2-11 暴かれた素性
また、ある時、灯と足浦、2人で帰る支度をしていると、気がついたら、足浦がこちらを見ながら、
「ねえ、獅子童さん、あなた、ひょっとして、エミリア、、、。」
ええっ、とうとうバレた?万事休すよ。
「、、、のファンだったの?」
あっ、違った!あぶない、あぶない!
「ど、どうして、私がエミリアのファン?」
「だって、そのバッグについてる、エンデバーのくまちゃん。エミリアが大好きなのよね。バッグにいつもつけてるでしょう。」
ええっ、すごい!この子、あたしのこと、そこまで知ってるなんて。かなりのファンなのね、うれしいわ。
「ああっ、この、ぬいぐるみのキーホルダーね。これ、あたしも好きなのよ。エミリアも持ってるの?偶然ね。」
「なんだ。そうだったの。よく手に入ったわね。あたしもエミリアが持ってるの知って、同じのがほしくて、買ったんだけど、100個限定で数は少ないし、おまけに5万円の定価がプレミアついて12万もして、今なんて20万まで上がっていて、それでもお金だしても買えないのよ。あたしも買えるまでなかなか大変だったわ。獅子童さん、よく手に入ったわね、すごくかわいいわよね。すごくよくできてるし。エミリアと同じのもってるのが、何よりうれしいわ。」
「そ、そういえば、わたしも高くて大変だったわ。」
実は、エンデバーの仕事した時、ほしくて社長さんにお願いしたらプレゼントしてくれたっけ。
そして、コンテストは、予選が何回かあって、最終的に50人が決勝へとすすんでいき、エミリアもダントツで進んでいった。あと数日で、全国の予選会が終了し、本番の当日までは、あと2か月ほどになった。
コンビニの仕事も終わって、帰り支度をしていると、
「ねえ、灯、ちょっと話してもいい?」
なにやら、今日は、いつもと違う、改まった感じの瞳。そうなんです。2人は、本当に仲良くなって、灯と瞳と下の名前で呼び合うほど仲良しになったのですが、今日はなんだかいつもと違う。
「あのね、灯。」
「どうしたの?なんか、今日は変よ。」
「実は、昨日、買い物に出かけたら、灯を偶然見かけたのよ。」
「あらっ、そうだったの。でも、声かけてくれればよかったのに。」
「そう、あたしもそう思ったのよ、最初は。」
「最初は?」
「そう、灯って、声かけようとして、近寄っていったのよ。」
「そうしたら、私、驚いたのよ。」
「どうして?」
「だって、あなた、ショナルのバッグを、それもNo.77のドリームバッグを持っているじゃない。そして、まさかとは思ったけど、よく見て完全に確信を得たのよ。そのバッグには、エミリアがそのバッグを持つ時に必ずつけている、エンデバーのくまちゃんをつけてるじゃない。もうこんなことってある?あなた、まさか、エミリアじゃないわよね。最初は、同じバッグなんて、世間にはあるし、なんて無理矢理、違うと思おうとしたけど、ドリームバッグは、800万もして、日本には3個しかないのよね。だけど、色々と言って、ごめんなさい。灯も、すごく美人だけど、私から見たら、やっぱりエミリアはダントツだと思うのよね。でもね、こんな偶然もなんだか信じられないし、正直言って、何を信じたらいいかわからないのよ。」
「そうね。よく知ってわね。」
「だって。言ったでしょ。私は、エミリアの大ファンだって。」
「そうねえ。でもね、エンデバーのくまちゃんを持ってる人が100人いて、その人たちの中に、ドリームバッグ持っている人が3人いたとしたら、別に不思議じゃないでしょ。」
「ええっ、そ、そんな偶然?」
「なーんてね。冗談よ。そうしたら、駅前の、カフェ寄り道、で待っててくれない。あたし、あとから着替えたら、行くから。そこで、ちょっとだけ話し、聞いてくれる。」
「えっ、わ、わかったわ。待ってるわ。」
瞳は、少し、なぜ、っていうような表情で、急いで着替えて、店を後にした。
すると、しばらくして、カフェ寄り道の扉が、カラアン、カラアン、と鐘がなりながら開いて、人が入ってくる音がする。その音は、瞳の席で止まった。そして、
「瞳、お待たせ。」
後ろに立っている人影に向かって振り向きざまに、
「灯っ、、、。えーーーーーーーーーーーっ!」
そこには、すっかり元の顔と、いつもとは違うメイク、そして、いつもの姿のエミリアが立っていた。驚愕の表情で、すぐに口がきけない瞳。
「お待たせ。私、もう、かくせないわね。今まで、ごめんなさい。」
ただ、ただ、呆然とした表情の瞳。いつもの地味メイクや、その長身や完璧なスタイルをかくす服装ではなく、いつもの、長身で、オシャレなファッションに身を包んだエミリアの全身をみて、さらに、言葉がでない。
瞳の前の席に座る灯。
「ごめんね。驚いたでしょ。私、エミリアです。」
まだ、言葉がない瞳。
「この姿になるの久しぶりなのよ。もうエミリアを、やめてたからね。今日だけ、あなたのために今日だけ限定で、サービスよ。バレちゃったからね。」
やっと口を開いた瞳。
「ど、どうしてやめちゃったの?急にいなくなっちゃたから、私、驚いちゃったわ。」
そう言いながら、泣いている瞳。
そう、そのことについて、話すとなると、あの水のことや、あの国のことや、そして、本当の年齢など、話さなければならないことは、とんでもないことばかりになってしまう。
これらの、ウソみたいな本当のことを話しても、信じてもらえないだけではなくて、たぶんお互いの関係が破綻してしまうでしょう。話せることを一生懸命探した、何かないか探し続けた。そして、
「実はね。私とモデルのオービスが対決したことを知ってる?」
「もちろんよ。あんなにすばらしいのをみたのは初めて。あの日、私、あのイベント休みをもらって見に行ったのよ。もちろん、エミリアを応援するために。だけど、始まって2人を観ていたら、もう本当に感動してしまって、勝ち負けとか、そんなことは、もう、どうでもよくなってしまって。最後まで、2人の美しさに感激してしまったのよ。それで、最後に、なんかすごい研究所の人が、引き分けにしたいって、言ってたでしょ。本当にそう思ったわ。あとで、ネット上じゃ、引き分けにした研究所の人を、よく引き分けにしてくれた、って、たくさんの人からすごい評価されてたわよね。オービスもよかったけど、エミリアも絶対によかった、っていう投稿があふれていたわ。それで、私も、すごくうれしくなって、いいね、を入れたんだけど。」
灯は、この時まで大変な思い違いをしていた。急にやめた理由は、あの水の効果で、あのオルガのように、寿命が縮まって消えてしまうことを覚悟したことが1番の理由なのですが、やはり、オービスに負けたことをネット上で色々と言われるのが、とても嫌だったからなのです。だから、その後は、ネットも見ずに、すぐにやめてしまったのです。それなのに、私のことまで、そんなに評価してくれたなんて、ファンの皆さんには、本当に申し訳なかった、と、今頃になって、気づかされたエミリアでした。今、この大ファンの1人によって。
「そうなのよ。私、あの時、絶対に勝ってみせるって、天狗になっていたの。だから、負けたことを受け入れられずに、応援してくれた人たちのことも考えずに、勝手にやめてしまったのよ。ごめんなさい。ごめんなさいね、瞳。」
「いいのよ、そんなこと。だって、私も最初は、エミリアに勝ってほしくて、イベントに行ったんだもの。まあ、でも、本音は、エミリアが生で見られればどうでもよかったんだけどね。」
「でも、今日は、ファンのあなたに会えてよかったわ。明日から、灯に戻るから、またよろしくね。」
「う、うん、わかったけど、明日から、どう接していいのかわからない。」
「今まで通りでいいわよ。」
「そんな、無理よー。そうしたら、今日、このまま、うちにきてくれない。私の部屋、見てほしいの。」
「わかったわ。」
瞳は、実家暮らしで、両親と妹と暮らしていた。
「さあさ、入って。」
「おじゃまします。」
すると、瞳のお母さん登場、
「あら、瞳のお友達?いらっしゃい。えっ?あら?ええーーーーっ、」
どうやら、状況を理解したようだった。
「えっ、ひょっとして、この人、まさかの、エミリアよね。」
この年代の人が、私をみて、すぐに誰だか理解できるのは、とてもうれしい。
「お母さん、驚いてないで、挨拶してよ。」
「ああっ、そうね、いらっしゃい、瞳の母です。あのう、エミリア、さん?」
「そうです。よくご存じですね。」
「だって、この子ったら、あなたの大ファンなんですよ。ぜひ、部屋を見てあげて下さいね。」
そして、瞳の部屋の扉を開けると、
おおおおおーっ!正面の壁は、もう私のエリア。ポスターに写真、様々なグッズがあふれていて、すごいの一言。家族もこの部屋を行き来してたら、嫌でも私の顔を覚えるわね。
それに、限定のものや、ファンクラブに入っていないと入手できないものとか、ものすごい品揃いで、エミリア愛があふれていました。そこで、私は、これまでのことを考えていたのです。自分は、あの水を飲んで、最強の美を手にして、モデルの頂点を目指して、オービスに勝負を挑んで、負けたら勝手にやめてしまった。こんなに身勝手なことって、こんなに大事にしてくれるファンに対して、本当に申し訳ない。




