ婚約破棄騒動になって学校そのものが閉鎖する騒ぎになった隣国の教育機関とか「学生に身分は関係ありません!」と貴族に突っ掛かった特待生の平民たちが革命の疑いで投獄された海向こうの国の国立学園が世の多数派というのであれば我々は少数派で結構。
そもそも身分制度を導入している国家で学生だから子供だからと『平等』を謳い掲げたところで碌なことにはならない、というのが我が国における認識です。生まれた時から平等なんてものとは縁遠いところにいる身で聞こえの良い便利な言葉を自己解釈で振り回す大人にはなってくれるなよ―――――そういう戒めを込めて我が校は問答無用の『不平等』です。
ですが考えてもみてください。
我々にとってはそれが『普通』です。
学生だから『平等』だなんてその理屈こそが幻想です。
一部の生徒たち以外には既に分かりきっていた話を長々としてしまって申し訳ありませんね。さて、はい、ここまで言えばもうお分かりでしょう。昨日のことです。
学校において生徒は誰しも平等だ、と勘違いしていた一年生が残念ながら退学になりました。
その生徒は下位貴族でありながら婚約者のいる高位貴族の異性に迫り良心的な誰かに苦言を呈されるその度に謎の『平等』を叫んでいましたがあれはホントに平等でも何でもないただの稚拙な言い訳です。そんなことに使われる『平等』が可哀想ですね、と僕は同情を禁じ得ません。生徒ではなくただの単語に同情したのは初めてです。
ああ、たった一度の失敗で生徒を切り捨てるだなんて、と学校側の対応を責めないように。
これは普通に身分制度を守った上で勉学に励んでいる真面目な学生を守るためです。知っている生徒は知っているでしょうが、退学処分となった例の者は同級生や担任の先生が何度言って聞かせても全然聞き入れる様子がないどころか酷いだの差別だの泣いて喚いて授業を何度も妨害したのでこちらとしても致し方なく苦渋の末の決断でした。
取り返しのつかない失敗とは何かを本番前に学んでおく。当校の存在意義ですね。異分子はこうやって排除されます。皆さん肝に銘じましょう。
それにしても在校期間が九日間、というのは僕が記憶している限りでは最短記録だと思います。こんな新記録の樹立など正直求めていませんでした。今後更新されないことを祈ります。切に。本当に。
僕からの話は以上です。
ご静聴、ありがとうございました。
基本スピード解決派。ありがとうございました。