1-4 脅威の、美と命の水
エレンとの対決を承諾したオルガだったが、その立場も、美のレベルもトップであるプリンセスが相手では、最初からあまり勝ち目がないことを、充分に知っていた。そこで、国の管理官に連絡をして、そのことを話し、相談を持ち掛けたのである。
すると、
「そうでしたか。まさか、そんなことになろうとは意外でしたね。事情については、よくわかりました。」
実は、オルガは、自分が勝てば、2人で帰れると、管理官には伝えたのだった。
「確かに、今のままでは、美の対決では、プリンセスの勝ちでしょう。でも、今回はどうしても、オルガ、あなたが勝たなければならない。そのために、こちらも最後の手段を用意します。それには、コトールルミナス国に古代から伝わる、美と命の水を届けさせます。」
美と命の水、とは、コトールルミナス国に古代から伝わる、オリリナース山の中にある泉に、50年に一度湧き出す奇跡の水であり、国のプリンセスが王位継承の儀式を行なう際に、黄金の壺に、その水を注ぐことで儀式が終了するという大変貴重で重要な水がある。しかも、昔から、コトールルミナス国は、五百年もの間、敵国であるアルタコーネス国との争いの際に、国の代表であるプリンセスが美の戦いをへて、国が勝利したのだが、歴代のプリンセスは、美の対決に負けそうな事態の時、その水を飲むことで、究極の美を手にして、これまでの美の戦いに勝利して国を守ってきたのである。その戦いも、最早、ここ五百年以上は争いもなく、これまで使うことがなく、ここまできたのだが、五百年ぶりにこの水を使う時がきたのだと言う。何十年か前に、その泉に湧いた水は、国内に、特殊な瓶に入れて保存してあるので、それをオルガの元に届けさせるという。オルガは、これを飲み、究極の美を手に入れて、プリンセスに勝利し、2人で帰国するように命じられたのである。しかし、オルガは、国には、自分が勝利したからといって、ただエレンを帰すのではなく、代わりに自分が残らなければならないということは伝えなかったのである。
しかしながら、エレンとオルガが美の対決となったことは、国の管理官の嘆きと悲しみは、大きかった。
「それにしても、ここ五百年もの間、平和が続いていて、五百年振りに、あの奇跡の水を使わなければならない事態がおころうとは、思いもよらなかったわ。それも、味方同志で対決しなければならない時に使うことになるとは、なんという皮肉なことでしょう。」
一方で、図類から、セシルとオルガの、美の対決が催されることと、勝った方が事務所に残ることを、あとから聞いたコスメは、改めてオルガを事務所に呼んだ。
「オルガ、私は、図類さんとのやりとりを知らなかったの。いつのまにか、美の対決をすることになったのね。ごめんなさい。私が事務所の社長でありながら、そのイベントが知った時は、すでに企画や会場まで決まってしまっていて。そもそも、セシルとあなたが対決なんて、そんなこと、図類さんが大きなイベントを企画したかっただけなのよ。それに、負けた方だけが、国に帰るなんて言うのなら、勝負などなしにして、最初から2人とも返してあげたかったわ。私、個人的には、この対決イベントが終わったら、負けた方か残るなんて言わないで、2人とも国に帰してあげたい。だけど、肝心のセシルが、記憶が戻らないから、まだ帰る気がないのよね。いったい、そこは、どうしたらいいのか、正直言って、私にもわからないのよ。」
それを聞いて、オルガは嬉しかった。
「ありがとう。本当に、ありがとうございます。そうですね。そうしてもらえたら、すべてうまくいっていたと思います。だけどね、社長さん。私、図類さんの言うことも少しはわかる気がするんです。だって、モデルの人って、デビューするまで、とてもお金がかかるんですよね。モデルとしての育成費用や、宣伝広告費など、それも、それだけお金をかけても、必ずしも売れるわけじゃないですよね。だから、こんなに売れて仕事をもらえるようになって、2人ともいっぺんに帰ってしまっては、事務所としては、大損害でしょう。それじゃ、図類さんに申し訳ないんです。」
すると、コスメは、涙を流しながら、
「オルガ、あなた、なんてやさしい子なの。2人のうち、1人は帰さないなんて言われているのに。」
「とにかく、なんとしても、私が、エレン、いや、セシルに勝たないと、なにも進まないので、なんとか頑張ります。」
とりあえず、オルガは、国から届けられた、美と命の水を、コスメに託して、事務所の金庫に保管をしてもらうことにした。