9-7 マネージャー・一条麗奈⑦
再び、一条麗奈から、
「前回までに読み取った2人とは、細胞の繊細さなど、圧倒的にレベルが違うわ。信じられないまでの繊細さを持つオービスの顔移し、私に、できるかしら。」
そして、実務計子、
思った通りよ。これは、私にとって、想定内よ。実はね、このために、読み取る相手を、あえてオービスにしたのだから。それから、私が考えている本来の目的は、オービスへの顔移しそのものじゃないからね。本当の挑戦は、まだまだこれからなのよ。
「一条さん、この次やる時は、手をつないで、オービスの顔とセンサーがつながったら、すぐに読み取りを始めてはだめよ。そこまできたら、読み取るセンサーに、もっともっと意識を集中して、センサーの高純度化を行ないなさい。」
「すごいわ。実務さん。どうして、琥珀の翼のメンバーでもないあなたにそんなことまでがわかるの。」
「いいから、私の言うことをよくきいてね。ここからは、さらに難しくなるわよ。」
「わ、わかったわ。高純度化をどこまですればいいの。どのタイミングで、読み取りを始めたらいいの。」
「いいこと。ここは、1番焦ってはいけないところよ。もうすでに、一度オービスの顔とセンサーがつながったところまできたのだから、そこまでは、もうできるはずね。今度は、そのまま高純度化を続けるのよ、ただひたすら待ちながらね。焦らずに、そのままひたすら待つのよ。それが、どのくらい待つのか、早いのか遅いのか、考えたらいけないわ。
そうすると、オービスの繊細さと、高純度化したレベルが同じレベルに達する時が必ずやってくるわ。」
「わかったわ。その時に読み取りを始めればいいのね。それが始めるタイミングね。」
「そこなのよ、さらに難しいところは。そこのタイミングは、そこでもあり、そこでもないの。その時がきても、積極的に始めてはだめよ。そこで、こちらから読み取りを始めると、おそらく、また弾き飛ばされるわ。
だから、そこが1番難しいタイミングよ。オービスの繊細さと高純度化したレベルが同じになっても、そのまま、センサーは待機状態にしていなさい。読み取りをしないでいて待機していれば、自分の意志とは関係なく、自然にセンサーが静かに動きだして読み取りが始まるわ。そうしたら、そこで、初めて自分の意志で、一気に読み取りの続きを始めるのよ。ちょっと、時間がかかるかもしれないけど。
いいこと。例えるなら、水は、高い方から低い方に流れるでしょう。こちらが高ければ吸い込んだりしないと水は入ってこない。無駄な力が必要になるし、吸い込むことをずーっと続けなければならない。しかし、両方の高さが同じになれば、水は入ってくるけど、同じ高さになっても、決してスムーズとまでは言えない。そこで、向こう側を高くすれば、水は、当然高い方から低い方に流れてくる。そこで、そのタイミングで、水を吸い込んでやれば、そこからは、スムーズに水は入ってくるでしょう。それも多くの力を使うことなく。
それに、これまでは、一つが1㎝の大きさの粒を100個読み取っていたものが、今回は、1㎜の大きさのものを1,000個読み取ってる感じね。そのくらい違いがあるわ。1㎝のものを読み取る精度を高純度化してあげていって、その後1㎜を読み取れる精度まであがったかといっても安心して、すぐにこちらから読み取りを始めてはいけない。自然に読み取りが始まるまで待たなければ、またはじかれてしまう。だから、そこまでの、センサーの高純度化と冷静さが必要なのよ。」
それを聞いた一条麗奈、
「実務さん、あなた、どうして、この術のこと、そんなによくわかるの。やったことがないのに。」
「いいえ、別にそんなに、わかるわけじゃないわ。ただ、あなたの様子を見て、分析して、そうわかっただけよ。
さあ、時間もないから、もう始めましょう。」
その2人のやりとりを、みていたコスメ、何か煮え切らずに発言をした。
「あの、私、あまり理解できていないのかもしれないけど、その、顔の読み取りって、表側の顔の表面の姿形だけではいけないの?そんな、さらに奥まで読み取らなければ、もっと単純で簡単に読み込めるんじゃないの。写真を撮るみたいにね。」
すると、実務が、その質問は当然だと理解しているような表情で、うなづきながら答えた。
「そうね。それは、とても良い質問だわ。写真をとるように、今、言ったように、もっと2次元的に読み込んだら、簡単であっという間に終わるでしょう。しかも、見た目は、全く同じに移すことができる。」
「そうよね。その簡単な読み取り方の方が、すぐにできて見た目が同じなら、それで充分だと思うわ。」
「そうね。でも、その時に読み取った顔は、その顔と同じ写真をあとから貼りつけたような表情のない、乏しいものになってしまうのよ。能面のような無表情で、しかも薄っぺらい顔になってしまう。つまり、皮膚やその下の表情筋は、もちろん、その下の筋肉まで、深さでいえば、少なくとも1㎝以上は、奥まで入り込まないと、そこまでの表情を再現するまでの読み取りはできないのよ。それに、今回のオービスの、繊細な皮膚や細胞組織を持つ顔なら、なおさらね。」
すると、麗奈も、
「そうよ。移面術は、大変なことなのよ。そんなに簡単で単純な術ではないのよ。やはり、琥珀の翼の術の中では最高難易度だもの。」
その言葉に続いて、実務も、
「そう、その通りよ。その心を、決して、忘れてはいけないわ。一条さん、それじゃ、始めるわよ、その、奇跡の術を、、、。」




