2-13 ファンの悲しみ
その後の調査で、エミリアの飲んだコーヒーには、トリカブトの成分が含まれている薬が混入されていることがわかった。毒性はそこまでなく、手足を痺れさせるのが目的で、調合して作られている。
専門家の分析によると、とても巧妙に作られていて、手足の痺れを引き起こすだけの目的で作られたもので、それも飲んでから1ヶ月だけの効果を狙っていて、それが過ぎると、回復して、全く後遺症も残らないようになっているという。
これは、明らかに、コンテストの出場を阻止するための策略であると、容易に考えられた。こんな薬を作れるのは、相当な専門的な知識のある人物しか考えられないという。
事件直後、エミリアの1番近くにいた足浦 瞳が、まず、容疑者として浮上した。それに、ある意味で、こんなに犯人に相応しい人物はいなかった。というのも、足浦 瞳は、大学を中退しており、極能薬科大学を4年生の秋にやめていた。極能薬科大学といえば、国内では薬学部のある大学では偏差値のトップであり、足浦 瞳は、在籍中、その中でもトップの成績で大学院に進むことが非常に期待されていたらしい。ところが、急に大学をやめて、コンビニでアルバイトをしているという。彼女の薬学部での才能と知識はすばらしく、彼女であれば、今回の薬を作ることは可能であり、というか、そんな薬は彼女以外には作ることはできないともいわれる。警察でも、これは、もう、犯人逮捕は目前と言われていたが、動機も物的証拠も見当たらない。
この事件の担当となった2人の刑事、楽目刑事と付面刑事。楽目刑事は、49才で、事件解決のためには、その勘はとても鋭いと定評がある。一方で、付面刑事は、28才、どこまでも科学的、論理的に捜査をして解決する知性派であり、この全く正反対の2人のコンビは、検挙率はダントツなのである。そんな2人からの見解であっても、絶対に薬の製造者は、足浦 瞳にまちがいないという見解にも関わらず、どこを探しても、彼女の所持品からも、自宅の部屋からも、薬はおろか、製造に必要なものは一切出てこない。
それに、瞳は、エミリアに対して、やはりその愛情がすごく、事件後、エミリアの入院中でも毎日エミリアの世話を怠らないが、精神的にショック状態から全く戻れない瞳は、やはり入院を余儀なくされた。それに、エミリアの大ファンの彼女が、薬を盛るようなことはまちがってもやることなどないと思われた。だが、薬を作ったのは、足浦 瞳か、彼女と同様に薬学の特出した知識や才能のある人物でなければありえない。しかし、彼女には、エミリアに薬を盛る動機もなければ、証拠となるものも何一つ見つからないので、ここまでいくと、エミリアを陥れたいという動機から考えれば、他のモデルたちという見解が自然なのである。
それに、今だに取り乱しているような状態から抜けきらず、普通にショック状態で入院している足浦 瞳は、伝えないと、伝えないと、という言葉を繰り返しているが、これは、薬を盛られたことをエミリアに伝えようとしていた意思の表れではないかと、最初は思われたが、しかし、すでに、もう薬は盛られたあとなので、時間的には、もう間に合わない。それに、何か別のことを伝えたいのではないかと思われた。ところが、何をきいても、その言葉を繰り返すだけで、全く進展がなかった。
そして、時はすぎて、いよいよ、ミラクルビューティーコンテストは、本選の当日を迎えた。総勢50名の参加者たち。しかも、全国から予選を勝ち抜いた強者モデルたちが、50名。しかも、出場条件は、プロアマ問わないときているので、どんな人たちでも、参加資格も、優勝の可能性もあるということである。いよいよ、1人ずつ、舞台に登場していく。さすがに、全国から予選を勝ち抜いてきた女性たち。その質はレベルが高い。登場する女性たちも半ばを過ぎた頃、三姉妹が続いて、若い順に登場していく。モデルとしては、まだまだ初心者に近い3人だが、最初から優勝を狙っていただけあって、その見た目は、かなり上位に食い込む可能性は大きかった。特に、長女は、優勝がとても期待できるレベルであった。
すると、なんとエミリアの登場。謎の薬のせいで、入院したまま、コンテストへの出場が危ぶまれていたが、実は、事件後、翌日には、すっかり回復していたのでした。やはり、エミリアは、以前、美と命の水を飲んでいたことから、やはり、それは、美の力だけではなく、命の力も、さらに授かっていたことで、今回のような毒素には、身体が完全対応ができていたのであった。しかし、エミリアには、すでに犯人はわかっていたので、とりあえず、依然として、手足の痺れは、そのまま継続していることとして入院を装って、周囲には、コンテストには、出場できないと告げたままでいたのだった。
そして、エミリアには、この痺れの症状が本当ならば1ヶ月は続くとわかっていたことから、犯人の目的は、コンテストへの出場を阻止するためであるとも気づいていたのでした。しかし、なぜ阻止したいのかまでは、エミリアにも、まだわからなかったのだった。
そして、いよいよエミリアの番がやってきた。久しぶりの舞台で、本気のメイクと衣装に身を包み、アピールするエミリアは、現役当時とはまったく変わらず、他の女子たちが見惚れてしまうほどの魅力を放っていて、審査員を含めて、会場の観客を虜にしていった。とにかくオーラまでも、圧倒的であった。
そして、間違いなく、エミリアの優勝となった。
それを会場の片隅で見ていたコスメ。頷きながら、エミリアに拍手を送った。
「さすがだわ。見た目が綺麗なだけじゃなくて、頭もいい。また、このことを知っていたのは、すごいことよ。さすが彼女だわ。そして、それを、ここで利用するとはね。本当にうちに戻ってきてほしいわ。完敗よ。おめでとう。」
もはや、この時点で、あの伝説とも言われたエミリアが、再び、この業界に復活かと、メディアにも流れ始め、多くの関係者を驚かせた。しかしながら、その後の優勝後のインタビューやコメントもなしとさせてもらっていた。ちなみに、コンテストの結果は、優勝がエミリア、準優勝は2人で、どちらもモデルラボからのモデルであった。
その結果をネットから見ていた足浦 瞳は、泣いていた。
「エミリア!エミリア!エミリアーっ!」、
瞳は、ただ、ただ、泣くばかり、その声は、病院内に、しばらくの間、響いていた。
ここは、スーパー エブリの本社、社長室。社長に呼ばれた部下2人。
「お前たち、あれほど3人の娘の誰かを優勝させろと言っただろ。金はいくらかかってもいいと言ったはずだ。いったい何をやってたんだ。」
「お言葉ですが、社長。まさか、あそこまでのプロのモデルが参加するとは思わなかったです。それも、あの伝説のモデル エミリアが復帰するとは、思わなかったです。それじゃあ、いくらお嬢さまがお綺麗でも、エミリアにかなうはずありません。どんなプロのモデルでも、エミリアにはとてもとても。」
「だから、もっと金をつかえと言ったんだ。そのために。」
「でも、社長だって、エミリアを見て、こんな美しい娘は見たことがない、って言ってましたよね。」
「つ、つい、でてしまったんだ、つい。」
「でしょう。もちろん、社長のお嬢さまも、とてもお綺麗ですよ、本当にモデル並みに。だけど、相手が悪かったですよ。エミリアと並んだら、一般人にみえますよ。それを、優勝させるだなんて、八百長がわかりすぎて、会社に影響しますよ。」
「くそう。」
「社長、エミリアは、業界でも、トップモデルの中のさらにトップに立つカリスマモデルなんです。」
「君は、何も調べずに、そんなことまで知っているのか。」
「とんでもないです、社長。世の女性たちは、このくらいのこと、常識ですよ。有名な人で、誰でも知っています。」
「そうなのか。そんなにとんでもない娘なのか。それじゃあ、この結果は、仕方ないのか。うちの娘たちは、なんて運が悪かったんだ。」
エミリアの復活は、世間で、様々な方面に話題になっていたのでした。




