1-3 セシル対オルガ、美の対決
由香里の家で、しばらくおいてくれることになった。オルガは、国との連絡をとるため、壊れてしまったコミュニケーターを2か月ほどかかったが、自力で直し、やっと国へ連絡をすることができた。
「オルガです。連絡が遅れてすみません。嵐で船は沈んでしまいました。コミュニケーターが壊れてしまって、やっと直したところなのですが、誰か他には、連絡がありましたか?コミュニケーターでの皆んなの位置情報はどうですか。」
すると、国の管理官が応対をして、
「オルガ、大丈夫ですか。あなたは助かったのですね。よかった。壊れた船が見つかっただけで、連絡がきたのはあなただけなのです。今、位置情報の確認をしていますが、日本にいるんですね。」
「ところで、エレンや、その他のスタッフのことは、何か知っていることはありませんか。誰からも連絡もないし、位置情報の確認ができないので、少なくともコミュニケーターは壊れてしまったのかもしれません。」
すると、オルガは、エレンの行方を探すよう命じられる。
「あなたも知ってると思いますが、国の情報は公にはできないので、エレンやスタッフのことをメディアにのせて探すわけにはいかないのです。そこで、時間がかかるのは仕方ありませんが、なんとか情報を集めて探してほしいのです。こちらでも情報を集めて連絡するようにします。実際には、助からなかった可能性もありますが、どちらにしても、最終的な情報まで確認してほしいのです。これは、あなたには、かなり大変な任務になりますが、なんとか遂行してほしいです。とりあえず、コミュニケーターに必要な費用を振り込んでおきますから、コミュニケーターで日本のクレジットカードの代わりに使用できるはずです。何かわかったら、あとから、確認して下さいね。」
コトールルミナス国のトップは、女性であり、プリンセスと呼ばれ、管理官も女性であり、プリンセスのすぐ下の位に位置する。実は、エレンは、コトールルミナス国のプリンセスであり、国のトップである。オルガは、公にせずにエレンを探し始めたが、困難を極めた。そして、半年後に、モデルとして、人気を博している女性がエレンではないかと、国の管理官から連絡が入り、早速、調べてみると、やはり記憶を失ったエレンが、事務所のコスメの勧めがあって、日本にいることを発信することもふくめてモデル業界にデビューしていたのだという。そして、それを知ったオルガは、なんとか会おうとするが、オルガ自身も国のことを隠して会うことも、またモデル業界と何の関係もないオルガが会う機会を得ること自体、非常に困難であり、直接会う機会を得るために、オルガもモデルとなる決意をする。
コトールルミナス人が生涯において最も尊ぶものは、命ではなく、女性としての美しい容姿である。つまり、その点においては、その国の一般国民の女性の容姿が、もはや他の国の平均値を相当に上回っている。エレンとオルガは、その美貌は、中でも卓越していると言っていいので、日本国内などでは、たちまち頂点に上り詰めるのも当然のことなのである。
コトールルミナスとは、その国の言葉で、美がすべて、という意味がある。女性は、だいたい25才くらいになると死ぬまで見た目は変わらない。だが、コトールルミナス人の女性は、40才くらいまでしか生きられない。それは、生きるための体内のものはすべて美貌を美しく朽ちないで保つことに優先して使われるため、死ぬまで見た目は衰えず、40才くらいには、見た目は変わらずに、それを保てなくなることで死んでしまう。そして、肉体を美しく保つこと見せることがなによりも価値があるため、亡くなる時も変色したり衰えたりすることもなく、自然に肉体は消えてゆく。亡くなるというか、消滅する。そして、その時まで、美しさを尊重し、美しいままなのである。一般国民の女性は、皆、普通に他国のモデル並みかそれ以上に美しい。その中でも、特に美しいと言われる女性などは奇跡的な美しさを誇る。一方で、男性の寿命も約40才であるが、女性よりも比較的長生きで、50才くらいまで生きる人もまれにいる。結婚して夫婦の寿命は常に差があり、ほとんどの場合、夫が長生きする。しかし、男性はなくなるまで女性ほど見た目は保てず、多少見た目も年をとる。
やはり、この国の人たちにとって、あくまでも女性が美しくあることが何よりも重要なのである。妻は早く消滅しても、その容姿が綺麗なことが命よりもなにより大事なので、コトールルミナス人にとって、短命なのは悲しいことではなく、彼らにとっては、女性の美貌と比べれば、長く生きることに意味も価値もない。そして、その美貌が特別に認められた女性は、肉体の消滅と共に、その女性の写真は、歴代の美貌として、「美の歴史の間」に飾られ、消滅後も半永久的に保存され、それは、その家族の家に名誉として残るのである。そして、また、コトールルミナス人の大きな特徴として、母国語以外の言語の習得力が非常に高く、他国の人としばらく会話することで、ほぼ完全に習得してしまう。そして、古来より、人と人同士が、その知識を伝えていく過程において、代々、書物以外に記憶に頼り、伝えあってきたことから、記憶力が異常に発達したことが、修得力の発達の元となったと思われる。また、特に、オルガは、科学や医学、機械工学など専門の分野で、学者並みの知識を持っている。そのことからコミュニケーターも自力で直すことができたのである。
とうとう、モデルとしてセシルと共にトップクラスとなったオルガは、セシルとモデルの現場で会う機会を得たのだが、記憶を失っていたエレンとは、ひと言ふた言、言葉を交わすのみで、すぐに別れてしまった。
そして、セシルが所属している事務所であるモデルラボを、オルガは訪れた。
受付にでた獅子童は、
「ごめんなさい。ここは、アポイントメントがないと、応対ができないので、前もってアポをとって下さいね。」
すると、奥で、オルガのことに気がついた企画担当責任者の図類は、
「獅子童さん、いいよ、この人は、今、有名なモデルのオルガだ。」
「えっ、あっ、ほんと。どうりで見たことがあると思ったわ。本当に綺麗ねえ。驚いたわ。でも、アポとってなくて、突然来たんですよ。社長もいないし。」
「いいよ、いいよ。私が、ちょっと話しを聞くから。」
「いいんですか。」
「大丈夫。」
すると、これまでの経緯と、エレンを自国に帰国させたいと、申し出たオルガだったが、コスメの代わりに対応した図類は、
「 もしも、セシルが国に帰ることになれば、こんなに人気絶頂のモデルが1人いなくなるなんて、会社としての損失は計り知れない。だから、簡単に返すわけにはいかない。」
しかし、それを知ったオルガは、それなら、セシルを母国に返して、自分をセシルの代わりのモデルとして事務所に入れてほしいと、申し出る。
そこで、図類は、
「 もしも、セシルの代わりに、君がうちの事務所に入るのなら、実力でセシルを上回ってからなら、考えてもいい。しかし、わざわざ、人気絶頂のセシルよりも、人気が低いモデルを入れることになったら、こんなに割りの悪い話しはないからな。」
と、そのように、オルガに伝え、それから、図類は、オルガをセシルにできるだけ会わせないようにした。
そして、その後、オルガは、図類から、ある提案を持ちかけられた。
「それなら、そのための美の対決をしたらどうだろう。セシルとオルガ、ランウェイにて2人でどちらが美しいか勝負をして、セシルが負けたら、オルガと入れ替えて、国に帰してもいい。」
そして、図類は、一つ気になったことがあり、オルガに聞いてみた。
「しかし、君がたとえば、勝った時、帰国する気のないセシルを、どうやって説得して帰国させるのか。」
すると、
「そのことは、今は考えていません。私が勝ったら、その時はその時のことよ。」
対決と、対決後の対応について承諾したオルガは、図類とその件の契約書を交わす。しかし、セシルには、そのことは全く伝えておらず、実は、図類は、今現在、国内でトップレベルにいる2人の直接対決を企画して話題にして、儲けたいだけで、おまけに、この対決が終わったら、これから図類が独立する事務所に、2人は登録するという全く別の契約を交わされていた。オルガは、ただ図類に騙されているだけだった。そして、セシルには、ただオルガとイベントにて勝負するようにだけ伝えていた。
そして、改めて、図類から、具体的な対決の内容が伝えられた。
「対決の場は、都内でも1番有名なミラクルファッションスタジオで行ない、最大で観客を200人入れる。時間は1時間20分。それで、これはあくまでも、デザイナーの作品の発表会でも、お披露目でもなく、セシルとオルガの2人のうち、どちらがより美しいかを競うだけのものである。したがって、それぞれ、衣装は自分たち、あるいは関係者で選び、より自分を美しく見せる演出をしてもらう。最初の30分は、お互いを紹介をするビデオを制作して、それぞれ15分ずつ流してもらい、次の30分は、2人が交互にランウェイを歩いて、自分たちで選んだ衣装に交代で着替えながらアピールをし、その後、最後の20分は、2人同時に舞台に立ち、自分たちがもっとも自信のある衣装でアピールをする。この際は、ダンスをしても、ポーズを決めても、パフォーマンスはなんでも良い。そして、開催は、1ヶ月後に行われ、テレビ中継とネット配信が同時に行われる。そして、今まで2人を知らない人たちも観ることを考え、最初に流すビデオは、それを踏まえて作ってほしい。最後に、採点方法であるが、モデル業界の関係者から有名な5人と、芸能プロダクションの方たちから4人の合計9人で、採点方法といっても、点数ではなく、あくまでもどちらが美しかったという単純な判断で、どちらかの名前を選んでもらうだけで良い。審査員は9人なので、引き分けもない。内容とルールは以上となります。」