9-6 マネージャー・一条麗奈⑥
「というわけで、もう私は、カタリーナからはなれられなくなってしまったの。顔さえ元に戻れれば、ここから逃げられるのに、それは、もうかなわないわ。」
すると、コスメは、
「事情は、わかったわ。今、すぐに私と一緒に来てちょうだい。一度、家に戻って、カタリーナに出かけてくるって、言ってきて。」
「よくわからないけど、どこに行くの。」
「大丈夫よ。あなたにとって、悪いことにはならないと思うから、私を信じて、ついてきてちょうだい。いいわね。」
「わかったわ。」
一度、家に戻った麗奈は、カタリーナに、そう告げると、コスメの言うまま、ついていった。
着いたのは、モデルラボ。実務計子を呼んで、彼女のこれまでの経緯を話した。
「すごいことね。それは、もう本当に特殊能力だわ。だけど、顔が戻れないのは、ちょっと残念だわね。そうしたら、一度、その移面術をやって見せてくれない。あなたが、どういうことをやっているのか、見させてもらって、ちょっと分析したいのよ。それによっては、お役に立てるかもしれないわ。」
「いいわ。やってみる。」
「じゃあ、オービスを呼んできて。」
コスメは、オービスを呼びに行ってきて、一同は、事務所の奥にある別室に移動した。
オービスは、ちょっと不安顔。
「何か、不思議なことをやるんですか。私、大丈夫ですか。」
「ちょっとね。別に怖いことはないから、そこに座ってね。目を閉じてもらった方がいいわね。終わったら、教えてあげるから、私が合図するまで、目を閉じていてね。」
「ええっ、何が起こるの?」
「終わってからのお楽しみよ。じゃあ、一条さんの椅子は、オービスのすぐ横でいいかしら。本当は、正面がいいんでしょうけど、正面には、私に座らせてね。とにかく、どういうことをしているのか、よく調べたいのよ。」
少し離れて、コスメも椅子を置いて座った。とにかく、コスメも興味深々であった。疑うわけではないが、自分の目で見るまでは、顔が移るなんて、そんなことは、とても信じられなかった。
すると、一条麗奈は、
「少し、準備をするので、始める時は、声をかけるわ。」
オービスは、少し震えている。
「大丈夫。静かに目を閉じていてね。途中で、あなたの手を握るけど、驚かないで。」
呼吸を整えている一条麗奈。
しばらくすると、
「準備できたわ。始めるわよ。」
コスメは、ドキドキが止まらない。そして、実務計子も、さすがに少し緊張して、見守っている。
精神集中をしている一条麗奈。
それを見ている実務。
麗奈は、自分自身を開放しているんだわ。いったい、何をしようとしているのかしら。
そうだわ、これは、感覚のセンサーを開いているんだわ。
すると、ゆっくりと、オービスのその左手を右手でつかむ麗奈。そして、意識を集中させると、集中するにつれて、麗奈の体温が上がっていく。
麗奈の感覚のセンサーが、今、開いて、手と手をつないで、2人が今、中でつながって一つになっていくわ。なんということ!
すると、オービスの顔が、微妙に震えている。
今、麗奈のセンサーがオービスの顔まで、到達したわ。ああっ、オービスの顔を読み取っている!
すると、その読み取るスピードが急に落ちていく。そして、麗奈が、苦悶の表情になっている。、、!
なるほど。やっぱりね。読み取ることができないのね。思った通りだわ。
すると、麗奈は、ため息をつきながら、我に帰ったようで、正気に戻ってきた。
はあ、はあ、はあっーーーっ、
すると、コスメが駆け寄ってきて、
「いったい、どうしたの!いったい、何があったの!」
「こんなこと、、、こんなこと、初めてよ。」
やはり、そうだった。
実務には、もう始める前からわかっていた。簡単に言えば、オービスの顔を読み取るのは、非常に、そのハードルが高く、簡単には読みきれなかったのであった。
「こんなこと、初めてよ。この人の持つ美貌が、ただの姿形だけでなく、皮膚やその細胞の美しさと繊細さと、それに宿っているオーラが読み取りのための精度が、今までになく、高く要求されているのよ。
いつも通りの読み取り方をしていたら、その読み取り方があまりにも粗いと判断されて、センサーが吹き飛ばされてしまったんだわ。
何かに例えるなら、海岸の砂を、ふるいにかけて細かい綺麗な砂だけを残そうとしたのに、ふるいの目が粗過ぎて、雑多のものが紛れ込んでしまったような感じね。もっともっと精度を上げて、そのふるいの目を細かくして読み取らなければ、その読み込みの質の悪さに読み込む前に、拒否されてしまうんだわ。」
すると、実務も、感じていた。
やはり、そうだった。それが、きっと、放つオーラの違いも如実に物語っているんだわ。コトールルミナス人の血によって果てしないまでの美貌を得ているオービスが、その美貌を皮膚だけでなく、細胞レベルまで繊細で美しくなっていることこそが、今回の読み取りにまで、大きく影響しているんだわ。恐ろしいまでの、美の奥深さよ。




