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連鎖~月下の約束~  作者: 瀧川蓮
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第三十一話 原因の一端

いくつ山を越えただろうか。やっとそこへたどり着いたとき、私とデージーは疲労困憊でへとへとになっていた。


「デージー、大丈夫?」


「はいなのです。デージーは体力だけはあるのです」


そう言って、力こぶを作るデージーを見て、私は頬を緩めた。疲れていないはずはない。険しい山々の、道なき道を連日歩いているのだ。


オーガであるデージーに体力があるのは事実だろうが、私を心配させまいとしているのは明らかだった。


私たちがやってきたのは、至高の種族と呼ばれるハイエルフが暮らす里。下界との接触を断ち、自分たちだけのルールで暮らすハイエルフの里は不可侵であると聞く。


でも、私はどうしてもここへ来なければならなかった。あの日の真実を知るために。私は真っすぐ前を向いた。視界がぼんやりと歪み、先の景色がはっきりと見えない。結界だ。


里の周りには、薄い光の膜が張られ、外部から訪れるいっさいの侵入者を阻んでいた。恐る恐る、光の膜に手を触れたところ――


「痛っ!!」


バチンッ、と電撃を受けたような痛みが走り、私はすぐさま手を引っ込めた。唇を噛みしめ、結界の先を睨みつける。


「あ、あの!! すみません! 誰か、いませんか!? お願いします、里へ入れてください!」


静かな森に私の声がこだまする。だが、何度呼びかけても、里からは何の反応もなかった。それでも、私は諦めることなく呼びかけを続けた。


「お願いします! 私は、バジリスタにあったリエッティ村の者です! 私が村を離れているあいだに、故郷のリエッティ村は滅ぼされました! そのことについて、何かご存じありませんか!?」


やはり、反応はない。ダメか。至高の種族であるハイエルフにとって、下界で起きることなど興味はないのだ。でも、それでも……! 私は諦めることなく、再び声を張りあげようとした。そのとき――


目の前で結界がぐにゃりと歪んだかと思うと、なかから一人の青年が現れた。すぐにわかった。至高の種族、ハイエルフだと。


「……リエッティ村、と言ったかい?」


私に話しかけているのだと気づき、慌てて首を縦に振る。


「と、突然の訪問、申し訳ありません。わ、私はリエッティ村の出身で、アシュリー・クライスと言います」


私がそう挨拶をすると、青年の眉がぴくりと跳ねた。


「……私の名はクレオメ。もしかして、君はクローバー・クライスのお姉さんかい?」


初対面であるハイエルフの口から弟の名が出たことに、私は心臓が飛び出るんじゃないかと思うほど驚いた。


「そ、そうです……! ど、どうして弟の名前を……? あ、もしかして、リエッティ村に訪れていたハイエルフの方というのは……」


「私だ。そうか……。リエッティ村のことは聞いている。入りなさい」


クレオメと名乗ったハイエルフの青年が踵を返す。私とデージーは慌ててあとを追った。結界のなかの様子は、質素な集落といった感じだった。が、とても神聖な空気が漂っているように感じた。


クレオメ様の自宅で、彼はリエッティ村に訪れたいきさつを話してくれた。私の弟が親切にしてくれたこと、村をあげて歓待してくれたことも。そして、ほんのわずかないたずら心で、弟にとんでもない事実を伝えたことも。


それは、とても信じられない話だった。もし、その事実が知れわたれば、天帝サイネリア・ルル・バジリスタの権威は間違いなく地に墜ち、バジリスタそのものが崩壊するかもしれない。それほど、衝撃的な話だった。


「リエッティ村が滅ぼされたと風の噂で聞き、私は何が起きたのかをすぐ理解した。クローバーは、村で魔鉱石の鉱脈が見つかったと喜んでいた。おそらく、あの子に取りあげられようとして、クローバーは私から聞いた秘密を盾に譲歩を迫ったのだろう」


すべて納得がいった。先ほど聞いた話が真実なら、それを知った天帝が弟たちを生かしておくはずがない。


「間接的とはいえ……君たちの村が滅ぼされた原因の一端は私だ。本当に、申し訳ない」


そう口にしたクレオメ様は、座ったまま私に頭を下げると、おもむろに立ちあがり私たちについてくるよう言った。


案内されたのは、里の中央にある神殿のような場所。古くから伝わる武具や宝物などを保管している場所とのこと。ひとつの部屋に通され、そこでクレオメ様は驚くべきものを見せてくれた。


「こ、これは……!」


そこには、禍々しく黒光りする、大量の魔鉱石が無造作に積まれていた。


「何百年にもわたり、あの子が私たちに献上してきた魔鉱石だ。至高の種族である我々ハイエルフに、このようなものを献上しても無意味だというのに」


感情が見えない顔で大量の魔鉱石を見やったクレオメ様が、小さく息を吐く音が聞こえた。


「リエッティ村が滅ぼされたあとにも、大量の魔鉱石が送られてきた。おそらく、これ以上秘密を漏らさないでくれという口止めの意味もあるのだろう」


「……」


「アシュリー、と言ったね。この魔鉱石、君が持っていってくれないか?」


「……え?」


「我々には無用の長物だ。それに、このなかには、リエッティ村で採掘された魔鉱石も含まれている。つまり、もともとこれらは君たちのものなんだ」


ハッとしたあと、私は魔鉱石の山をじっと見やった。こんなもののために、理不尽に殺された弟や両親、村のみんなのことを思うと、とめどなく怒りがこみあげてきた。


「……クレオメ様。お願いがあります」


私が絞りだすように口を開くと、クレオメ様は真剣な表情のまま静かに頷いた。私がお願いしたのは、後日ここへドワーフを伴って訪れたいということ。


そして、その際に、ドワーフが加工した魔鉱石にある魔法効果を付与してもらうこと。


思えば、このときすでに私の頭のなかには、天帝サイネリア・ルル・バジリスタを確実に殺す絵図が描けていた。



――パタン、と扉が閉まる音が耳に届き、アシュリーは現実に引き戻された。ぼんやりしているうちに、ハイエルフの里へ訪れたときのことを思いだしていた。視界の端に、ストックが杖をつきながらリビングに入ってくる様子が映りこむ。


「ち、ちょっとストック! まだ安静にしてなきゃダメじゃない!」


「いや~……さすがに四日も安静にしたままじゃ、体がなまりそうで……」


照れたように笑うストックに、アシュリーは呆れたような目を向けた。


「四日もって。あなた、骨と内蔵にダメージを負ってるのよ? まだつらいでしょうに」


「まあ、何とか大丈夫です。それに、密室でデージーと二人きりでいるのはちょっと……」


しばらく安静にしなくてはいけないストックのために、アシュリーはデージーを話し相手として彼のそばにつけていた。


「何よ、せっかくデージーをそばにつけてあげたのに」


「いや、それは嬉しいんですけどね。あんな美少女がずっとそばにつきっきりなんですよ? 何ていうか、ドキドキして逆に気が休まらないというか……」


あはは、と笑うストックにアシュリーとダリア、ジュリアがジト目を向ける。


「ストック。まさかデージーに欲情してねぇよな?」


「し、し、し、してないしてない!!」


ダリアの言葉に、ストックが慌てて首を振る。


「デージーに欲情して手なんか出した日には……考えただけで恐ろしいわ」


ちらりとアシュリーを見ながらジュリアが言う。


「だから、そんなこと絶対にありませんっ……て、あいたたた……」


胸を抑えながら、ストックはジュリアの隣に腰をおろした。


「ほら、やっぱり痛いんじゃない。無理しちゃダメよ、ストック」


「だ、大丈夫です。それより、団長のほうこそ大丈夫なんですか? デージーが心配していましたよ?」


「私?」


思いがけない言葉を聞き、アシュリーがきょとんとする。


「昨晩、また夢にうなされていたって、心配していました」


「ああ……。まあ、よくあることよ。デージーも心配性なんだから」


一瞬だけ目を伏せたアシュリーだったが、すぐ斜め向かいに座るガーベラへ目を向けた。


「それより、ガーベラ。首都の拠点はどうなってる?」


「あ、はい。もういつでも移転できますよ。団員が経営している小さな商店の地下です」


「わかったわ。じゃあ、すぐにでもここを引き払いましょ。移転したらすぐ、ハルジオン暗殺を実行に移すわ」


アシュリーの言葉に、全員が力強く頷いた。

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