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4-5 悲しみのステラ

ステラは、数年前からのことを語り出した。


ステラは、実は、西島 泉という日本人名こそが偽名であり、本名を、ステラ・オーロラ・エストラミス、と言い、そう、コトールルミナス国で生まれた生粋のコトールルミナス人である。エストラミス家は、両親と自分と2つ下の妹の4人家族であった。両親は、鉱石を研究する研究所を営んでおり、ステラは、大学を在学中に両親の研究に興味を持ち、主に採掘に携わっていた。両親は、とても仲がよかったし、家族4人は、他人が羨むほどに愛情あふれる家族であった。


「おはよう。ステラ。今日は、お母さん、ちょっと用事があって、行かなければならないので、研究所には行けないのよ。悪いけど、授業がなかったら、お父さんの手伝いをしてほしいの。いいかしら。」

「大丈夫よ。大学に届け物があるから、終わってから、研究所に行くわ。」

「ありがとう。ステラ、助かるわ。」


母親は、身体になんだか違和感を感じていたので、病院で検査を受ける予約をしていたのである。もちろん、家族には、心配をかけるといけないので内緒にしている。

「エメラさん、これは、誠に言いにくいのですが、短命因子ですね。あなたは、おそらく、あと半年で消えてしまいます。あなたも、ご存知だと思いますが、短命因子は、もう手の施しようがない。残念ですが、ただ、もう、その日を待つしかないのです。」


ある日、母の身体に異変が生じて、検査を受けると、短命因子が自然発生したことがわかった。そもそも、コトールルミナス人は、その女性は、その見た目を死ぬ、というか、消え去るまで、20才くらいの見た目のままの若く美しい姿でいるので、わずか40才までしか生きられない。そのかわりに、その若くきれいな身体を保つエネルギーによって、病気になどかかることはない。


しかし、その若く保つ生体エネルギーを急速に消耗する作用をもつ因子が自然発生することが稀にある。簡単に例えるなら、他国で言う、癌のようなものである。この短命因子というものは、この美人のまま一生を終えると言う体質によって、自然発生したものであり、その体質でなければ、決して発生することのないものであった。


それでなくても、わずか40年しか生きられないというコトールルミナス人の宿命を、ステラの家族は、生まれながらにとても嫌っていた。そして、命長く生きることよりも、女性の美を優先させている、この国の人種の持つ運命をも、嫌っていたのである。


一家は、その日の夕方、仕事が終わって、ちょうど同じくらいの時間に顔を合わせた。母のエメラは、夕食の支度をして、姉のステラと、妹のエルダは、自分たちも手伝うという。2人の娘たちは、とても母親思いで、母親も娘たちを愛していて、そして、夫と共に、家族4人は、とても絆が強く、家族全員が、いつまでも長い間、家族として命長く過ごしたいと思っている。命を、見た目の美しさよりも、もっとずっと尊いものだと思っている。コトールルミナス人としては、実に珍しい考え方を持つ家族であった。


夕食を済ませると、エメラから皆に話したいことがあるという。すると、ステラが、

「なんなの?お母さん、改まって。」

「実はね。まず、私は、ここ最近、なんとなく身体が変に感じて、今日、病院に行ってきたの。すると、短命因子が見つかって、私の命は、あと半年だそうよ。」


家族全員のショックは、相当なものであった。家族4人は、自分たちがコトールルミナス人でなかったら、どんなに家族として長く仲良く暮らすことができて、幸せだったのだろうかと、いつも思っていた。その気持ちに追い打ちをかけられたような衝撃であった。


そして、あと半年の命となったのを知った家族は、この人種で生まれたことを、改めて悔しく思い、悲しんだ。

次の日、大学に行ったステラは、もう心が空っぽになってしまっていた。すると、友人のクリスが話しかけてきた。

「どうしたの?ステラ。何かあったの?」

ステラは、その声かけに思わず、抑えていた悲しみの気持ちを抑えきれず、泣き出してしまった。

すると、クリスの何回かの問いかけに、わけを話すと、

「そうだったのね。だけど、あなたのお母さん、美の極みの称号が与えられて、「美の歴史の間」に写真が飾られることになったんですってね。そんな名誉なことがあったんですもの、それに比べたら短命のことなんて、どこかにいっちゃうわよね。おめでとう。」


ステラは、怒りと悲しみであふれてしまった。

「なんてこと言うの!この世には、この世には、命ほど大切なものあるわけないじゃない!命と比べたら、美しさなんてどうでもいいことよ!」

驚くクリス、

「ステラ!あなた!なんて危険な思想なの。その発言が、美警察にしれたら、美辱罪で逮捕されるわ。留顔の刑になるわよ。」


※美警察とは、この国において、この世で最も尊ばれるものは、女性の美しさであり、それをさげすんだり、それよりももっと価値のあるものがあると主張する者、あるいは、それに同意した者を取り締まり、美に関する怪しい情報なども捜査する行政機関であり、そのような行動を起こすだけでなく、そのような意思を持つこと自体が、最高の美は、女性の美しさであることを汚すものとして、判断され逮捕される。


そして、その程度により、その最高刑としては、留顔のるがんに処する。留顔の刑とは、その文字通り、顔をとどめるという意味であり、顔面の神経を麻痺させて、2度と笑顔になることを一生禁止され、一つの顔のままにとどまるというものである。


これは、女性として、美を生きるための最高の価値として位置付けられているコトールルミナス人にとって、より自分の顔を美しく魅せるための最高の表現方法である笑顔を取り上げられた人生を送るということは、この世から消え去ることよりも、なによりも辛いことである。そして、残された人生を無表情という一生変わらぬ顔で生き続けなければならないという非常に残酷な刑である。

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