9-14 マネージャー・一条麗奈14
そして、事務所では、再び、目覚めた、その瞬間、2人の密着した額は離れ、2人は前後に吹き飛んだ。すぐに目覚めた麗奈は、思わずカタリーナに駆け寄った。
ゆっくりと目覚めたカタリーナ。麗奈は、彼女の顔を、恐る恐る覗き込んで、言った。
「香織、よね?群青香織よね、あなた!」
やっと、我に帰ったカタリーナだが、その口からは、
「そうよ、私、香織よ。やっと、記憶が戻ったわ。麗奈、久しぶりね。私、ずっと記憶を失っていたのね。」
「香織、あなた、ずっと行方不明になっていたじゃない。さがしたのよ、あなたをずっと。記憶がなくて、その顔だったら、見つかるわけないわよね。いったい、何があったというの。」
「そうね。本当に、大変だったわ、、、。」
今から、5年以上前にさかのぼる。
群青香織は、一条麗奈とともに、琥珀の翼のメンバーであった。
琥珀の翼に参入すると、これまでの家族とは、その縁を切り、それまでの過去までも捨てることとなり、まるで出家でもしたようであり、その苗字も、天元森姓を名乗ることになる。
そして、ともに非常に期待され、トップ争いをしていた2人は、下から4番目の永のレベルまで達していて、あとは、最高位の無を残すのみ。そのための最後の課題が、移面術の体得であった。2人は、これを何回も試みるが、どちらもギリギリのところで失敗していた。2人は、親友でもあり、良きライバルであった。
そして、香織には、他にも、一般人に親友の女性がいて、彼女は、香織が一般人では1番信頼できる友人であり、互いになんでも相談できる関係であった。その友人は、両親と彼女の3人家族であったが、彼女が学生の頃、両親は交通事故で亡くなってしまった。他に身寄りのない彼女は、やはり両親を事故で亡くしている同じ境遇であった群青香織と、仲良くなり、互いに色々と夢について、語り合ったりしていた。
すると、彼女の夢は、モデルになること。言われてみれば、彼女は、それはもう、ものすごく美人で、すっぴんであっても、その綺麗さは、道行く人を必ず振り返らせるのだった。
そして、ある時、そのチャンスは、やってきた。オーディションに応募した彼女に、香織も嬉しくてついていくことにした。バスに乗って、都内まで走らせる。車内には、乗客は、香織と彼女の2人だけ。そのせいか、彼女のワクワクが止まらずに、はしゃいでいた。デビューできたら、あれもしたい、これもしたいと、彼女のおしゃべりは止まらない。香織も、一緒に盛り上がっていた。本当に、これからの将来を楽しみにしていた。
ところが、山間部を走っていた時のこと。
「えっ、地震かしら。」
実は、まだ、実際には揺れる数分前だったのだが、香織は、その勘が非常に鋭く、すでに感知していた。ところが、1番恐ろしいのは、地震ではなかった。もちろん、その起こってきた地震は、けっこう大きいもので、バスに乗っていても、とても怖く感じていた。
だが、その最悪の時は、その次にやってきた。落石が、いくつもバスを襲ってきた。一つ目の落石は、バスの運転手を襲い、すぐにその命を奪い、まずそこでバスを停めた。次にバスを襲った落石は、香織と彼女をバスから、放り出し、反対車線の道路に叩きつけた。が、実際には、すでに驚異的な運動神経を持っていた香織は、道路に叩きつけられることはなく、奇跡的な受け身によって、かすり傷程度で済んだ。
すると、香織は、思わず、彼女の元に駆け寄った。
「大丈夫?大丈夫?お願い!返事をして!」
すると、もうすでに地面に叩きつけられた彼女は、その時点で生きていること自体が奇跡であった。
「、、、、、ご、ごめん、、なさい、もう、、私、もう無理、みたい、、ね。」
「な、何を言うの!手当をしましょうよ、ねえ、、、そんなこと、、
そんなこと、言わないで、、、。」
しかし、香織にも、もうわかっていた。
「ねえ、、、香織、私、、ちょっと、お願い、、しても、、いい?」
「何?なんでも、なんでも言ってちょうだい!」
「あの、、ね、、、香織、、、言って、、たわよね、顔を移す、、こと、できる、、って。」
「あ、ああ、、そう、移面術のことね。それが、どうしたの?」
「それ、を、わたし、に、今、ここで、、、してほしい、、のよ。そう、そして、、、私の、、、顔になって、、、代わりに、、、モデルに、なってほしい、の。私の、、、顔で、、モデルに、なれるか、、、代わりに、、、試して、、ほしい。」
それを聞いた香織は、唖然とした。それは、まだ一度も成功したことはない。そんなこと、頼まれても、できたことがないのに、、、。それに、こんな厳しい状況の中で、とてもできるわけなどない。しかし、
「お願い、、よ。わたし、もう、あと、少し、、しか、だめ、、そうよ。」
「わかった!わかったわ!やってあげる!」
香織は、そう言うと、あふれる涙をこらえながら、深呼吸をして、呼吸を整え始めた。道路に投げ出された2人。香織は、その道路の真ん中で、呼吸が落ち着くと、彼女の手を握り、感覚のセンサーを開いていく。
香織は、本当に、あと少しの命だと感じて、あふれる涙は、止まらない。それを振り切りながら、今までかつてないほどの深い集中力、感覚のセンサーも、かつてないほどに作動を始め、彼女の中につながり、その顔を読み取っていく。その感覚の繊細さ、そして、その精度の高さが信じられないほどに作動している。これほどの緊迫した状況での移面術は、香織は初めてであった。
これほど、手応えのある移面術の試みも、初めてであった。その、顔写しの術が終わると、香織は、自身の顔を見るまでもなく、完璧に成功した手応えを感じていた。
「見て!私の顔を、見て!」
うっすらと、目を開ける彼女、その顔を見る彼女、弱々しいながらも、はっきりと笑顔になり、
「香織、あなた、、、素晴らしい、わ。こんな、こと、って。私、とても、、うれ、しいわ。あと、は、、たのんだ、、、わ、、、。」
そう言うと、彼女は、静かに息を引き取っていった。
彼女の身体をしっかりと抱きしめて、泣きはらす香織。
「私、あなたの代わりに、モデルになるわ。そして、絶対、絶対に、有名になってみせる、絶対になれるわ、だって、あなたの顔、こんなに綺麗な顔だもの!絶対にモデルの頂点になってみせるわ!」
だが、まだ、悪夢は、終わりではなかった。そして、バスは、大爆発を起こして、香織は、崖へと吹き飛ばされて、その下まで転げ落ちていった。




