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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

骨硬拳士は異世界をゆく ~ご都合主義は地球に捨ててきました~

作者: 三茄子

新作です!!


 俺はずっと憧れてきた。

 チートやらハーレムやら、ご都合主義満載の異世界で俺つえーってのを。



 転生したら何でも喰える体になってました、とか。

 ガチャを回してスキル大量ゲットだ、とか。

 女神様に最強スキルを付与され勇者として魔王を倒す、とか。



 まず美人の女神様に出会って、その後超強い奴隷を仲間にして、そして、そして……



 なのに俺の異世界はどうしてこうなってしまったのだろうか。



 こんなことなら、いっそ地球で平和に暮らしたかったのに……



 ◇◇◇



「はぁはぁ、ふー…… 」



 硬く冷たい木を背にしながら、俺は必死に息を整えている。

 幸いここは森の中で、木の裏など隠れるところは多い。

 もう何分かも分からないくらい走ったのだ。流石に撒けただろう。



「グギャギャギャ」


「—————ッ……なんで、こんなッ……」



 そのしゃがれた鳴き声を聞いて、俺は絶望する。

 ここまで執拗に追ってきたのだ。アイツ—————ゴブリンは。



 緑色の体に醜悪な顔。切れ長の耳と赤い瞳を持つ魔物。

 当然人間の言葉が通じるはずもなく、意思疎通は不可能。

 俺の手持ちはポケットに入っていたハンカチ一枚だけ。服は普通の高校生が着るような制服で、勿論防弾性や防刃性がある訳もない。



 つまり、武器も何もない俺は棍棒を持っているゴブリンになす術がないのだ。

 当然この状況、ゴブリンが俺のことを諦めて去ってくれる以外どうしようもない。



「グギャ?」



 ゴブリンの足音が近づいてくる。木の裏に隠れているため実際にどれくらいの距離があるのかは分からないが、それでももう10メートルもないように感じる。



「……去った、のか?」



 唐突に足音がやむと辺りは静寂に包まれた。

 鳥の鳴き声もしないことから、ここは異世界なのだと痛感させられる。



 俺が長時間に及ぶゴブリンとの攻防戦の終了に安堵し、額の汗をハンカチで拭おうとした瞬間、その時は訪れた。



「グギャ!!」


「ガッ……ぐう……」



(痛い!!痛い?なんでこんなに痛いんだ!?)

 俺は痛みで真っ白になりそうな頭を気合で元に戻し、目を開いた。

 すると、ゴブリンが横たわっている視点になった。いや、ゴブリンではない。俺が横たわっているのだ。



「殴られたのか……俺が?クソッ……痛すぎんだろうが」


「グギャギャ」



 顔を殴られたのか。手で顔をぬぐうと、鼻から出ている血が手にべったりと付着した。

 幸い脳震盪には至っていないようで、すぐに立ち上がることができた。



「どうする……?まともにやりやって勝てるはずもねぇし、かといって追いかけっこもダメだったじゃねぇか」



 思考がまとまらない。いや、頭と体が一致しない。まるで、誰かが自分を操作しているみたいに、自分の体が自分の物ではなくなった感覚に陥った。



 この場は逃げるのが最適なのだろう。頭ではそう分かっている。だが体が動かない。

 足が震えている。逃げても無駄だと本能が訴えかけてくる。



「ならどうしろってんだよ!!ナイフも銃も持ってねぇんだぞ!!魔法ってあるのか?どう使えばいいんだ!!誰か、誰か教えてくれよ……。なんだって、俺がこんな目に合わなくちゃなんねぇんだよ!!」



 俺は内に秘めた思いを吐露していく。

 明確な死が直面しているからだろうか。最後に何か言い残しておかないと後悔しそうな気がして。

 俺は荒ぶる感情に身を任せ、目の前のゴブリンを怒鳴りつけた。



「神様はなんでこんなことしたんだよ!!俺が何かやったってのか?俺はただの高校生で、何の力も持ってなくて、世界を救うなんて絶対に無理な人間だ!!万引きをしたことすらない善良な高校生を、どうして、なんでこんなッ……」


「グギャ?」



 お前は何を言っているんだ?という目つきでゴブリンは俺を見てくる。

 その姿に俺は言いようもない怒りを覚えた。

 そして、コイツが俺を殺そうとしているのだということを再認識せざるを得なかった。



「待ってくれよ、助けてくれよ……。ここはお決まりの展開だろ?冒険者とか森の住人とか、ど、ドラゴンとかが助けに来てくれるんじゃないのか?」



 じりじりとゴブリンに追い詰められていく。

 気が付くと、俺は崖っぷちまで追い詰められていた。下は流れの早い川が流れており、高さは二、三十メートルくらいだろう。

 当然、飛び込んだら即死だ。



「なんでだよッ……俺の罪、俺は何か罪を犯したからこんな試練を受けなきゃならないんだよな?そんなのッ……まさか、あれか?」



 俺は気が付いたら顔を歪ませて作り笑いをしていた。

 目からは涙が溢れ、視界がぼやける。ただゴブリンは確実にこちらへと近づいている。その赤い瞳が、俺の涙で光っているように見える。



「恋愛も自由にさせてもらえねぇのか……?別にいいじゃねぇか。妹に惚れ込んだっていいじゃねぇか!!実の妹だからなんだ!!血がつながっているからどうした!!手をだしてないんだ!!片思いなんだ!!だからいいだろうが!!何も知らねぇ野郎が人の気持ちに口出してんじゃねぇぞ!!」



 妹ははっきり言って可愛い。

 これは兄の贔屓目なのだろうが、それでも妹は世間一般的に可愛いと称されるレベルだ。

 かくいう俺もその遺伝子を受け継いでいるので、そこそこイケメンだと思う。告白だって、二回されたことがある。



 だがそれでも俺の気持ちは妹に向いている。

 叶わない願いだとしても、決して成就しない思いだとしても。

 俺はそれを永遠に胸にしまい込んで、一歩離れた所から妹の幸せを眺めていこうと思っていたのに……



「だけど妹は死んだ!!交通事故で、飲酒運転をしたクソ野郎に殺されたよ……。でも俺は何も出来なかった!!せめてその場にいればって何回後悔したか、てめぇに分かんのか!!」


「グギャグギャ」


「力が欲しかった!!だから異世界に憧れた!!物語の主人公の様に何でもできる力があったらどれ程良かったか!!蘇生魔法でも時間逆行でも、なんだっていい!!力が欲しい!!妹を守れるだけの、妹を生き返らせるだけの力が欲しいんだ!!」



 俺は目じりに溜まった涙を拭ってゴブリンを力強く睨みつけた。

 ただ覇気という概念はないのか、それとも俺にその手の力がないのかは不明だが、ゴブリンはどんどんこちらへ進んでくる。



 その時俺は見てしまった。地面に投げ捨てられたハンカチを。

 ゴブリンに踏まれて泥だらけになってしまった、白の生地に青い飛行機の刺繍が入ったハンカチを。

 あれは妹が俺の為に作ってくれたハンカチだ。中学校一年生の時だったか。裁縫の時間に作ってくれたんだ。

 その一年後に妹が死んだときは、ボロボロになるまであのハンカチで涙を拭った。



「それを、てめぇは、その汚い足で、妹の思いを、踏みにじったってのかァああああああああ!!」



 何も考えていなかった。恐怖や絶望はもうどこか彼方へと飛んで行ってしまっていた。

 ただひたすらに目の前の敵を屠る。それしか考えていない。

 反撃されたらどうしようとか、その前に自分の拳が届かなかったらどうしようとか、そんな小さいことはどうでもよかった。



 あのハンカチは、俺にとって妹の唯一の形見なのだから。



「これが神って奴が俺に与えた罰だってんなら、そんなふざけたモンは俺が全部まとめて沈めてやる!!」



 何処かで見たアニメに近いセリフを吐きながら、俺はゴブリンを殴り飛ばした。

 ゴブリンは数メートル吹き飛び、そのまま地面に仰向けに寝転がって動かなくなった。

 顔面を狙ったとはいえ、流石に死んではいないだろう。



「はぁ、はぁ、やってやったぞクソ野郎。喧嘩の仕方なんざこれっぽっちも知らねぇがよ、根性さえありゃ人間何でも出来んだよ」



 俺は落ちているハンカチを大事そうに拾うと、それをポケットに突っ込んだ。

 泥だらけなんて関係ない。もう手放しはしない。



「さて、どうしてやろうかクソ野郎」



 そう言いながら、俺はゴブリンが持っていた棍棒を持ち上げる。

 そこそこ重量があり、手にずっしりとした感覚がある。

 こんなもので殴られてよく死ななかったな、と自分に感心しながらも、ゴブリンを上から睨みつけた。



 ゴブリンは完全に気を失っているからか、微動だにしない。



「恨むなら、己を恨めよ……」



 そう言って俺が棍棒を振り下ろそうとした瞬間、脳裏に地球での記憶が蘇った。

 葬式場。つまり、妹が死んだ日だ。

 棺桶に入れられた妹と、今殺そうとしているゴブリンとが重なって見える。

 そして俺は、棍棒を振り下ろした。



 ゴブリンではなく地面に、だ。



「ここで殺したら、俺はあのクソ野郎と一緒じゃねぇか」



 吐き捨てるようにそう言って、俺はひとまずゴブリンから離れることにした。

 目が覚めたらまた追ってくるかもしれない。

 その前に近場の人気のある場所に着いておきたいのだ。……もしかしたら、人という存在が皆無である世界の可能性もあるが。



「これから妹を取り戻すってのに、返り血で真っ赤に染まった兄を見せる訳にはいかねぇからな」



 そう自分に言い聞かせて、俺は進む。

 たとえそこに道はなくても。茨の道だったとしても。

 ……そしてそこに人知を超えた存在が立ちふさがろうとも。



「折角ファンタジーな世界に来ることができたんだ。妹は必ず取り戻す。そこに立ちふさがるってんなら、どんな相手だろうと沈めてやるよ!!」



 俺は目の前にいるピエロを睨みつけながら右手を力強く握りしめた。



 ◇◇◇



「少々強引な手でしたが、ようやく対象をこの世界に召喚することができました」


「うむ、ご苦労」



 禍々しい石の城で、円形テーブルを挟んだ報告会が行われていた。

 主らしき人物に報告を行ったのは、暗殺メイドと呼ばれる27人の精鋭の内の一人だそうだ。

 それを王座に座って満足そうに聞く黒い影がいた。



 それは比喩や婉曲表現などではなく、本当に黒い影なのだ。

 男か女か、子供か老人か、そんなことも分からない。ただ絶大な力を持っているということだけを伺わせるその黒い影は、こちらを見つめてきた。

 実際に目がある訳だはないのだが、見られたことが直感的に分かる。



「何か言いたそうだな。許す。申してみよ」


「約束が違うじゃない!!手は出さないはずじゃ……!!」


「少し言葉を慎んだ方がよろしいかと」


「チッ……」



 私の首筋に短剣が当てられる。

 先程の暗殺メイドが動いたのだろう。音も風も発生していないのに、十メートル程度の距離を一瞬で縮めてきた。

 私はその行動に苛立ちを覚えつつも、言い過ぎたかと後悔する。

 この暗殺メイドは倒そうと思えば多少てこずる程度で倒せるのだが、その後の影が恐ろしい。



 あの黒い影には、私が数百人いたって勝てないだろう。



「よせ、仮にも我が軍の最高戦力ぞ。こんな痴話げんかで怪我でもされては困る。勿論、私の大切なメイドを殺されてはたまったものではないしな」


「殺さないわよ、それにあんたがいる時点で私の勝ち目はない」


「ククク……賢い選択だ」


「申し訳ございません。少しカッとなってしまいました。どうぞ何なりと罰をお与え下さい」


「構わん。言ったろう?私の大切なメイドが死なれては困る、とな」



 結構寛容なのか。私も暗殺メイドもあっさりと許されてしまった。

 そう言えば、こいつは一見冷徹そうに見えて味方には案外優しいということを忘れていた。

 先日もミスをした部下を降格処分で許していた。他の魔王ならこんなことは滅多にないだろう。



「それで、この件の弁解を聞きたいのだけれど?」


「あれは私が仕掛けたものではない。そもそも、ゴブリンなどという低俗な魔物を私が使役するとでも思ったか?」


「でもあの場所に召喚するってのは、本当に秘密事項だったじゃない。味方の裏切りかあんたが配置していたかしか説明がつかないわよ」



 この召喚は魔王軍の中でも特に忠誠心の高い上位の魔物にしか知らされていない。

 だが、そいつらは決してこの黒い影を裏切らない。それは私が一番よく分かっているし、断言できる。



 だったら残るは必然的に、コイツが考えた策謀にまんまと私が乗せられたということに他ならない。



「ふふっ……私は約束を守るタイプだぞ。それにいくらアイツがプランに必要だとは言え、お前を失う時のデメリットが大きすぎる」


「……それを信じるとして、一体誰がこんなことを?本気で始末しようってんなら、ゴブリン一体じゃ割に合わないと思うんだけど」


「それは私にも分からんな。だがまあ、誰であろうとこの私の邪魔をするものは容赦なく叩き潰すだけだ」



 プラン……それが何を意味するのか、最高戦力とうたわれる私ですら教えてもらえていない。

 勿論、暗殺メイドたちやその他軍団長も知らないだろう。



 だが何にせよ。これで私の目標にも一歩近づけるというもの。

 この機会はしっかりと有効活用させてもらうとしようかしら。



「しかし、私もそうだがお前も中々自己中心的な人物だ。アイツの人生よりも自分の欲望を優先させてしまうのだからな。ククッ……まあ、そこが良いところなのだがな」



 黒い影はそう私に告げた後、どこかへ消えていった。

 私は消えた影のいた玉座を眺めながら、腰に下げた剣を強く握りしめた。

 初めましての方は初めまして。

 別作品読んだことあるぜって方はお久しぶりです。

 三茄子と申します。


 さて、いかがでしたでしょうか?

 こちらの物語は長編版のプロローグにあたる話になります。

 それにしても人の名前が全く出てこなかったですね。

 全員『黒い影』とか『アイツ』とかで分かりにくかったと思います。すいません。


 主人公ですが、熱血系にしてみました。

 なろうでは珍しいですよね、熱血系って。

 でも最近のなろうはもう凝り固まって来たというか、新しい風が欲しいなあ~っていう思いで執筆した次第です。

 世間では、『なろうの主人公は大体同じ性格で違いが分からん』だの『主人公の行動動機が謎』だの言うアン……ではなく、素晴らしいアドバイスを受けることも多いので、っていう意味合いもあったりします。僕自身は凄い好きですけどね。チートハーレム物語も。

 後、もう既存のなろう(単純な俺つえー)だと有名な作品に埋もれちゃうんですよ。それが悩みどころです。(スライムとか蜘蛛とか不適合者とかetc…)


 かと言ってジャンプ主人公(名前出していいのかな?)とかだとまた面白みに欠けるなってことで、誰彼構わず救うのではなく、主人公が守りたいと思う人物を徹底的に守っていきます。逆にどうでもいい悪役がどうなろうと全く関係ありません。

 ですが、彼自身は人や魔物を殺しません。日本人としての倫理観もそうですが、彼は「妹にどう見られるか」を重視する人間ですので、妹に人殺し認定されたくないっていう思いもあります。

 セリフもクサイものを喋っていくので、性格含め「某ツンツン頭(分かる人には分かると信じている)」さんに似ている部分も多いですかね……(僕自身かなりあの作品に影響を受けている)


 さてお次に内容ですが、どうですかね?

 ゴブリンすら怪しい奴が異世界なんて渡り歩けるか!!って思われた方も多いんじゃないでしょうか?

 それもその通りなのですが、あれは初戦であるということもあり、まだまだ伸びしろあると思っています。


 チートなしとはいいつつも、某異世界王国内政主人公みたいに全く戦えない訳ではなく、そこそこ強いレベルにまで引き上げようと思っています。

 作中でも主人公が言ってましたが、「根性があれば人間意外と何とかなる」という論理(?)の元、主人公は鋼の精神と無敵の根性とダイアモンドの骨(少しネタバレ。タイトルにも「骨硬」ってなってるしいいでしょ)で戦います。基本武器は使いません。

 かと言って素手でドラゴン退治なんてまず無理なんで、彼を強化してくれる仲間を見つけるしかないですね!!


 皆さん気になっているんじゃあないでしょうか?

 『黒い影』の正体やいかに……って感じですか?

 ……違う?

 そうですよね。あの『最高戦力』と称された人は誰なのか?その目的とは……って所で短編での語りはこの辺にしておきましょうかね。


 それでは皆様。ここまで見て下さり誠にありがとうございました!!

 是非よろしければ、広告下の☆マークを黒く塗りつぶして頂けると、作者のモチベアップになります!!

 ブックマーク、高評価、コメント、誤字報告も受け付けております!!


 それではまた、長編版の方でお会いいたしましょう。


 長文ありがとうございました。

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