5-9 無敵のモデル アイリスの秘密⑨
そして、あの実を食べた、もう1人の被害者である、アイリスこと、ミレニス・ジャクリーン・ペネストリアは、特殊ガスの研究では、第一人者であり、様々なエネルギーをガス状に変えたり、圧縮して最小限の大きさにして保存したり、様々な性質のガスを作り出していて、その研究では最高の技術研究者であった。
その中でも、吸うと周囲の人が全員、より綺麗に見えるというビターガスは、驚きのガスであった。しかし、今回のことで、最低の容姿に変貌したのちは、他人との接触をことごとく避けながら、執念とも言えるビターガス2の開発に没頭していた。そして、この、自分の容姿が、誰よりも最高に美しくみえてしまうという、ビターガス2の完成した日は、その喜びに打ち震えたという。
そして、彼女は、さらに、ビターリングの開発に成功して、以前は、小さいとはいえども、そのガスを入れたボンベを持ち歩かなければならなかったのが、人知れず、それをネックレスとして身につけていられるという、新しい自分を手に入れて、新たなるもう1人のコトールルミナス人としての人生を歩み始めたのである。新たにニセの自身の顔を持ち、これまでと変わらず、特殊ガスの研究を続けていた。
すると、ある時から、ミレニスの美貌が多くの人たちの目に止まり、話題になってきた。それもそのはず、ビダーガス2は、誰からも綺麗に見える効果は、絶大なのであるから、その効果は間違いはない。しかし、その効果は、この国では、美人のレベルが高すぎることから、それに対して効果があまりにも強大すぎたのと、もう一つ見落としている点があった。それは、まず、この国のすべての女性がモデル並みか、それ以上の美貌を持ち、その中に入っても、ミレニスがダントツで美貌を放ち、たまたま、究極の美の称号を持つ女性と会ったパーティーの際にも、完璧に美貌で簡単に上回ってしまうという、信じられない奇跡を、周囲の人たちに見せつけてしまった。
それは、ただ、とにかく高いレベルで美しい女性だという話題だけで、捜査の手も及ばなかったのだが、ちょうど引退間近のエテリアに怪しまれ、捜査が始まったのである。その現場をすぐに閉鎖させて、現場に行ったエテリアは、さきに調査させた捜査員の話しを聞いた。
「その女性がいた位置と、そのパーティーのあった日にちと時間を教えて。」
「たしか、3日前の夕方6時頃ですね。」
「その女性の何か、他には情報はないの。」
「そうですね。とにかく誰からみても、本当に、信じられないほど美しかったということで、同席した、美の極みの称号を持つ女性でさえも感心してしまうほどだったということです。あと、ほとんど微量で、かすかに匂っていたようですが、ラベンダーの香水をつけていたようですね。今は、全く何も匂わないですが。」
「そう。かすかだけど、今でもラベンダーの香り、私には、わかるわよ。あなたたちには、もうわからないと思うけど。」
「まだ匂いますか。すみません。私には、全くわからないです。香料の測定機を使用したのですが、それでもほとんど感知されませんでした。香水の銘柄とかわかればいいんですけどね。」
「この香りは、香水などに使用するような天然香料ではなくて、化学的に合成した中でたまたまできた人工香料ね。何か、薬とかを作った時に、たまたまラベンダーに似た香りになっただけね。香りからすると、特別な薬品で作られていて、残っていた香りの成分が、たまたまラベンダーの香りに似た香りをほんの少し残しているだけなのよ。」
「香水ではないんですか。」
「この薬の持ち主は、薬学とか化学に、相当に詳しい人物で、そのために、薬か何かを駆使して、自分の虚偽の容姿を作り出してみせた、いわゆる虚偽美貌に違いないわ。ここまで巧妙な虚偽美貌は、これまでにはありえない、だとしたら、かなりの知能犯で、相当に手強いわよ。」
そこで、捜査本部が設けられ、調査するうちに、大規模な捜査が始まった。すると、総指揮官の調査により、ビダーガス1の製造者であるミレニスが浮かび上がってきた。
その後、ミレニスの周囲には至るところに捜査員が張り込んでいた。そのことは、ミレニスも気づき始めていた。
「これは、もう先手を打たないと、手遅れになるわ。」
すると、一計を案じたミレニスは、捜査本部に捜査員全員が一同に集まれば、真相を話すという連絡を、なぜか封書によって伝えた。すると、その旨を、捜査本部長は、総指揮官であるエテリアにも伝えた。
「了解よ。その時間に合わせて、私も行くわ。」
その連絡を受けた本部は、指定された場所と時間を総指揮官に連絡して、ミレニスの登場を待った。
そして、いよいよ、その姿を現したミレニス。
「今日は、お時間を頂いて、ありがとうございます。捜査員の方々、全員お集まりでしょうか。」
すると、捜査本部長が、
「ええ、それがあなたからの条件ですからね。全員集まっているわ。場所は、ここ、美警察本部にしてもらってよかったわ。話しの内容によっては、このまま、帰れないかもしれないからね。それでは、早速、話しを聞かせて頂きましょうか。」
すると、総指揮官のエテリアも姿を現した。
「ミレニス、お久しぶり。こんなところで、再会するとは、思わなかったわ。私がいるからには、もう絶対に逃がさないわよ。今日は、ここまでよく堂々と逮捕されにきたわね。ちょっとだけ褒めてあげるわ。」
「エテリア、あなた、こんなところにいるなんて、今回同じ苦労を共にしたというのに、まさかの、総指揮官だったなんて、真逆の立場だなんて、皮肉なものね。」
すると、ミレニスは、いきなり、GBガスという、自身が開発した特殊ガスを放出した。
すると、エテリアは、それよりも早く全員に大声で指示をだした。
「全員、ガスマスク装着よ!」
全員、すばやくガスマスクを装着した。しかし、装着が、ガスの放出に、間一髪で間に合ったにもかかわらず、なぜか、それは、全く効果を発揮せずに、全員一瞬で倒れて、眠りについてしまう。すると、そこにある、自分の捜査資料をすべて集めていくミレニス。
「凄腕の総指揮官がいるとは聞いていたけど、それがエテリアだとはね。こんな偶然って信じられないわ。だけど、私の方が、一歩先をいっていたわね。私の作るガスは、マスクなんて通用しないのよ。皮膚呼吸からも体内に入るからね。でも、よかったわ、全員一緒で、正直に集まってくれて。皆さん、目が覚める頃は、私のことを忘れているのよ。それに、私は、どんなガスも通用しない薬を飲んでいるから、平気なのよ。」
すると、ミレニスは、部屋からでると、もう一つ小さなボンベを取り出し、その美警察本部の廊下に置いて、作動させた。
「これは、もう一つ、私からの手土産よ。この、催眠効果のないGBガスが流れたら、このビルの中、私の担当者以外も全員、すべて私のことは忘れてしまうのよ。私の作るガスは、ただ空気中にムダに流れるのではなくて、生命の呼吸を感知しながら、流れていって、ガスが自らその呼吸に入り込むのよ。だから、どんなに広い場所でも、微量のガスで足りてしまう。だから、こんなに小さなボンベでも、このビル全体には充分なのよ。それに、このガスも、皮膚呼吸からも入るからね。どんなことをしても絶対に防げない完璧なガスなのよ。美警察の皆さん、それに、エテリアも、色々と本当に残念だったわね。エテリアを含めて、美警察の関係者は、1人残らず、私の名前すら知っている人は、もういない。私に会っても誰もわかる人は、いないのよ。もう、私、絶対につかまるわけにはいかないのよ。」
ゆっくりと去ってゆくミレニス。
「でも、まさか、美の極みの称号を持つ人と会うなんて、予想外だったわ。その人の美貌より上回るなんて、ちょっとまずかったわね。そこから話題になり過ぎたわ。今の私なら、プリンセスにも勝てるわね、きっと。もっとも、そうなったら、最高刑は免れないけどね。そろそろ、この国も出た方がいい頃ね。」
そして、容姿が悪いことを人の価値として評価しないと聞いていた、日本に行くことにした。
起き上がった捜査員たち、そして、エテリアも。しかし、全員、ミレニスについての記憶は、一切なくなっていた。そして、何が起こっていたのか、誰にもわからないのであった。
「皆、どうしたの。なぜ全員倒れているの。何があったの。」
すると、捜査本部長が、
「いやあ、頭がもうろうとして覚えていないんです。」
「残念ながら、私も、何があったか、わからないわ。ただ、この部屋が何も荒れていないから、乱闘とかあって、皆、倒れていたわけではないようね。他に誰か入った形跡はないか、調べるわよ。」
ミレニスは、指紋など、すべて拭き取って、証拠になりそうなものは、何も残していなかった。最後に残していったボンベも、起動が終わると消滅してしまって跡形も残っていない。そして、ミレニスから今日、ここに来るという連絡がきた封書も特殊な材質で作られていて、すでに消滅していた。
「いったい、何があったの。」
捜査本部長も、言われた通り、その部屋のすべての箇所を調べたが、何も発見することはできなかった。全員が装着していたガスマスクも、すべて剥ぎ取って処分されていたのである。
「総指揮官、とりあえず、何一つ手掛かりはないようです。」
「何があったかもわからないし、その前に誰かがきたこともわからないなんて、そんなことがあるかしら。」
「あまりにも、すべてが不明すぎて、手の施しようがありませんね。」
「そうね。だけど、ここにいる全員が倒れていたことだけは、事実なのだから、絶対に私たち以外に、誰かがいたことだけは、間違いないのよ。一応、気を抜かないで、調べてちょうだい、捜査本部長。」
「わかりました。」
エテリアは、とりあえず、帰ることにした。しかし、あのガスによって、美警察の関係者は、全員、ミレニスについては、これまでのことはおろか、名前すらも覚えている者はいない。そして、エテリアも、その名前も、そして、アルデオン山で出会ってから、あの実を共に食べてから以降のことも、エテリアとの、それらの記憶もすべて消されてしまったのである。




