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1-1 流れ着いた美女

モデル事務所のモデルラボは、とても忙しい日々が続いていたが、事務所直属のカメラマンの蓮津光はすづひかりは、今日は、やっと久しぶりの休日を楽しんでいた。ふと海が見たくてやってきたのだが、つい色々と写真を撮ってしまい、なかなか気持ちまで、休日にはなりそうもない。


海岸には、大きな流木が見える。流木なんて、初めて見る蓮津は、写真を撮ろうと近づいてみる。すると、よく見ると、その上には、女性が横たわっていた。急いで駆け寄る蓮津。


まず、顔を見てみると、日本人のように見える。年齢はというと、20才か10代か、という感じで、とにかく、とても、綺麗な顔をしている。それに、蓮津は、モデル事務所に出入りしているので、綺麗な人はほぼ見慣れているはずなのに、こんなに綺麗な人を見て驚いたのは久しぶりである。身体にそっと触れてみると、温かいので、脈をとってみると、どうやら生きている。それに、見たところ、怪我もしていないようだ。気を失っているだけなのだろうか。


「大丈夫ですか、大丈夫ですか。」

とりあえず、一応声をかけてみた。

「う、うーん。」

お、おおっ、気がついた!

「あ、あなたは誰?ここは、どこですか?」

「私は、今日、仕事が休みで海にきたら、あなたが倒れていたので、来たところです。大丈夫ですか。」

「えーと、ここは、どこですか?」

「ここは、島戸海岸ですよ、あなたは、どこから来たんですか?お、お名前は?」

「名前?覚えてないわ。どこから来たかもわからない。」

「何も覚えていないんですか。とりあえず、病院にいきましょう。」

都内の自宅までは、何時間かかかるが、家の近くには、知り合いの町医者がいるので、そこに連れて行くことにした。

車中で、色々と聞いてみた。

「あなた、流木の上にいたんですよ。船に乗っていたのですか?それで事故にあったとか。」

「ごめんなさい。私、本当に、何も覚えていないんです。」

何を聞いても、覚えていることは何もない。見た目が日本人のようでもあるし、普通に日本語を話すので、日本人であることに何の疑いもなかったのだが、ただ一つ、着ている服が、あまり日本では見かけるものではなかった。コスプレなのだといったら、それで、もう疑いようもないのだが、海岸に流れ着いた人が、コスプレは考えにくい。


町医者に着いた。彼女は、車中で休んでいるうちに、見た目は少し回復したように見えた。

「ごめん下さい。蜂部先生いますか。」,

蜂部康彦はちぶやすひこ、35才、なんだって、昭和の町医者そのもの。曲がった事が大嫌いで、蓮津光とは、昔からの付き合いで、蓮津から頼りにされている。


「おおっ、久しぶりだな、蓮津君、だいぶ顔見せなかったな。おおっ、誰だ、彼女か?な、なんだ、なんだ?!」

実は、驚くのも無理もない。彼女は、すごい美人なのだ。自分も、最初、海岸で初めて彼女を見た時、正直言って、身体の具合よりも、その圧倒的な美貌に、先に気持ちがやられてしまい、身体のことを気づかうのが遅れてしまったのだ。どうやら、先生も、同様に、見事にやられたらしい、絶対にそうだろう、今の反応は。

「ど、どうしたんだ?こ、この人は、誰?」

先生のうろたえぶりが、言葉にも現れてる。

「島戸海岸で、倒れていたんです、波打ち際で。それで、全く記憶がなくて、名前もわからないんです。ちょっと診てもらえますか。」

「わ、わかった。とりあえず、診てみよう。」

色々と検査をしたり、具合を聞いてみる。

「蓮津君、色々と診てみたけど、頭にこぶが少しできてるから、きっとそのせいで記憶喪失になってるんだな。MRIで調べたが、それ以外は頭は大丈夫だ。他には、外傷もないし、特に心配はないと思う。何日か休んだ方がいいが、それで大丈夫だ。」

「そうですか。よかった。ありがとうございます。」

「うん、それはいいんだけど、これからどうするんだ?」

「えっ?」

「そうだよ。彼女、どうするんだ?警察に行くのか?」

すると、彼女は焦ったような口調で、

「すみません。私、警察には行きたくないです。どうか家にしばらくおいてもらえませんか。」

考え込む蓮津だったが、しばらくは様子を見てもいいかなと思った。だが、しかし、気がついた。私は、男性35才独身である。

「うちに何日か、いてもらうのは、かまわないけども、僕は、独身で男の1人暮らしだから、若い女性と一緒に住むのは、ちょっと困ったな、君もそれは困るでしょう。」

「ううん。私は、蓮津さんさえよければ、かまわないですが、いいですか?」

すると、蜂部は、

「おう。じゃあ、おいてやればいいだろう。こんな美人と、一つ屋根の下じゃ、一日仕事が終わって帰ったら、疲れも吹っ飛ぶな、はははっ。」

「そんな、からかわないで下さいよ。じゃあ、しばらくいてもらうことにします。」

「ありがとうございます。家事とか、なんでもやりますよ。」

そう言って、にこっ、と微笑んだ顔が、まるで天使のようだった。もちろん、天使など見たことないけど、もしもいたら、こんなに綺麗なんだろうなと思うのであった。蓮津は、これからどうしようと困った一方で、こんな綺麗な人がうちに来るなんて、なんだか夢でも見ているようだった。


しかし、テレビや雑誌、ネットなど、特に、人を探しているような情報もないし、とりあえず、体調がよくなったら、事務所でコスメに相談してみよう。

その美人は、結局、何も覚えていないので、すべて見た目からの判断なのだが、とにかく1番に目につくのは、その美貌である。それに、とにかく若い。20才前後といった感じで、とても上品であり、汚れを知らないというか、純粋無垢で、今回の蓮津との同居、いわゆる独身男性と同居するというのに疑いが全くないのである。いいところのお嬢さまというのが1番ぴったりであった。


そして、浜辺に流木と一緒に流れ着いた時から、着ていた服が少しボロボロになっていたので、結局、そのことも合わせて、モデル事務所の社長である呼称コスメこと、小染真希こぞめまきに相談をすることにした。

「というわけで、病院で診てもらったけれど、記憶喪失になっていて、何一つ覚えていないんです。名前も、どこの国から来たかもわからない。他には、怪我してるとか特に悪いところはなかったですね。」

「なるほど。わかったわ。とにかく、このままじゃかわいそうだわ。着替えさせてあげなきゃね。それにしても変わった服を着ているのね、あなた。」


買い物に、渋宿107に連れていき、着替えを色々と買ったコスメ。蓮津は、彼女がとりあえず、今、着替えるものだけを買うのかと思ったのだが、コスメは、次々となんだか色々と買っていた。

「そんなに、一度に買わなくても、、、。」

「いいのよ、いいの。この子を見ていると、本当に綺麗さがあふれていて、これも似合うかな、あれも似合うかな、とか、色々と着てみてほしくなってしまって、つい買ってしまったのよ。笑顔が、またいいわね。」

いや、ほんと、そんなに買わなくてもいいのにと思いつつ、しかし、コスメの言うことは本当にもっともなのだ。本当に、その美しさに引き込まれてしまう。 また、コスメは、仕事目線で、

「この子、とんでもないことになるかもしれない。」

しかし、この予感、見事に的中してしまうことに、、、。


その後、彼女は、蓮津の家に同居することとなり、側から見ると、まるで奥さんかのように、家事をこなして、記憶がないとはいえ、甲斐甲斐しく働く彼女。ここでの生活にも慣れてきた。しかし、相変わらず、メディアには、彼女を探している情報もなかった。


すると、ある日、蓮津が、彼女に、

「実は、昨日、君にモデル事務所に、一度来てほしいって、コスメに言われたんだ。」

「私に?何かしら。」

それは、蓮津と同居して、ちょうどひと月が経った頃だった。

「よく来たわね。待ってたわよ。こないだは、来たばかりで、あなたも落ち着かないと思ったから、ひと月待ってたのよ。実は、お話しがあってね。まあ、お話しっていうか、お願いっていうか。」

蓮津も一緒に話しを聞いているが、これは、もしかしたら、という感じは、コスメが彼女の服をたくさん買い込んでいた時から、その予感がしていた。


「実はね、今、蓮津さんの家にお世話になっているでしょ。だけど、なかなか記憶も戻らないし、メディアにも情報が流れていないから、残念だけど、まだまだ家に戻るまでには時間もかかると思うのよ。」

うーん、コスメは、率直には言い出しにくそうだ。無理もない。

「そこで、あなたの世話をしている蓮津さんには、このままでは申し訳ないと思うでしょ。思うわよね。そこでね、、、。」

んっ、そこで?

「そこで、うちの事務所で働かない?モデルとして。」

あっ、やっぱりそうきたか。

「あなた、とりあえず、記憶も戻らないから、このままじゃ不便だろうし、あなたさえ、よければだけど、どうかしら?」

すると、

「私に、モデルができるか、ちょっとわかりませんが、もし、できるなら、お願いします。私も働かないと、光さんに申し訳ないし。」

「あら、あなた、光さんって呼んでるのね。仲良いじゃない。まあ、いいわ。それじゃ、あなたは、今日から、セシル。セシルがモデル名よ。まあ、普段でもその名前にしたら。記憶が戻るまでは。」

「セシル。いい名前ですね。気に入りました。頑張りますので、宜しくお願いします。」

「よかった。これで決まりね。その気になれば、トップモデルになれるわよ。私が太鼓判を押すわ。あなたのような人、今まで見たことないもの、おそらく、10年に一度、いや、それ以上かもしれないわ。」


そして、数ヶ月の研修を終えて、無事、モデルデビューを果たしたセシルは、瞬く間に、モデルとして才能を発揮してゆく。彼女は、元々、その美貌は特出しているのだが、その表情の豊かさが見る者を圧倒する。まさに、メディアにでるのがうってつけな人材であったのだ。そして、彼女は、記憶がないことからも、出身国が不明だが、あえてそのままメディアには、出身国未公表とすることが、逆にミステリアスで話題となったのである。そして、デビューから、半年でトップモデルとして登り詰めていった。

モデルラボには、セシルへのCMや大イベント、大手の会社の広告などについての問い合わせが殺到している。

そして、モデルとして、他の追随を許さない存在にまでなったのであった。


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