2-7 最強のジャッジ フランソワ高木
いよいよ、当日がやってきた。1回目の対決から、ひと月以上が過ぎて、両者共に、レベルアップした様子が明らかに見てとれる。オービスは、当時もトップレベルだったにも関わらず、前回の勝利後の躍進が凄まじく、その経験からさらに磨きをかけたように感じる。だが、一方の、エミリアは、前回の敗北を気にしている様子もなく、しかし、こんどこそ本当の私をみせる、という驚きの発言をして、それが単なる負け惜しみではないほどの飛躍的な変貌を遂げたのである。そのことは、かなり業界に激震を走らせ、多くの関係者に多くの期待をもたせることとなった。
まず最初は、インタビュー動画による、2人の容姿や様々な表情をみるための審査である。これは、今回は、それぞれ30分ずつをオービスからエミリアの順番で放送されて、審査員もそのままリアルタイムで観て判断していく。そして、次は、ランウェイを交互に3回ずつ衣装を変えて、活歩する。だいたい30分くらいを予定している。そして、そのあとには、もう一つ判定方法があり、それはその時点で発表される。
実は、今回の審査員については、ウニコロの社長に対して、前回の審査員から、自分たちの代わりに審査員に相応しい人たちがいるとの推薦があった。それは、フランスに、UBPRI (Ultimate Beauty Pursuit Research Institute)究極の美貌追求研究所という研究施設があり、今回のイベントの審査員として依頼をしていたのである。研究所の所長であるフランソワ高木は、このイベントはもちろん、2人のモデルにとても興味を示して、いつもなら研究員を何人か派遣するのだが、今回は特例として、所長自ら、1人で審査員を引き受けることとなった。この研究所は、世界的な規模でモデルたちについては、もちろん、あらゆる国々の女性たちの容姿の美について、研究、追求している施設であり、所長は、おそらく、すでに5万人以上の美人を見てきたという、いわゆる美人の目利き人を名乗る美の強者である。前回の審査員たちより推薦された、ウニコロの社長の服部は、依頼のためフランスの研究所を訪れた。
「というわけで、前回の審査員は、全員、お手上げの状態で、ぜひとも今回は、おたくの研究所にお願いをしたい。」
「わかりました。その2人のモデルの写真と映像を拝見しましたが、これほどの美人は、私のこれまでの研究の中でも、群を抜いている。実に、興味深いし、どちらかの判断などは、うちの研究員でも、とても判断はしかねるレベルでしょう。これでは、私が行くしかないでしょう。うっかりすると、好みだけで判断でもされてしまえば、ここまでの高いレベルの美を冒涜すらしかねてしまう。そうなれば、2人のうちの次点にされたモデルの美は、より低いものとの判断をされることになり、美の世界での位置付けを誤ったものとされるという悲劇が起こりかねないですからね。私が公正なる判断をして、誰もが納得のできる結果をお見せしたい。」
通常であれば、このような審査には数名の研究員を向かわせるのだが、今回の2人の美のレベルがあまりにも高いため、その判断が難しすぎると所長自らが、1人で名乗りをあげたのである。
つまり、今回の審査員の人数は、たった1人である。実は、業界関係者の多くによる話し合いが、一度持たれたことがあり、この2人のうち、どちらが素晴らしいかという判断は、決して優劣をつけるものではなく、専門家だけが判断するような玄人目線だけでは、公平でないのではないか。それに、特定の審査員だけの判断が、多くの視聴者から受け入れられる結果なのだろうか、という意見もあった。そこで、モデルだけでなく、世界的に多くの美人を見て研究してきている研究所に白羽の矢が立ったのである。
そして、対決が始まり、所長の見解で、まずは、インタビュー映像から見る2人の印象は、思いがけずに、その表情から、その美人度が高すぎると絶賛され、今回の対決は、予想以上のものになると、最初から言い切っていた。その後、ランウェイでの対決になり、これだけ、世界的な多くの美人を見てきた所長でさえも、生で見る2人は、想像を遥かに超えていた。というのは、実際の2人はというと、そのオーラがすさまじく、所長でさえも圧倒された。なにしろ、2人の容姿がすばらしいのは、写真や映像からもわかっていたのだが、生で見る本物は、あふれるオーラが所長の五感を超えていて、もはや、2人の圧倒的な美しさを堪能して酔いしれている。所長もこれまでに、ここまで自分を見失うほどの美しさを体験したことはなかったという。そして、あっという間に、終わりが近づいて、勝負はつかないかと思われたが、結局、所長は、思わず立ち上がって、これは本当に、できるものならば引き分けにしたいと叫んでいた。思わず、泣きながらエミリアに駆け寄るオービス。
すると、所長より、緊急の発表があるという。
「只今の勝負は、ここまでで、結論を出すことは、あまりに難しく、ここまでは引き分けとしたい。ただこの勝負は、引き分けなしが条件ということから、最終的には、究極的な手段となる採点方法を用意してあります。」
そう言うと、奥から、縦横3m以上はあろうかという巨大な鏡が用意され、2人の後ろに各2台ずつドローンのカメラが設定された。
「モデルの容姿の評価という主観的なことに対して機械を使用することは、以前では考えられないことでしたが、最新のAI技術の導入により、これを実現致しました。これは、通称 BSMビューティースコアリングマシンといい、この鏡に映った女性の、美しさを採点する最新機器で、私が長年かけて完成いたしました。その容姿、表情、仕草などを読み取り、容姿からは顔の各パーツのバランスや、その位置バランス、それぞれのパーツの造形に、もちろん肌の状態などから、芸術的な観点から判断する一方で、この機器には、本日のために、日本の国民の中から、無作為に選んだおよそ10万人の10代から80代までの一般人が、美人だと思う芸能人のデータとその人たちが感じた理由などのデータがすべて集めてあります。そして、これは、ただ単なる機械的な判断ではなく、多くの人からの好みも把握して、すべてをAIが管理をして、判断をして、最終的に100点満点で採点を行ない、鏡のモニターに表示されます。それと、鏡の前で動いたり、表情を変えるなどを採点が終了するまでを、正面からビデオカメラで、背面からはドローンカメラが撮影して、その映像も採点基準とする。今回は、このマシンの複数比較モードを使用し、2人を同時に撮影して、鏡の前でのポーズや表情も2人同時に読み取り、その採点結果が表示されます。点数表示なので、はっきりとした確実な結果が得られると思います。
それでは、お2人とも、鏡の前にお並び下さい。鏡に向かって、ポーズを取るもよし、椅子に座っているだけでもかまいません。なお、採点時間は、決まっておりません。だいたい15分が目安ですが、30分以上かかることもありますが、私が、全体の流れを見ながら、様々な機械の調整の操作をしながら、マシンが動いている間は、まだ採点の最中です。点数の表示が止まって、マシンが止まったら終了になります。」
「それでは!最終決戦をスタートします!」
しかし、疲れたせいなのか、あるいは、もうこれ以上は、何もする必要がないということなのか、2人は、椅子に腰掛けて静かに座っている。そして、特に何かをしようとはしない。かといって諦めたようでもない。マシンは、カウンターが動き出している。
「それでは、司会進行役の私が、実況ならびに解説を担当させて頂きます。宜しくお願い致します。」
多くの観客が固唾を飲む中、
「これまで、このマシンによって、採点された女優芸能人が、2,000人以上おりますが、その中の、総合得点の最高点は、幸田桜子の82点であります。実は、この方以外に、80点を超えた方はおりません。それから、特に高得点が1番難しいのが、芸術点でありまして、これまでで1番でも、79点でございます。
これは、まさに顔の各パーツのバランスや各パーツの造形の芸術面からの評価なので、この評価の中でも、特に点数が取りにくい項目となります。ただ、芸術性という観点から言うと、シンメトリーが美しいという評価がありますが、人の顔は完全なシンメトリーはありえない一方で、左右の絶妙なアンバランスがとても魅力的な場合がありますが、この機器は、その点も考慮して採点することが可能となっておりますので、より人間的な部分も含まれる採点方法が特徴となっております。
ここで、すべての項目をご紹介しますと、まず、各年代別評価が、10代から80代までで8項目あり、芸術点、リアルカメラによるリアル印象、そして、最終評価として、総合評価と、合計で11項目となります。
おおっ、ここで、オービスの10代のカウントが止まりました。カウンターは、なんと92点です。これまでの10代の最高得点です。信じられない。この点数は、約10万人の中の10代の人たちのオービスを美人度数の採点で100点満点で点数をつけたら何点になるかきいて導き出した点数の平均点になるのです。この高得点は、かなりの人数の人たちが満点をつけているに違いありません。いきなり、圧倒的な得点が出ました。過去の10代の最高得点は、88点なので大きく更新しました。
次に、止まり始めたのが、エミリアの50代、60代、70代、80代であります。それぞれ、50代が86点、60代が88点、70代が86点、80代が80点であります。これは、この50代の採点では、過去の点数を更新しました。他の3世代についても、ほとんど過去の最高点に近くなりました。
おっと、ここで、オービスの、20代が出てきた。89点をマークしました。これも高得点です。全体的に、カウンターが止まり始めて、それぞれ80点以上をつけており、かなりハイレベルな戦いになってまいりました。
2人とも、軒並み、80点をオーバーしており、すごいことになってまいりました。
そろそろ、総合点が出る頃でしょうか。際どいところです。
おっと、おーっと!なんと思いがけない展開になってまいりました。カウンターがまた動きだしました。ほとんどのカウンターが、動いては止まり、動いては止まりを繰り返しております。少しずつ停止してきました。しかし、止まったカウンターは、みな90点を超えてきたようです。
ようやく、すべて止まったようです。マシンの起動も停止したようです。それでは、まず各年代の結果から、見ていきましょう。まず、10代は、オービス97点エミリア93点で、オービスが優勢、20代は、オービス92点エミリア96点で、エミリアが優勢、30代は、オービス94点エミリア95点で、エミリアが優勢、40代は、オービス91点エミリア92点で、エミリアが優勢、50代は、オービス、エミリア共に93点で、タイです。60代は、オービス89点エミリア90点で、エミリアが優勢、70代は、オービス89点エミリア88点で、オービスが優勢、80代は、オービス88点エミリア87点で、オービスが優勢、そして、芸術点は、オービス98点エミリア89点で、オービスが優勢となりました。そして、総合得点は、オービス92点エミリア91点で、僅差でオービスが優勝と決定しました。それにしても、ここまでの高得点での争いになるとは誰が予想したでしょうか。それに、これほど僅差の戦いになるとは、勝負がついたとはいえ、もはや研究所所長の評価通り、引き分けでも全くおかしくない結果でした。」




