2-4 オービス対エミリア
次の日の朝、とある大手の会社の受付に、エミリアはいた。
「おはようございます。私は、モデルのエミリアと申します。社長さんに用事があって、参りました。今日は、特にアポはとっていません。でも、社長さんに、モデルのエミリアがきています、とだけお伝え下さい。そうすれば、必ず通してくれるはずですから。」
すると、受付嬢は、驚いたような表情で、
「わ、わかりました。お伝えするだけですよ。アポがなければ、というか、社長は、絶対にお会いしませんから、よろしいですか。」
「けっこうよ。」
すると、受付嬢が社長秘書に連絡をしている。そして、社長に伝えると、社長は驚いたようで、わかった、ぜひ通してくれ、と言う。さらに、驚いたのは、受付嬢。
「エミリアさま、社長がお会いするそうです。こちらの者が、ご案内いたしますので、どうぞ。」
もう1人の女性に連れられて、エレベーターに乗り、社長室へ。案内の女性は、ドアをノックする。
「失礼いたします。エミリアさまをお連れしました。」
「おはよう。突然だね。驚いたよ。モデルの、エミリアさん、こんなところで、お会いできるとはね。私が君のファンだとよくご存じですね。どうしても、君にいつか会いたいと思っていたんだ。だけど、まさか、君の方から来てくれるなんて本当に信じられない。いつも、テレビやネットではみていて、すばらしいと思っていたが、今、こんなに近くで目の前にいる君は、メディアで見ている10倍は美しい。生で見る君は、こんなにも美しいなんて、言葉にならないよ。
これまで、宣伝で起用するのに、多くのモデルを見てきたが、もちろん、皆んな甲乙付け難いくらい綺麗だと思っていたが、今、目の前にいる君を見たら、これまでのモデルは、正直かすんでしまったよ。こんなにも、差がつくなんて信じられないな。君には、是非うちの広告に出てほしいと思っているんだ。君は、決して専属モデルにはならないとは聞いているが、期間限定でなら引き受けてくれるというのは知っている。どうだろう。お願いできないかな。」
「ありがとうございます。CM等のことについては、また改めてご相談させて頂きますわ。それも、これからするお話しのお返事いかんによって、かしらね。」
その話しというのは、
「実は、自分と、今、ファッション業界で話題になっているモデルのオービスとの美の対決を実現したいのです。そこで、そのスポンサーとなって頂いて、また、その対決の企画発案者となってほしいのです。
そうすると、この会社にとっても、彼女の所属するモデル事務所モデルラボ にとっても、その知名度はかなりアップして、これほどの広告の効果はないと思いますよ。それに、私とオービスは、今、モデル業界ではトップクラスですから、どちらが輝いているか皆さん興味があると思うんです。
これは、これまであった、モデルがランウェイを歩くとか、衣装に重点を置くとか、というものではなくて、あくまでも、2人の美貌を比べて、どちらが上だと評価するのか、シンプルに、2人のうちどちらがより美しいと思うのかという、こんなに単純で盛り上がるイベントはなかなかないでしょう。社長さん、どうかお願いできないかしら。」
すると、社長は、
「いやあ、これは、すごいことになりそうだ。もちろん、引き受けるよ。というか、そんなすごいことなら、是非やらせてほしい。それでは、今度は、うちからモデルラボに、今回のイベントをうちがスポンサーになり、企画することと、オービスの参加同意と事務所としての協力と、モデルラボの名前を宣伝に入れることを承諾してもらおう。その対決の時期と、対決の方法は、こちらで決めていいのかい。」
「お任せします。あっ、ただ一月余裕を持っていてほしいですね。あと、対決方法は、ぜんぶおまかせします。あっ、それと、もう一つ大事なお願いがあります。」
そして、その数日後、その会社ウニコロから、モデルラボに、新しいイベントを始めることについて社長に相談したいとアポイントメントの申し込みがあった。
ウニコロといえば、業界最大手の会社である。モデルラボのような中規模のモデル事務所では、こちらから、何か申し出をしても、受けてもらえるどころか話しを聞いてくれるだけでも、難しいのである。その大会社から、仕事の依頼の申し込みなどあり得ないことであった。社長のコスメは、いよいよ、うちの事務所にも運が向いてきたのか、と思い、ワクワクだった。
アポの入った当日がやってきた。時間がくると、受付に人がやってきた。対応をしている。おそらく、株式会社ウニコロの企画担当者だろう。すると、血相を変えて、受付の女性がコスメの下にやってきた。
「しゃ、社長、あ、あの、株式会社ウニコロの、、、。」
「大丈夫?焦らないでいいわよ。ウニコロの企画の人が来たのでしょう。アポがあるから、わかってるわ。」
「いいえ!そうじゃないんです。ウニコロの社長さんがお見えなんです。」
「ええっ!ウニコロの、しゃ、社長さんが、自ら?な、何ですって!」
「企画担当者の方と、2人でお見えです。」
気がつくと、もう目の前には、ウニコロの社長と企画担当者が立っていた。
「悪いね。勝手に入ってきてしまったよ。社長の小染さん、ですね。私は、株式会社ウニコロの代表取締役社長の服部と申します。初めまして。なかなか、いい事務所じゃないですか。私は、モデル事務所というのは、来たのは初めてで、いやあ、きれいで明るい雰囲気で、ちょっとカラフルだけど、品がある。とてもいいですなあ。それに比べて、うちの事務所なんかは、ちょっと地味かなあと思いましたよ。この事務所をちょっと参考にしたいですね。」
「は、初めまして。本日は、社長さん直々に来て頂いて申し訳ありません。担当者の方だけでもよろしかったですのに。」
とにかく、ウニコロ本社を訪ねても、決して会うことなど不可能な、いわゆる雲の上の人であり、そのお顔を拝見するのは、テレビか雑誌で見れるのが、せいぜいで、生でお会いするなどとんでもない。そんな大御所が、わざわざモデルラボを訪ねてきたのである。
「んっ。担当だけで?いやいや、それが、ダメなんだ。私じゃないと。
まあ、とりあえず、先に本題に入りましょうか。」
「あっ、はい。では、お話しを伺います。」
完全に緊張で固まっているコスメ。
「社長さん、そんなに緊張しないで大丈夫。何もとって食おうというわけじゃないんだから。はははっ。」
コスメは、もうすでに食われてしまった気分であった。
「実は、先日、モデルのエミリアさんが来社されて、イベントの企画とスポンサーとしての依頼が、私に直接ありましてね。おたくのオービスさんとエミリアさんの美の対決を、ぜひ実現したいと思っています。そこで、オービスさんの参加の同意と、おたくの事務所の協力を当社から依頼したい。
そして、その内容については、今、企画段階ではありますが、通常のランウェイの歩行などはやめて、あくまでも2人の外見を重視した勝負となるものとして、考えており、過去にないイベントとなる予定ですね。開催日は、約1ヶ月後を予定で、その1週間前に、日付けを確定致します。という内容なんだが、社長さんいかがかね。」
「あっ、はい。とても、よろしいと思います。」
「じゃあ、オッケーということで、よろしいかな。」
「もちろん、もちろんですよ。こちらこそ、宜しくお願い致します。」
「ああっ、そうかそうか、それなら、よかった。いやあ、実はね。エミリアから、こちらへの依頼は、私が直接行ってほしいって言われてね。私から依頼したら、まさか断られないだろうということでね。頼まれてしまったんだよ。
じゃあ、なぜそこまでって思うでしょう。実は、お恥ずかしいが、私はエミリアの大ファンでね。いつか彼女に一度でいいから会いたいと思っていたら、先日、会社を訪れてくれてね。それで、もううれしくね。その依頼を引き受けたというわけなんだ。」
「そうだったんですか。」
「いや、だけど、このイベントの企画などは、もちろん、エミリアからだからといって、それだけで決めたわけではないぞ。企画内容と宣伝効果なども考慮した上で、最終的に社内で決めたことだからな。」
「きっと、うちの事務所にとっても、いい宣伝になると思いますよ。」
「おお、そう言ってもらえたら、私もきた甲斐があったな。」
「とんでもないですよ、社長さん、本当に、今日はわざわざありがとうございます。」?
「ところで、悪いが、今度、そのオービスにも会わせてもらえないかな。」
「あら、そうですよね。ちょうど今、事務所にいますから、
「それはいい。ぜひお願いしたいな。」
「今、呼んできますから、ちょっとお待ち頂いてもいいですか。」
「急で悪いな。待つのは大丈夫だよ、時間はあるから。」
急いで奥に走るコスメ。ほどなくして、
「お待たせしました、社長さん。こちらが、オービスです。」
「こ、こんにちは。初めまして。私、オービスと申します。宜しくお願い致します。」
社長の前に現れたオービスは、たった今、学校帰りに制服のまま、寄ったところであったが、いつもの仕事のファッションとはまた違った魅力があり、透明感にあふれていた。それをみた社長は、言葉に詰まってしまった。
「君がオービスか。君が、あのエミリアの相手なのか。そうか、そうなのか。いやあ、私が悪かった。私は、エミリアの大ファンだし、今、モデルはエミリア以外はとても考えられないと思っていたので、正直言って、このイベントは、エミリアの独壇場だと思っていたんだよ。ところが、どうだ。相手の君は、こんなに美しい人だったなんて、エミリアの相手に相応しいな。
これは、エミリアは簡単には勝てそうにないな。いや、へたをしたら、エミリアでも危ないかも知れないぞ。これは、思った以上に盛り上がる対決になりそうだ。しかし、君は、若いな、高校生かい。20歳のエミリアと、高校生の君じゃ、これまた評価が難しい。
本当は、私は、審査員をやりたかったんだが、絶対にエミリアに入れるだろうと言われて、却下されたんだが、今度は、エミリアの大ファンの私でも、どちらか迷ってしまいそうで、結果的に審査員でなくてよかったよ。たった今の制服姿で、これだけの魅力があるのなら、モデルとしての君の姿は、相当に期待ができるな。じゃあ、とにかくイベントを期待してるよ。」
オービスに会った社長は、ワクワクを隠せずに帰っていった。




