1ー4【行方知れずの相棒4】
◇行方知れずの相棒4◇
翌朝、日差しが入ってくるよりも早い時間。
「おい、起きろ馬鹿が……!!」
怒号なのではと思える程の声量で。
「う……ん」
そして丁度、テントを突き抜けてくるようにして、朝の日差しが顔を直撃し、嫌気を感じながらウィズは目を覚ます。
まるで寝起きの悪い子供のように目を虚ろにして、起こしてきた男を睨んだ。
「……寝起き悪ぃな相変わらず。もう時間だぞ。この前、町で聞いた話じゃあそろそろ北部に入るはずだ、そうなりゃ港までもうすぐ。急がねぇといけねぇんだろうが」
「そう、ですね」
ウィズは起き上がり、頭を振るって脳を覚醒させる。
外に出ると、コーサルがテキパキとテントを回収し始めた。
ウィズは簡易的に紋章術を使用し、水を発生させて顔を洗う。
(不便なものです。人体を得て、まさかここまで行動を制限されるとは……しかし眠い。能力だけだった時は、睡眠欲求など関係なかったのに)
ただの能力だった自分が、まさか眠りや食事を必要とするとはと、ウィズは不甲斐なく思っている。
二年前に【ラウ大陸】の最南端から強制的に旅立ったウィズは、何度も自分の不調のせいで旅を中断させていたのだ。その事を申し訳なく思うとともに、心底不甲斐なくも思っていた。
(赤メッシュにも、何度も気を遣わせてしまっていますし……)
レイモンド・コーサルは、口は悪いが案外まともだと分かった。
意外と義理人情に厚く、受けた恩はしっかりと返す。口は悪いが。
「終わったか?なら行くぞ……また【魔力溜まり】が活性化してるからな、戦闘は避けられねぇ」
「ええ、分かりました」
戦闘は、基本敵にウィズが行う。
コーサルも戦えるが、この【ラウ大陸】では話が違う。
魔大陸と呼ばれるこの場所は、他の大陸と違い魔物が強力だからだ。
コーサルは大きな荷物を背負い歩き出す。
ウィズはその後ろを進む。
「魔石は次の町で売って、船代にするんだよな?」
「はい。食費は最低限に、宿は取らずにテントで、これを二年続けた事で、早期にここまでこれたと言っても過言ではないでしょう」
強力な魔物だが、換金出来る魔石やドロップアイテムは質が悪い。
戦うには非常に効率が悪いのだ。
しかも道の大半が荒野であり、見渡しは良いが隠れ場所が少ない。
この大きな大陸にも関わらず、国という概念が存在しない魔の大陸。
それが【ラウ大陸】だ。
荒野を進む二人。
目的は同じ、【アルテア】に帰るため(コーサルは行ったことはない)。
「遠いなクソっ……」
「そう、ですね」
今日の進捗が思わしくない。
魔物との戦闘は五回。どれも強力なタイプで、ウィズが紋章術で倒した。
しかし、そのウィズの疲労の蓄積が酷かった。
「――ちっ」
(思ったよりも消耗してんな、肩で息しやがって。俺一人じゃこのクソ見てぇな大陸を渡るなんて出来ねぇ。だからこの女は必要不可欠……こんな事に二年も掛かって、ザルヴィネさん、いや……ザルヴィネの野郎が)
「すみません」
舌打ちを自分に対してだと思ったウィズが謝罪をする。
それがコーサルを更に苛立たせる……が、寸前で堪えた。
「てめぇが謝るんじゃねぇ。悔しいが、お前が居なきゃ俺はとっくにくたばってる。このクソッタレな大陸を進むには、絶対にお前が必要だ。だから俺は……お前をサポートしてんだろうがっ」
苛立ちも不甲斐なさも自分に対して。それはウィズもコーサルも同じだ。
しかしコーサルはそれを受け入れ、ウィズが自分に必要な存在だと認め、サポートに徹している。二年もの間。
「……赤メッシュ。感謝します……必ずや、【アルテア】に帰りましょう」
「――おう。って、俺はまだ行ったことねぇけどな」
【ラウ大陸】北端はもうすぐ。
二人は己の目的のため、この死地の脱出を目指すのだった。