4-1 ステラとトレス
ある日、モデルラボは、新人モデルを1人迎えていた。
「はじめまして。飯島 採巣といいます。宜しくお願い致します。」
コスメは、久しぶりの新人に、とても新鮮な気持ちが隠せなかった。
「はじめまして。飯島さん、とれす、って、珍しいお名前ね。どういう名前の由来があるの?」
「実は、母が昔、モデルをしていたんですが、自分に子供ができたら、どうしてもモデルにしたかったらしいのですね。だけど、必ずしも子供は、女の子とは限らないじゃないですか。半ば、期待しないで、あきらめていたらしいんです。ところが、そこに最初にできたのが私。もう信じられないくらいうれしかったそうで、それなら、将来は、絶対にモデルよ、って、そういうことで、とれす、は、カタカナにするだけで、すぐにモデルになれる名前ということで、つけたらしいです。私は、正直言って、モデルになんてなる気もなかったんですが、大人になるにつれて、やっぱりやってみようかな、って思うようになって、今日がきました。だけども、実は、私は、母とは違って、美人系の顔ではないので、ちょっとあきらめていたというか、それほど、なれる可能性は少ないかな、って思っていたんです。ところが、私、映画がすごく好きで、今回、映画のエキストラとして出ることになって、そのエキストラとして、撮影中に、今回、モデルラボの社長さんから、モデルとしてやってみないとお話しを頂いたというわけです。」
「そうだったのね。あなたは、映画の中で輝いていたもの。あなたの容姿は、どちらかというと、美人系のタイプではなくて、かわいい系の容姿なのよね。それが、映画の中で、庶民的な内容の、この映画にとても溶け込んでいて、ほんの数分の登場なのに、すごく輝いていたのよね。それで、私の中のセンサーが、ピピッ、と反応して、スカウトしたのよ。今までにいなかったタイプだったのよ。」
「そうだったんですか。あの映画のエキストラに応募してよかったです。」
「私の方こそ、また1人、いい子を見つけられてうれしいわ。本当に、新人さんを迎えるの、久しぶりだったから。」
「こちらこそ、うれしいです。」
「ああっ、そうそう、実はね、これから、あと2時間くらいしたら、もう1人新人さんが来るのね。だから、あなたと2人、きょうは新人さんを迎えられて、とてもうれしいんです。せっかくなので、2人がそろったら、お仕事のお話しをさせてね。あと、登録のために写真撮るから2人そろってお願いね。」
「ええっ、私も、まだ初めてのことばかりなので、1人だとちょっと心細かったので、2人で始められるのは、心強いわ。とてもうれしいです。」
その後、2時間後に、もう1人の新人がやってきた。西島 泉、19才。トレスも、19才で、たまたま同い年。
「はじめまして、宜しくお願い致します。」
「はじめまして。あなたが、西島さんね。モデル名は、ステラというのね。でも、あなた、モデル名の方が、遥かに似合う見た目ね。」
その彼女は、長身からの、どこまで伸びるのかと思わせる脚の長さが、まず第1印象で、目に飛び込んでくるかと思うと、その美しい顔に、目がいくと、その第1印象は、すぐにかき消されてしまう。その高レベルの美しさは、とんでもないレベルで、その容姿から感じるのは、とても新人のレベルではないと、言わざるを得ないのである。まさに、その美しさは、圧倒的であった。同じ場で、同じ新人として、たった2時間前に来ていたトレスも、コスメと同様に、その圧倒的な美しさを目の当たりにして、正直、言葉がなかった。
すると、ステラから、
「あら、あなたも新人さん?まさか、私と同じ日に、入所だなんて、奇遇ね、仲良くしましょうね。宜しくお願いします。」
ステラから、握手を求められて、恐縮しているトレス、それは、地味な見た目の自分と比べて、あまりに、美しすぎるステラとのモデルとしての格差を感じていて、なんだかもうしわけないような気持ちになっていたからであった。
その2人の間に立ち、トレスの気持ちが痛いほど感じたコスメは、
「それぞれに、全く特徴の異なる新人さん2人には、とても興味深くて、これからが本当に楽しみよ。これから、よろしくね。」
すると、トレスは、私の地味さがなければ、この場で、ステラに対して、コスメが、もっと、その美貌を賞賛するための言葉を、色々と用意することができただろうに、それを制限させてしまった自分に負い目を感じていた。すると、次に、ステラの口から信じられない言葉が発せられた。
「トレス、はじめまして。よろしくお願いします。私は、ステラ、私、あなたのような芯からあふれる可愛らしさがたまらなく羨ましいわ。私は、ただ見た目だけの美しいということよりも、もっと内面からの可愛らしさがあふれ出ているのが、私の目標としたい魅力よ。その、奥底まで感じられる可愛らしさは、なんて人の心を柔らかくくすぐる魅力なの。それこそが、人としての中身の魅力として感じられる、真の魅力だと思えるのよ。私も、表面的な容姿ではなくて、そういう魅力を目指していきたいわ。」
ステラの、その発言には、嫌みや、うそ、偽り、そして、その場を取り繕うためのような虚偽な発言ではなく、心の底からの本心の言葉であると感じられた。すると、トレスの心は、とても癒やされた。そして、それを同時に、聞いていたコスメも、その言葉に、モデルとしては、トレスよりも、ステラがレベルが遥かに上であると感じていた気持ちを、少し見直すべきと感じたのであった。
これまで、モデルのランク付けに美しさを最優先していた自分に対して、ステラの発言を理解しているつもりではいたが、新たなる一石を投じられたような思いを感じていた。
その後、カメラマン蓮津が、2人をそれぞれ登録のため、写真撮影をしたのだが、それを見ていたコスメは、改めて、どちらも魅力的だと感じられたのだった。
そして、また、こんなにも、圧倒的な美しさを持つ彼女からでてくる、見た目よりも内面からの魅力の方がいいという、その思いとは、どこからくるのだろうか、と、コスメは、そこがとても興味深かった。




