2-8 驚愕のエミリア
所長は、その結果に、感動している。
「見事です。こんなに見事な結果は、これまで見たことがない。勝った方が92で、負けた方が91だって?こんなものは、負けでもなんでもない。ただ点数が1点少ないだけではないですか。ここに、モデルを100人連れてきてみよう。おそらく、全員が80にもいかないと思う。それを、この2人は、どちらも90点を超えているんです。90を超えるなんて、観たことがない。
美しさというのは、ある程度主観的なものではあるが、この2人はそれを超えている。これからも、おそらく何十年も観られないでしょう。これは、美人の目利き人との異名をとっている私の責任のもとで、この対決はドローとしてほしい。もしも、異論がある方たちがいるならば、このあと、私は、ネットよりどんな批判も受けましょう。しかし、それでも、エミリアを負けにするわけにはいかないのです。
そして、私の本音を言うならば、2人とも優勝です。そう、声を大にして言いたい。最後の、2人のオーラをまとった美しい姿は、これ以上の感動するモデルは、他にはいない。できれば、2人とも、我が研究所の専属モデルになってほしいものです。いやあ、今日は、本当にありがとう。2人には、もちろん、この企画をしたスタッフ、関係者全員にお礼を申し上げたい。本当にありがとうございました。」
すると、2人は、疲れ切った様子で、椅子にすわったまま、互いに近寄って手と手を取り合っている。2人には、もはや勝ち負けはどうでもいいように見えた。
「僅差とか2人とも優勝とか言ってるけど、私の負けに、違いないわ、オービス。さすがだわ。それに、年代の採点は、どうしても好みがあるから、大差でなければ、あまり参考にはならないけど、1番のポイントは、芸術点よ。私は、ここを見逃さなかったわ。あなたと私の点差が10ポイント近くあるじゃない。これは、好みでもなんでもない、芸術的に美しいかどうかをデータから分析して採点しているのだから、美人としての1番信頼できる正当な評価だと思う。
しかし、あの奇跡の水を飲んだのに勝てなかったなんて信じられないと思ったけど、冷静になって、よく考えれば、あなたプリンセスの娘だものね。国を背負って立つ美しさの血筋になんて、もともと少しも美人でもない庶民の私じゃ、勝てるわけないわ。」
2人の会話を聞いていたコスメは、驚き、思わずエミリアに駆け寄る。
「あなた!あの水を飲んだのね!あの水はどうしたの!どうして知ってるの!どこで手に入れたの!」
矢継ぎ早に言われて、はっと、なり、少し戸惑うエミリア。
すると、何かに気がついて、さらに驚きをかくせないコスメ、
「あ、あなた、灯ね、そうでしょう。あなたの、今、やった、困った時に、首を2回変なふうに傾げるくせ、見逃さなかったわよ。私の目はごまかせないわよ。なんてこと!まさか!あなたがあの水を飲んでいたなんて!」
モデル エミリアは、だいぶ前に、モデルラボ を退所した 獅子童灯であった。
「さすが、コスメね。よくわかったわね。あなた、モデルのこと、本当によく見ているわ。私が事務所にいた頃、一度、事務所にやってきたあの水を、一度預かることになって、あなたに言われて金庫にしまったのは、私よ。コトールルミナス国の美の戦いに使う水だと聞いて、私は、思わず、ほとんどビンに移して持って帰ってしまったのよ。それというのも、オルガから、あの水は水自体に再生力があって、あの特別なビンに残っている限り、たとえ残った水がスプーン一杯分くらいに減ってしまっても、すぐに再生してビンいっぱいになるって聞いていたから。
そして、うちに持って帰って、すぐに飲むつもりだったの。だけど、これは、コトールルミナス人が飲むものを、私たち日本人が飲んだら、いったいどうなのか。害とか副作用がないのかと考えたの。そこで、急に冷静になって、とりあえずやめておくことにしたわ。
それで、そのまま、15年もそのままだった。あの水は、決して腐らないとも聞いていたけど、本当だったわ。そして、その頃、私には結婚する予定の人がいたんだけど、急に呼び出されて、やっぱり結婚できないって言われたのよ。それで、私は彼の浮気を知っていたから、別の若い娘と歩いていたのを見たって言ってやったの。すると、開き直って、君なんかより若いし、ずっとかわいいって、あっちを選ぶのがわかるだろ、って言われたわ。私は、泣きながら、家に帰り、あの水を飲んで、もし副作用で、万が一死んでもかまわない、と思って、試しに一口だけ飲んだのよ。味はしないし、本当にただの水だった。
その後も、何の変化も起こらない。もちろん、悪い影響もなかったけど。そのまま泣き疲れて寝てしまい、朝起きて、鏡に映る自分の顔を見たら、肌がツルツルになっていたの。だけど、そんなに気にしなかったのよ。しかし、その日のうちに肌のくすみが少しずつとれていったわ。そして、3日後には、肌は白くなり、目がほんの少し大きくなっていたわ。だって、君の目は開いているかどうかわからないなんて、言われたことがあったから、そのことはすぐにわかったのよ。すると、事務所では、なんか最近綺麗になったんじゃない、とか言われ始めて、ちょっと焦ったわ。水の効き目を確信したので、その後も、二口、三口と続けて飲むと、鼻や口、頬骨など、本当に少しずつだけど変わり始めて、さらに少しずつ飲み続けて変わっていくと、事務所では、正面から顔を見られないように気を遣うようになって。
しかし、見た目をごまかせるのも、とうとう限界にきたので、実家の母親が倒れて面倒をみるなんて、うその口実をして、事務所を辞めたのよ。まさか、ここまで顔が変わるなんて思わなかった。でも、オルガなんて、もともとがものすごく綺麗なのに、あんな水を飲む必要があるの?って思っていたけど、飲んだあとは、もう綺麗になりすぎて、本当に同じ人間なの?って思ったくらい変わったから、本当に驚いたわ。それで、自分も元の顔からの変化は本当にすごすぎたわ。
それから、さらにすごいことが起きたのよ。少しずつ脚は細くなって伸びてくるし、身体まで細くウエストはくびれてくる。胸の形も変わり始めて、変わるのは、顔だけじゃなかった。水を飲んで変わるところは、オルガをみていたから、わかってはいたけれど、身体のプロポーションのことは、オルガはもともとモデル体型だったから、そこまで見た目が変わらないように見えていたから、わからなかったけど、私自身のことは、わかりすぎたわ。水の効果がものすごくて、背は伸びるし、あっという間にモデル体型になったのよ。それにあっという間に、若返っていって、実際の35才から20才の見た目になってしまって、ここまで変わるなんて、もうどうしたらいいかわからなかった。
もう、自分の顔を見つめるだけで、しばらく動けなかった。
それで、ここまで、常識を越える美人顔になってしまったら、人って心も変わるものね。モデル業界で、天下をとろうなんて、飛躍しすぎたわ。そこで、今、1番売れっ子で話題といえば、もうオービスしかいないでしょ。美の対決には、1番相応しい相手だわ。相手にとって不足はない、なんて思っていたの。
そして、一度は負けてしまったわね。だけど、その時は、自分は、全然こたえてなかったわよ。だって、あの水は、まだ半分以上残っていたからね。だけど、逆に、次は、この水を全部飲まなければ、絶対に勝ち目はない、と思っていたの。そこでなんの躊躇もなく、残りの水をすべて飲み干したわ。しかし、さすがに、一気にこれだけの水を飲んだせいで、その効果がものすごく身体にきてしまい、苦しくなってしまい、完全に意識を失ってしまった。
しかし、それから、2週間後、やっと意識を取り戻した私は、鏡を見て、あまりの変わりように言葉がなかった。綺麗な顔が、さらに飛躍的に綺麗になっていたの。いや、もうその顔を見た時は、ショックで震えて、もはや無敵だと思ったわ。その後は、鏡で自分の顔をみることが、1日で1番幸せと感じる時間だった。そのくらいに、綺麗な自分の顔をみて、感動していたわ。そして、これなら、今度こそオービスに勝てるって思ったの。
だけど、あまくみてたわ、オービスを。いい気になって、本当に選ぶ相手を間違っていたわよ。よく考えたら、プリンセスの後継ぎになる、プリンセスの血を受け継ぐ子よね。冷静になって考えれば、間違っても、あたしが勝てるわけないじゃない。
ただ、昔、コスメから教えてもらった究極のメイクのこと、かなりすばらしいものだったから、今回は充分に活用させてもらってうれしかったわ。それでも、私はかなわなかった。オービスは、本当に綺麗だわ。特に、今日の、対決の最後に、オーラを最大にまとったところをみたでしょう。その美貌が何倍にもなって、輝いていたわね。私、感動して涙がでたわ。それを見て、思ったの。ああっ、やっぱり、私じゃ無理だったって。今日は、素晴らしいものを見せてもらったわ、オービス。やっぱり、あなたは、最高よ。」
すると、コスメは、ちょっとホッとしたような表情で、
「事務所を辞めて、もう1年以上もたつのね。それにしても、灯、綺麗になったわね、ほんと。言われても、まだあなただなんて、信じられないわ。そうよね、私が伝えてきたメイクの仕方、あなただったのね。私が教えたことがない人で、ここまでできる人がいるなんて、と思ったけど、あなただったら、納得よ。それに、あなた、なんて若返ったの。その顔とスタイルだったら、誰だって。誰だって、絶対にモデルの頂点を目指すわよ。ところで、ねえ、灯、あなた、今度、うちの事務所に入らない?今のあなたなら、オービスと並んで、頂点になれるわよ、絶対。」
エミリアは、泣きながら、ふふふっと笑い、
「そうね。考えておくわ。」




